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オリンピックで声を上げる選手たち~人種、ジェンダー差別に抗議する背景にあるものは

暮らし
日本のメダルラッシュで盛り上がる東京オリンピック。無観客開催、マスク着用など異例の大会になっているが、もう一つ大きな動きがある。選手たちがオリンピック理念に基づき、人種やジェンダー問題に声を上げ始めたことだ。毎日新聞論説委員の元村有希子さんがRKBラジオ朝の情報番組『櫻井浩二インサイト』で解説した。

 

櫻井浩二アナウンサー(以下、櫻井):今回のオリンピック、選手たちが人権問題について発信している点が特徴ですよね。

 

元村有希子さん(以下、元村):サッカー女子のイギリスとチリの戦いで、試合前に選手たちが片膝をつくというポーズをして話題になりました。これは人種差別への抗議を示すBLM(Black Lives Matter)運動「黒人の命も大事だ」という理念に共感を示しています。これはイギリスが提案して初日から始まりました。日本のチームも、先月24日の試合の際にイギリスと共に片膝をつくという場面がありました。アメリカ国内では、アメフトの試合で片膝をつくという行為は以前からありましたが、オリンピックでは長くタブーでした。

 

櫻井:オリンピック憲章では、人権問題も含めて政治的な声を上げることは禁じられています。

 

元村:政治的中立であることが(憲章に)明記されています。1968年メキシコ五輪の時、陸上男子200mで金メダルと銅メダルを取った黒人選手が、表彰台の上で抗議活動をしたことで、IOCに処分されたり、帰国後に栄誉を与えられなかったりしたということがありました。そうしたことが原因で、オリンピックでの政治的活動は封じ込められていたのです。しかし、選手からの声が高まったこともあり、IOC側が今年7月に新たなガイドラインを作りました。それは「特定の人や国を標的にしないのであれば、政治的活動を許容する」という内容です。そこで早速、選手たちが行動を起こしたのです。

 

櫻井:片膝をつく行為以外にもさまざまな運動がありました。

 

元村:ドイツの体操女子選手が、チームユニフォームをレオタードではなく、足の先まで隠れる「ユニタード」にしたということで話題になりました。これは女子選手がレオタードを着ることによって性的な視線で見る人がいて、画像の一部を切り取ってSNSで拡散されることへの抗議です。

 

櫻井:オリンピックでこのような行動が起こっていることについて、関係者からどんな声が上がっていますか?

 

元村:これは時代の流れでもあるかと思いますが、好意的にとらえています。先ほどの女性に対する視線についても、組織委員会のジェンダー平等推進チームのメンバーは「今まではオリンピック報道に関して、女性には“美しすぎる○○”“ママでも○○”などの形容詞が付くことがあり、パフォーマンスより容姿や女性性が重視されている」と会見で指摘していました。今回の大会は全選手団の半分が女性という、過去最高の女性比率で、その点から考えてもジェンダーに関して意識が高まっていると言えます。また、五輪が掲げている人権問題についてですが、人種やジェンダーなど、あらゆる差別問題を選手自ら声を上げて解消していこうという姿勢が強調されている大会になっていると思います。

 

櫻井:こういう動きが、これからも盛んに行われるようになりますね。

 

元村:さらに、メンタルの問題を告白する選手が増えています。アメリカ体操女子のバイルス選手は「もう耐えられない」と、一部の競技を欠場しました。これまで選手というのは、鋼の肉体と心、メンタルも強いことが求められていましたが、今は選手から口にできるような環境になっています。大会期間中のSNS投稿が推奨されるようになったことが背景にあります。大会中の不安定な気持ちを選手が直接発信できる環境になって、見守る側も選手の気持ちを知ることができるようになりました。また、影響が大きかったのは、テニスの大坂なおみ選手が、うつ状態を告白したことです。彼女はBLM運動に積極的に参加し「アスリートも人間で、人権に対して発言する権利があるのだ」ということを体現しました。そのことで、大坂選手のような行動が標準になってきました。これが東京大会のレガシーになり、次からオリンピックの運営が民主的になると思います。

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