PageTopButton

歴史の扉をこじ開けた|アナウンサーコラム

無観客での開催など、異例の東京オリンピックが幕を閉じた。コロナ禍での開催に感謝を述べる選手たちの言葉が印象に残る中、スケートボードや空手など初めて採用された競技が新鮮で、興味深かった。しかし、私が一番しびれた瞬間は、陸上女子1500メートル田中希実選手の8位入賞だった。

日本にとって「世界の壁」に阻まれてきた中長距離種目。21歳の田中選手が、出場自体も日本選手初で、決勝に残り、世界と競い合ったレースは、歴史の扉をこじ開けたと言っていい。しかも準決勝で、4分を切る3分59秒19で日本記録を更新、決勝でも4分を切り、2本続けての好記録もまた快挙だ。

4年前、選抜女子駅伝北九州大会の取材で、私は西脇工業高校の田中選手に話を聞いた。高校時代からその走りは注目されていたが、今と変わらぬ落ち着いた雰囲気で自分の考えを言葉にしていた。「長所は、勇気を持って攻めていけるところ」「どんなレースでも最後まで落ち着いて、レースを捨てることなく一本一本大切にしていく」。当時の私の資料に残されていた言葉だ。そのスピードを生かし3000メートル、5000メートル、1万メートルのレースまで、常識を超えた挑戦を続けてきた。

今回のレース後にも「今までの常識、自分の中の常識も覆せた」と話した。次は、どんな常識を覆してくれるのか楽しみだ。

8月21日(月)毎日新聞掲載



田中友英 RKBアナウンサー。 京都府京都市出身。
担当番組:連続ラジオドラマ「家族びより~シアワセの高取家~」エキサイトホークス など。

この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう