PageTopButton

牛が守る!「千年の草原」

阿蘇郡産山村で暮らす井信行さん(81)は60年以上「あか牛」を育てている。 阿蘇の広大な草原は、そこに暮らす人たちの営みで、千年もの間維持されてきた。 しかし近年、畜産農家は減少し、放牧される牛も減っている。
そんな中、井さんは昔ながらの方法で牛を育てている。

放牧を主体とし、与える餌は、自家製の飼料米や阿蘇のおからなど地元産だ。 水も近くの湧き水。どれも目に見えるものばかりで、安心だと井さんは言う。 牛にも、地元でとれた新鮮なものを与えることが大切だと井さんは言う。

井さんが育てたあか牛は日本あか毛和牛協会から熊本県初の三つ星認定を受けるなど評価も高い。 今、井さんは、阿蘇の広大な草原を守るために新たな取り組みをしている。ひとつは、新しい畜産農家を増やすための活動。元手が少ない新規参入者でも畜産ができるよう、廃棄処分となるジャージー牛の雄の子牛を安く手に入れ、美味しい牛に育てる取り組みだ。 もうひとつが牛用のGPSの開発。草原に放牧した牛の位置を確認するだけでなく、健康状態や発情時期も把握できる装置だ。 阿蘇に続く千年の草原を守るために奮闘する井さんの姿を追う。

<取材先データ>
担当者:井 信行
住所:熊本県阿蘇郡産山村田尻216
電話:0967-25-2035

取材後記


自然豊かなのどかな村、阿蘇郡産山村で65年畜産を行っている井信行さん。
81歳とは思えないバイタリティ、そして好奇心に驚かされた。 世界農業遺産に認定された阿蘇。そこで営まれる農業や草原の維持が高く評価された。 とはいえ、その風景は大きく変わってきている。以前は阿蘇の草原にたくさん放牧されていたのは 熊本特有の牛「あか牛」だったが、今では黒牛の姿が増えている。あか牛は赤身肉でヘルシーと言われているが、 消費者が好むのはサシという脂肪分が多い肉。そのため黒牛に移行する畜産農家が増えているのだ。

井さんは決して黒牛を否定はしない。いろんな牛があって良いとも言う。 井さんがこだわるのは美味しい肉を阿蘇の草原で作ること。放牧を主体にし、出荷前に牛舎で与えるエサは可能なかぎり地元産。 こうした阿蘇育ちの牛たちが増えるように今でも新たな挑戦を続けている。 今回、井さんの取材中に聞いた周囲の声は「まきこまれた」というものだ。
井さんのバイタリティ、好奇心に突き動かされて、周囲が動く。 それが牛用のGPSの開発と新規参入者のジャージー牛の飼育だ。 実験用に育てていた井さんのジャージー牛は東京のレストランに出されることが決まった。

千年維持されて来た阿蘇の草原。あか牛、黒牛、そしてジャージー牛がのどかに草を食む姿が、次なる「阿蘇の風景」となるのかもしれない。
担当:RKK熊本放送 久保田 泰代

この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう