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中国~ラオスの鉄道建設は「債務のワナ」ではなく「債権のワナ」!?

中国では旧正月=春節が近づいている。春節休みはふるさとへ帰る人たちで「民族の大移動」と言われてきた。その輸送の主力である鉄道、中国ではいま建設ラッシュが続いている。東アジア情勢に詳しい飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『櫻井浩二インサイト』で詳しく解説した。  

高速鉄道網は既に日本の12~13倍

中国政府が定めた今年の春節の大型連休(法定休日)は、1月31日~2月6日の7日間。政府によると、前後合わせた40日間に、のべ12億人が移動すると予測されている。ちなみに、コロナ前の2019年は同じ期間にのべ30億人が移動した。

移動手段の主力はやはり鉄道だ。中国の帰省ラッシュというと、すし詰めで長時間揺られて――というイメージだが、それは過去のこと。中国の高速鉄道(中国版新幹線)は全土に張り巡らされ、総延長距離は3万8000キロ。日本はミニ新幹線も含め、北海道から九州まで総延長約3000キロだから、実に12~13倍にあたる。2035年には7万キロにする計画もある。

ただ、高速鉄道はほとんどが赤字だ。中国の経済成長はインフラ投資によって維持されており、高速鉄道はその典型例といえる。鉄路をどんどん広げることで成長を維持するが、一方で債務も増えていくことになる。

“貧しい隣国”ラオスをほぼ縦断する鉄路を建設

今回の本題は、高速鉄道ではない。昨年12月3日に開通した、中国大陸のもっとも南、雲南省の省都・昆明から南に延びる鉄道についてだ。シーサンパンナ、プーアルといった山間部、へき地に初めて鉄道が通った。さらに国境を越えて、ラオスの首都ビエンチャンまでの約1000キロが同時に開通した。ビエンチャンの南50キロはタイとの国境だから、この鉄道はラオスをほぼ縦断していることになる。

ラオスは東南アジアでも貧しい国のひとつだ。ラオスの1人あたりのGDPは2630ドル(2020年)で、ASEAN10か国中8番目。ラオス国内のこの鉄道の総工費は国内総生産(GDP)の3割強に上る6800億円で、ラオス最大級の事業にあたる。その約7割を中国が負担し、残り3割をラオスが負担することになっているが、その大半が中国側の融資(借款)で賄われている。

ステレオタイプな「債務のワナ」批判は危険

中国による外国への融資は、アフリカ大陸を対象に行われたときに「債務のワナ」と批判された。この鉄道もラオスに対する「債務のワナ」なのだろうか?

私は今回は逆の見方をしている。中国は、ラオスが債務の返済能力に乏しいことは分かっているはず。別の国への借款は、さまざまな意図を持って行うのは、当然のこと。焦げ付きそうになれば、債務の免除も決断せざるを得なくなる。

中国政府も「債務のワナ」批判に反論している。「そもそもこの鉄道建設は、中国が提唱したものではない」とも言っている。確かに歴史を紐解くと、インドシナ半島の南北3000キロ=つまり、中国の昆明からラオス~タイ~マレーシア~シンガポールを結ぶ国際鉄道を提案したのは、1995年マレーシアのマハティール首相(当時)だった。

ラオス~中国間の鉄道完成に関する論調が「債務のワナ」の可能性ばかりを強調するのは、私は危険に感じる。中国へのステレオタイプなネガティブ・キャンペーンに陥らないよう気をつけなければならない。

肝心なことは、債務の超過、債務の相手を1か国に集中させないことだ。ラオスの二国間での債務残高の約8割は中国。国際的枠組みも活用し、ラオスなど途上国を支援することが欠かせない。

構想どおりに鉄道が延伸しなければ「債権のワナ」に?

前述のとおり、この鉄道はインドシナ半島を縦断させる構想だが、タイやマレーシアでは事業の遅れや計画凍結が相次いでいる。中国はインドシナ半島への人やモノの移動を活性化して、地域での影響力を高める狙いだったが、現在のところ、うまくいっていない。ラオスだけではその効果は限定的だ。

インフラ投資を通じて国内では地域格差の解消や経済成長を目指し、国外では対外戦略を連動させてきた中国だが、鉄道の場合は「つながる」ことで価値が生み出される。この鉄道建設は中国からすれば「債務のワナ」ではなく「債権のワナ」になるかもしれない。

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