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ウクライナ紛争をめぐりEU内で足並み乱すハンガリーの思惑とは?

ロシアによるウクライナ侵攻から50日が経過したが、依然戦闘停止の道筋は見えてこない。ロシアへの制裁措置がさまざまな分野で進んでいるが、ロシアと距離的にも近いEUも一枚岩とは言えないようだ。その一例が東欧の国・ハンガリーだ。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した飯田和郎・元RKB解説委員長が解説する。  

ロシア・中国と「特別な関係」築こうとしているハンガリー

輸入に関しては、G7がロシア産石炭の輸入停止で合意した。イギリスやドイツは原油についても、ロシアからの輸入しない方針を打ち出している。世界銀行の発表では、ロシアの実質経済成長率は今年、マイナス11.2%の見込み。国内の消費意欲は確実に減退している。戦闘が長期化すれば、制裁の効果は高まるという見方があるが、その一方で、政府の統制や介入によって一度は大きく下落したロシア通貨のルーブルはこのところ上昇し、侵攻前に戻った。

ロシアと距離的にも近いEUも一枚岩とは言えないようだ。その一例がこれから紹介する東欧の国・ハンガリーだ。ハンガリーはソ連の崩壊前、ソ連の衛星国だった。過去の教訓からロシアとは一線を画し、EUやNATO(=北大西洋条約機構)に加盟しているが、ロシアや中国といった権威主義国家、強権主義国家と「特別な関係」を築こうとしている。ロシアを脅威とみている、他の東欧諸国とは違う道を往く。

ハンガリー政府は今月6日、ロシアから輸入する天然ガスの取引代金を、ルーブルで支払う方針を明らかにした。EUの欧州委員会は、ロシア側が求めるルーブルでの支払いを拒否しているが、EU加盟国から足並みの乱れが表面化したと言える。ハンガリーは、独自の対ロシア政策=「東方開放政策」を掲げている。これは政治や経済の分野で、ロシアと密接な関係を築こうというもの。経済分野では、輸入する天然ガスの7割をロシア産が占めている。また、ロシアから融資を受けて、原子力発電所を拡張する計画もある。この建設はロシアの国営原子力企業が請け負っている。

ウクライナ難民を受け入れているハンガリーの思惑

そのハンガリーは、ウクライナと約140キロに渡って国境を接している。避難してきたウクライナ人を積極的に受け入れていて、その数はポーランドに次ぐ。従来からハンガリーは、ウクライナを含む周辺国に住むハンガリー系住民への支援を強化してきた。第一次世界大戦に敗れ、領土の5分の3を失ったハンガリーは、ハンガリー系の市民約1500万人のうち、約300万人がウクライナなど隣国に住んでいる背景がある。

例えば、ウクライナ西部に約14万人のハンガリー系住民が存在するザカルパッチャという州がある。ここは第一次大戦後にチェコスロバキア領になった後、一旦ハンガリーに戻ったものの、第二次大戦後にソ連が占領し、ソビエト連邦を構成したウクライナに組み込まれたという複雑な歴史を持つ。もともと自国の領土だったこれら地域の学校に、ハンガリー政府は資金援助をして、ハンガリー語教育を実施している。またウクライナのハンガリー語メディアに補助金も出している。さらに、国外に住むハンガリー系住民に市民権と選挙権を与える法律を制定した。

当然、ウクライナとしては面白くない。ウクライナ政府は、教育現場でウクライナ語の学習を義務づける法律を制定して対抗している。ハンガリーとウクライナの間で摩擦が広がっているのだ。

隆盛を誇ったハンガリー復活を夢見るオルバン首相

現在、ハンガリーを率いるオルバン首相は非常に民族主義的色彩が濃い。隆盛を誇った「第一次大戦前のハンガリー復活」を夢見ている。だから、自国民と国外のハンガリー系住民の一体感、言い換えれば民族意識を高揚させるような施策を講じている。過去には国外からの難民・移民の受け入れを拒んできたハンガリーだが、ウクライナからの難民の受け入れは別。「同胞の保護」という意味合いを持つ。

ウクライナに住むハンガリー系住民(=ウクライナ国籍)はオルバン首相を熱烈に支持し、そのほとんどがハンガリーの総選挙で、与えられた選挙権を行使して、オルバン氏が率いる与党に投票してきた。実は、ハンガリーでは今月3日に4年に一度の総選挙が行われたばかり。政権与党が圧勝し、4回連続の勝利となった。民族主義的色彩が濃いオルバン首相が続投するわけだ。

オルバン首相が手本にしているロシア・中国

オルバン首相は「ウクライナにいるハンガリー系住民は不当に差別されている」と、どこかで聞いたことがある主張をしている。そう、プーチン大統領がウクライナ東部のロシア系住民について主張していることとそっくりだ。オルバン首相は、ウクライナのゼレンスキー大統領と互いを非難し合ってきた。その一方で、経済分野を中心にロシアのプーチン大統領と連携する動きを取っている。そんなハンガリーは、EUのほかの国の懸念材料になっている。

そのオルバン首相が秋波を送る、もう一人の相手が中国の習近平主席。ウクライナ問題では中国の対応が焦点の一つだけに、話はさらに厄介だ。オルバン氏は2014年に、こんな発言をしている。

「国を成功させるのは、おそらく民主主義ではない。成功者はシンガポール、中国、ロシアなど、だからだ」
3つの国に共通しているのは、圧倒的に強い与党が長年政権の座にあること。オルバン氏はこれらの国々を手本に「非自由民主主義=自由でない民主主義)」を目指すと宣言している。

中国との関係深めるハンガリー

ハンガリーは、中国の「一帯一路」構想に、ヨーロッパの国々の中でいち早く賛同している。また、新型コロナウイルス対策では、ハンガリーはEUの中で唯一、中国製のワクチンを承認し、支援を受けた。昨年2月にはオルバン首相が中国製ワクチンの接種を受けるパフォーマンスも演じて見せている。

首都ブダペストにはオルバン首相肝いりで、中国を代表する大学の一つ、上海にある復旦大学の分校がヨーロッパで初めて建設される計画もある。中国からすれば、関係の緊密化が進むハンガリーは「ヨーロッパへの入り口」になっている。

歴史を絡めた民族問題を叫ぶ指導者には注意

ハンガリーといえば、世界史の教科書で習った「ハンガリー動乱」が思い浮かぶ人もいるだろう。1956年、ソ連の支配に対してハンガリー市民が蜂起し、ロシア軍の武力鎮圧で多くの犠牲者が出た。実はオルバン首相も、東欧の民主化が進んだ約30年前、ソ連を非難する民主派のリーダーだった。それが政界入りしたのち、180度転向・変節した。

プーチン大統領は「スラブ民族の復権」を掲げ、習近平主席は「中華民族の偉大な復興」を唱え、そして、ハンガリーのオルバン首相はかつてのハンガリーを夢見る。歴史を絡めた民族問題を叫ぶ指導者には要注意だ。

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

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