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中国・禁止薬物の取り締まり強化と日本への影響をウォッチャーが解説

6月26日は、国連の「国際麻薬乱用撲滅デー」だった。日本では6月20日から7月19日までの1か月間、キャンペーンとして『ダメ。ゼッタイ。』普及運動が実施されている。厚生労働省や都道府県などが、薬物乱用を禁止する啓蒙活動の一環だ。禁止薬物の売買、使用は当然ながら、日本だけの問題ではない。隣国・中国の麻薬事情について、東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で紹介した。

取り締まり強化の効果をアピール

国連の「国際麻薬乱用撲滅デー」に合わせ、中国の最高人民検察院(=日本の最高検察庁に相当)が記者会見を開いた。それによると、中国全土で禁止薬物に関する罪で検挙・逮捕された者は、2018年1月から今年5月までの5年5か月間で37万3,000人にのぼっている。

参考までに日本では、厚生労働省の最新の統計によると、2021年の1年間に薬物事件で摘発されたのは1万4,408人。このところ、横ばいが続く。

中国の人口は日本のおよそ10倍だから単純比較はできない。だが、最高人民検察院は「その数字は減っている。取り締まり強化の効果が現れてきた」と総括している。裏を返せば、かつては薬物がもっと社会に巣喰っていたといえる。

取引の巧妙化や低年齢化が目立つ

問題はここからだ。検察当局は、最近の薬物に関係する事犯の傾向をいくつか挙げて、警鐘を鳴らしている。

まず、タイプの異なる薬物が次々と出現している。例えば、合成薬物はその名前や種類は絶えず変わり、よりカモフラージュされやすくなっている。もちろん、当局も対策を取る。新しい合成薬物が流通しているのを発見した場合、すぐにリストアップする。だが、全体として薬物に関する犯罪事案のうち、新型の薬物が占める割合は急速に増加している。危険ドラッグと呼ばれる薬物もこの中に含まれる。

もう一つの傾向は、インターネットを使った禁止薬物の取引だ。密売人たちは一般に、電子決済のシステムを多用する。すなわち、「非接触方式」。「人、薬物、カネ」のプロセスを分離している。電子決済し、薬物を宅配するという方法が目立つという。捜査の手が及びにくく、巧妙化している。

さらに、傾向として麻酔薬、それに向精神薬を含んだ薬物に関する事案が増加している。当局の薬物取り締まりを強化するにつれ、麻薬グループの方は、従来型の麻薬の代替品として麻酔薬や向精神薬を密売するケースが目立ってきたという。

最後に、犯罪の低年齢化が著しい。未成年を含めた若い世代が、合成麻薬に手を染め、そして、犯罪を重ねる。つまり累犯が増えつつあるという。

いくつか紹介してきたが、とくに宅配方式で、薬物を受け渡す方法がもっとも厄介なようで、当局は中国の郵便、宅配業者に繰り返し、通知を出している。2022年、この宅配方式による麻薬の受け渡しに関連し、全国で3,000人以上を起訴したという。日本以上に電子マネー決済、ネットショッピングが浸透する中国だけに、という印象がある。

大麻生産拠点の国境エリアが重点地域

広大な中国のどのエリアで、とくに南部の雲南省が麻薬犯罪摘発の重点地域になっている。山岳部を中心に、大麻など危険薬物の栽培が長く行われてきた。また、雲南省は陸続きで、ミャンマー、ラオス、ベトナム、タイの4か国と国境を接する。

「ゴールデン・トライアングル(黄金の三角地帯)」と呼ばれる地域名を聞いたことがあるだろう。タイ、ミャンマー、ラオスの3国がメコン川で接する山岳地帯で、長く大麻の生産拠点だった。雲南省はここからも遠くなく、国境を越えて密輸入されることもある。

中国の西域、新疆ウイグル自治区からも、大麻製品が都会へ込まれることもある。ウイグルと国境を接するアフガニスタンは、イスラム主義勢力タリバンが支配する。アフガンは、アヘンやヘロインといった麻薬の原料となるケシの世界最大の産地だ。

国連薬物犯罪事務所(UNODC)によると、アフガンでのアヘンの生産量は、世界の8割を占めるという。アフガンからウイグルへの密輸ルートも指摘されている。中国当局はこれら辺境地区を中心に、薬物撲滅運動を続けてきた。

危険を伴う麻薬組織の取り締まり

麻薬組織の取り締まりは当然、危険も伴う。今月26日の「国連国際麻薬乱用撲滅デー」に合わせ、中国共産党機関紙「人民日報」が、殉職した英雄のストーリーを掲載した。

雲南省で、麻薬取り締まりを専門にしたある警察官は、麻薬組織のアジトを単身で襲い、摘発に及んだこと24回。合わせて密売人19人を逮捕し、禁止薬物を合わせて51キロも押収した。最後は犯罪組織に殺害されてしまうが、その時、彼は拳銃の引き金に、指をかけたままだったとされる。

書き残した日記には「人々の幸せのために私の血が流れることをいとわない。薬物取り締まりの職務に粉骨砕身したい」と記されていた。職務に殉じた人生は賞賛すべきだが、やや当局による宣伝のにおいも感じてしまう。

雲南省では1982年に、中国で初めて麻薬取り締まりの専門チームが設立された。それ以来、この雲南省では合計60人が麻薬組織との戦いで命を落とした。300人以上が負傷したという。

日本と中国との「共闘」は不可欠

中国と日本の間で、禁止薬物取り締まりで、協力できる分野もあるだろう。インターネット上やSNSの悪用、さらに隠語を使って大麻や、合成薬物の密売が横行するなど、若者が簡単に薬物に手を出しやすくなっている状況は、日本も中国もよく似ている。

警視庁や埼玉県警などが6月に発表した事件だが、中東のUAE(アラブ首長国連邦)から覚醒剤を密輸したとして、日本在住の中国籍の男女4人が逮捕された。運んだ船は中国経由で、東京港に着いた。コンテナから覚醒剤約700キロ、末端価格にして434億円相当が見つかり、押収されている。

今回押収された700キロの覚醒剤は、昨年1年間に全国で押収された総量を超える規模だ。1回の押収量としては過去2番目に多い。つまり、現場は日本だが、中国人が関与したとされる事案も少なくない。

このほか、日本での密売に、中国に拠点を置く組織の関与が疑われるケースもある。日本に入った禁止薬物を回収する、いわゆる「受け子」を、SNSを通じて、闇バイトとして勧誘される例が多い。日本の法律の規制が及ばない海外のインターネットサイトが使われているのだ。ICPO(国際刑事警察機構)を通じて、日中両国の間での情報交換が欠かせない。

◎飯田和郎(いいだ・かずお)
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

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