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「反省のためにジェンダーの番組に出たい」女性への“嫉妬”が“悪意”に変わった墨汁男

肩まである髪を後ろにまとめた平井英康被告(33)は12日、誰かを探していたのだろうか、傍聴席にいる人たちを確認しながらこれまでの審理と同じように無表情で法廷に入った。成人式で振り袖に“墨汁”のような黒い液体をかけて回った男だ。被害額は計75万円。懲役1年2か月の実刑判決を言い渡された。犯行の動機は「性の違和感」だったという。そう、平井被告は自身が“性同一性障害”であることを法廷で告白していた。しかし、それがどのようにして女性に墨汁をかけ、晴れの舞台を台無しにすることにつながるのだろうか。平井被告から記者に届いた手紙には、LGBTQの人たちの“生きづらさ”を訴える内容とともにテレビ番組に出演して「実体験を伝えたい」と綴られていた―。

 

取材:RKB報道部 下濱美有

検察官の言う『LGBTQの考え方は進んでいる』は本当?

一連の審理の中で私が気になったのは検察官が平井被告に投げかけた質問だった。苛立ったような強い口調だった。

 

検察官「本当に性同一性障害ですか?LGBTQの考えは進んでいますよね?」

 

この下りのみではやや突飛に感じられるかもしれないが、検察官としては国内でもLGBTQの人たちに対する理解が進んでいることをあげ、犯行の理由にはならないことを被告人の口から語らせたかったようだ。平井被告は「(社会の理解は)進んでいるけれど、相談できなかった」と小さな声で返した。

 

日本社会でLGBTQの考えがどこまで進んだかはさておき(少なくとも私は進んだとは思っていない)、私は、平井被告が心の内で悩んでいることがあったのかもしれないと接見を申し込んだ。返ってきたのが1通の手紙だった。

「私と放送局が協力してジェンダーの悩みを発信したい」

手紙の要旨は下記の通りだ。

「反省の一つとして1つだけお願いしたいことがあります。ジェンダーについての番組を制作して私が出演することは可能ですか。私の実体験や感じた思いを私自身の生の声でたくさんの人に伝えたい、他にも私と同じようなジェンダーの悩みを持たれている方々もたくさんいるということを知ってもらいたい。今後ジェンダーについて環境がととのいジェンダーの方々が生きやすい環境になるきっかけを目標として私自身と放送局等が協力して発信していきたい」

 

文面からLGBTQの人たちを取り巻く環境に強い課題意識があることがうかがえる。反省と謝罪の言葉もあった。一方で、心が肉体的な性と一致しないことによる“生きづらさ”が、どのようにして若い女性に対する“攻撃”につながったのか。「屈折」が生じた詳しい経緯は綴られていなかった。

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