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「障害者を“雇用”したら売り上げが急増した」 廃業も検討していた水産加工会社 

慢性的な人手不足に悩み廃業を検討していた福岡市の水産会社が、売上の急増に転じました。危機的な状況を救ったのは「障害者」 ほんの小さな意識の変化が企業に大きな変化をもたらします。

福岡市にある水産加工会社「福岡丸福水産」 魚を切り分け、独自の味噌につけ込むなど加工して、冷凍の状態で出荷しています。創業40年以上の歴史がありますが、長年、慢性的な人手不足に悩まされてきました。

地の利も悪く募集かけても人が来ない


福岡丸福水産・工場長 一木光成さん「箱崎ふ頭ということで交通の便が悪いんですよね。なかなか社員を募集しても集まらない。高齢化もあって、退職されたあとがなかなか入ってこないというのが現状でしたね」

魚を一定の重さに揃えて切り身にする作業は、ベテランの従業員が担っています。ただ、人手が足りない時は、真空パックや箱詰めといった出荷作業までこなしていたため、生産性が上がりませんでした。

廃業検討から一転 売り上げ急増 その理由は


丸福水産で現場主任を務める大坪よしえさんは、「人がいないので掃除の時には皆でバタバタ走り回ってするみたいな、そんな状況になっていましたね」と振り返ります。一時は廃業も検討していたという福岡丸福水産。しかし、2年ほど前から急激に売り上げを伸ばし、持ち直しました。そのきっかけになったのが障害者の力を借りたことでした。

RKB小畠健太記者「以前は全て社員が行っていた出荷に向けた作業を、現在は福祉事業所の利用者が職業訓練として担っています」

現在、真空パックにする作業や出荷用の箱を準備する作業は障害がある人たちが担当しています。ベテランの従業員は、熟練の技が必要な作業に専念しています。

「施設外就労」という形の雇用


福岡丸福水産を傘下におく「B∞Cグループ」社長の島野廣紀さんによると、福祉事務所の利用者は、「施設外就労」という枠組みの職業訓練いう形で水産加工会社に来ています。

B∞Cグループ・社長 島野廣紀さん「指示を明確にすること、きちんとした研修を行うことで、障害者の方も戦力になっていきます」
元々ラガーマンとして社会人チームに所属していた島野さんは、引退後に通信機器の販売会社を起業しました。ある日、取引先の社長から「就労継続支援A型施設」の創業を持ちかけられました。「就労継続支援A型施設」とは、障害者と雇用契約を結んで就労を支援する施設です。当時はまだ、福岡県内でも数件しかありませんでした。

「障害者は仕事ができない、と思っていた」


B∞Cグループ・社長 島野廣紀さん「僕自身が『障害者イコール仕事ができない』と思っていて、そのときは『障害者の方は仕事ができないから、僕はいいです』って断ったんです」

しかし、しばらく経ってから福祉施設を見学に行った島野さんは、衝撃を受けたといいます。

B∞Cグループ・社長 島野廣紀さん「見に行ったらどの人が障害を持たれた方なのか全く分からないくらいその事業所は活気があったんですよね。『もしかしたら、僕が思っていた障害者というのが実際とは全く違うんじゃないかな』と。そこで180度考え方が変わりました。逆にチャンスがある業界なんじゃないか、というのがスタートでした」

「チャンスのある業界だ」考え方を180度変えた


島野さんは10年前、就労移行支援を行う「Be Smile」事業所を立ち上げました。そして、商品用の箱を組み立て、いわゆる「箱折」作業などを行う「就労継続支援A型施設」や、障害者が暮らすグループホームなど、新たな事業を次々に立ち上げました。

さらに、高校の卒業資格を持っていない障害者が就職できるように、職業訓練を受けながら学べる通信制の高校も開校しました。

ぶつかった壁は事業拡大のきっかけに


全て順風満帆だったわけではありません。一般企業に就職した障害者が、環境に馴染めず
すぐに辞めてしまうことが続いたのです。

B∞Cグループ・社長 島野廣紀さん「就職しても半年、短い方では2か月でまた戻ってくるんです。じゃあもう少し自分たちが延長上で何かできないかと。延長上って何かといったら、一般企業です」

島野さんは、人手不足に悩んでいた企業とタッグを組みました。2020年1月に食品加工会社を、2021年6月に福岡丸福水産をグループに加えました。障害者が就労経験を積み、正社員としても働けるよう環境を整えたのです。

福岡丸福水産・現場主任 大坪よしえさん「仕事も『こういうふうにするんですよ』と伝えたらきちんとその通りにこなしてくれます。人手不足の時を経験しているので、社員は皆、『すごく助かるね』って話しています。彼らがいなかったらとてもじゃないけど回らないと思います」

「やりがい、後輩が続くように頑張る」


福岡丸福水産で、施設外就労として訓練していた石原健二さん(42歳)は、2022年12月に直接雇用され社員として働き始めました。職人のような先輩社員の姿に憧れを持ち、楽しみながら働いています。

石原健二さん「仕事が職人みたいな仕事じゃないですか、だから自分も先輩たちみたいに包丁使いのプロになりたいという夢ができました。やりがいがあって、自分の将来にもワクワクします。後輩たちが続くように自分が頑張って、ひっぱていけたらと思います」

雇用生み出す自動販売機事業も拡大中


B∞Cグループ社長の島野廣紀さんは今、冷凍食品を自動販売機で販売する事業も展開し、新しくできた商業施設など設置場所を増やしています。

B∞Cグループ・社長 島野廣紀さん「多くの製品、多くの冷凍自動販売機を置くことで多くの商品が売れ、多くの障害者雇用を生み出します。そういう仕組みを今つくっています」

「偏見持つ企業を変えたい」


「かつての自分のような偏見を持つ企業を変えていきたい」 今後も、障害者雇用の成功事例をたくさん積み上げることで、「障害者が戦力になる」ことを、広く伝えていきたいと話します。

B∞Cグループ・社長 島野廣紀さん
「受け入れ側の考え方や気持ちひとつで、義務の雇用、法定雇用率を満たすという『義務の雇用』から『戦力』に、切り替わります。スタッフの理解と協力があれば何十倍にも爆発するというか、障害者の方が活躍する場が増える可能性は十分にあると思います」

さらに詳しく【取材した記者が解説】

 

企業には従業員数に応じて、障害者を一定数雇用しなくてはいけないという「法定雇用率」が定められています。10年前には2.0%だったので、従業員50人以上の企業は1人以上雇用しなければいけませんでした。法律の名前どおり「雇用を促進する」ということで法定雇用率は年々引き上げられていて、2024年度は2.5%、2026年度中には2.7%まで引き上げられることが決まっています。これに伴って障害者の雇用数も伸びてはいますが、障害者が希望する職業に就くのは難しい状況は続いています。

注目される「施設外就労→直接雇用」というステップ

 

すぐに思いつくのは求人を出して面接などで選考して採用する方法だと思います。この方法でも問題はないのですが、今回取材した福岡丸福水産のように、「施設外就労」いわゆる職業訓練で受け入れてみるという方法もあります。就労継続支援A型・B型施設に作業を委託すると、施設の利用者と支援する施設職員が一緒に依頼元の企業を訪れて作業してくれます。依頼した企業は、利用者が働いた時間に応じて賃金を支払う必要がありますが、障害者の働きぶりや必要な配慮について確認することができます。障害者にとっては、自分に合う職場かどうかを体験することができます。つまり、企業も障害者も「おためし」ができるわけです。お互いを把握し理解したうえで「雇用」という次のステップに進むことができるので、定着しやすいというメリットがあります。今回取材したB∞Cグループ・社長 島野廣紀さんも、障害者雇用を検討している企業に「ぜひ活用してほしい」と話していました。

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この記事を書いたひと

小畠健太

1983年生まれ、岡山県出身。2008年入社。「寄り添った取材」をモットーに10年以上取材に取り組む。3児の父 趣味は釣りと楽器演奏