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「感謝リストに総統の名前がない!」熊本地震への海外支援と台湾

飯田和郎

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東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、8月3日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演。飯田さんが番組で語った「令和8年熊本地震」への海外からの支援と、台湾を巡る国際政治の複雑な背景について解説しました。

各国リーダーからのお見舞いと「ざわめき」の背景

マグニチュード7.1を記録し、気象庁が「令和8年熊本地震」と名付けた大地震。発生から3日で7日目、1週間を迎えます。現地での復旧作業が続く一方、全国から支援の手が差し伸べられていますが、その輪は海外にも広がっています。今回は、この地震にまつわる国際政治の断面を取り上げます。

熊本県での地震を知った各国のリーダーから、高市総理にお見舞いのメッセージが届きました。これらメッセージに対し、高市総理は自身のX(旧ツイッター)で日本語と英語を用いて、次のように感謝の意を示しました。

「多くの国の首脳を含め、世界中の皆様から温かいお見舞いと連帯のお言葉を頂いており、心から感謝申し上げます」 「日本国民は大変大きな勇気を頂いています」

そこには、お見舞いのメッセージを寄せてくれた韓国の李在明大統領をはじめ、フランス、イタリア、ブラジル、セルビア、ルーマニアの大統領や首相の名前が書き添えられていました。ところが、台湾の頼清徳総統の名前がなかったことから、台湾で、そして日本で、ある“ざわめき”が起きたのです。

台湾からの迅速なメッセージと深い結びつき

実は、台湾の頼清徳総統も日本に対して、地震発生からわずか数時間後という早さで、Xに日本語で次のようなお見舞いを発信していました。

「熊本県で先ほど発生した強い地震を受け、台湾の人々を代表して心よりお見舞い申し上げます。台湾と日本は苦難を共に乗り越えてきた真の友人です。私たちは現地の状況を注視しており、必要な支援があれば、いつでも協力できるよう準備を整えています。被災地の皆様のご無事を心よりお祈りしています」

日本も台湾も、これまで何度も大きな地震の被害を受けてきました。東日本大震災の際には、台湾から官民合わせて日本円で250億円もの義援金が寄せられ、被災地の復興や施設再建に役立てられたとされています。

さらに、九州、そして熊本は、台湾から距離的にも人的にも非常に近い存在です。菊陽町には台湾の半導体大手・TSMCの工場がありますし、阿蘇をはじめ台湾人観光客が多数訪れる場所が熊本県内にいくつもあります。経済や観光での結びつきがとりわけ強いため、熊本空港と台湾各地の間を飛来する直行便は毎日何便も運航されています。

台湾の人たちからすれば、「それなのになぜ、台湾の総統の名前がないのか」「タグ付けの対象から頼清徳総統を外されたのか」という悔しい思いがあったのでしょう。台湾のメディアがこの件を報じると、インターネット上でも「台湾を無視するのか」「台湾こそ、真っ先に名前を挙げるべき相手だったはず」といった声が相次ぎました。日本国内からも、東日本大震災の際の莫大な支援を引き合いに出し、疑問視する声が上がりました。

支援の動きはメッセージだけにとどまりません。頼総統、蕭美琴副総統、卓栄泰行政院長(首相に相当)という台湾政界のトップ3人が個人として、それぞれ日本円で約100万円を寄付しました。台湾外交部(外務省に相当)や民間企業の間でも、台湾市民に対して熊本の被災地向けの寄付を募っています。

外交上の壁と、「地域」という表現によるリカバー

日本にとって台湾は大切な友人ですが、日本政府は台湾を国家として承認していません。そのため、韓国やフランスなどの国家元首と同列には扱えないという外交上の壁が存在します。

日本と台湾の間で“ざわめき”が続く中、高市総理は7月31日(地震発生から4日目)、国際社会に向けて新たな御礼のメッセージを、日本語と英語の双方でXに発信しました。

「令和8年熊本地震に対し、今日現在で多くの国・地域、国際機関の皆様から、温かいお見舞いのメッセージや具体的な支援の申し出をいただいており、改めて深く感謝申し上げます」

ここで注目すべきは、「国・地域」という表現が登場したことです。日本語版を見ると、「国」と「地域」の間は中黒(・)で結ばれており、それに続く「国際機関」とは読点(、)でつながれています。つまり、中黒で結んだ「国・地域」は同グループであり、読点でつないだ「国際機関」とは扱いが違うことを示唆しています。

高市総理の投稿では、この後にアルファベット順でお見舞いを寄せてくれた国と地域、国際機関の名前が並びます。全部で63ある中で、台湾は56番目に記載されました。同じく日本政府が国家として承認していないパレスチナの次が台湾でした。

頼総統が真っ先に見舞いと支援申し出のメッセージを送ってきたものの、最初のお礼のリストに名前を載せられなかったことへの修正を図りたいという思いがあったのでしょう。すべての名前を列挙し、感謝のリストに台湾を入れたことで、日本としては「台湾からの心遣いに報い、頼清徳総統のメンツを保つ」というリカバーをしたと言えます。当然そこには、中国の反発を招かないように細心の注意を払いながらも、台湾には感謝の気持ちを伝えたいという複雑な外交的配慮が存在したはずです。

友情と相互扶助のあるべき姿

高市総理の2回目のメッセージに台湾の名前があったことで、台湾のメディアはこれを好意的なトーンで伝えました。台湾南部の都市である高雄市の陳其邁市長は、今回の出来事に際して次のように語っています。

「日本は災害対応に追われているというのに、こちらから『自分は感謝のリストに入っていたか』などと問うのは、友情や相互扶助のあるべき姿ではありません。私たちはただ、自分たちにできることを行うべきなのです」

まさにその通りだと思います。正式な国交があろうがなかろうが、友人が困っている時に心を寄せ、救援の手を差し伸べることこそがあるべき姿です。

熊本地震で亡くなった方のご遺族、被災されてこの猛暑の中で困難な状況にある方々、そして懸命に支援活動にあたる方々がたくさんいる中であっても、外交の世界では細心の注意と、時に思いがけない反応が生じることがあります。今回は、そんな熊本地震の裏側に映し出された、国際政治の一場面をご紹介しました。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。