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松尾潔「一刻も早く会見のやり直しを」ジャニーズNGリスト問題で提言

ジャニーズ事務所が開いた記者会見で「指名NGリスト」が存在していたことが発覚した。ジャニーズ性加害問題について早くからメディアでコメントしている音楽プロデューサー・松尾潔さんは「一刻も早く会見のやり直しを」と、10月9日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で提言した。

ジャニーズ事務所の「他責化」

10月2日に開かれたジャニーズ事務所の記者会見の生中継は、NHKと民放4局の総計で19.3%という視聴率だったそうです。かなりの注目度でしたが、ある意味あの会見の内容以上に、その後の1週間に起きたことは興味深かったので、そのことについてお話します。
 

この記者会見を仕切ったFTIコンサルティングが、指名する記者のNGリストを用意していて、かつ指名候補のリストも用意していたことがわかりました。ジャニーズ事務所が関与しているかどうかは関係なく、こうやって忖度は起きるのだ、という例を、我々は目の当たりにしました。
 

ジャニーズ事務所がリストの作成に関与したかどうか、現時点では認めていないということですが、それを断言するところに、今回のいろんなことの本質が凝縮されているような気がします。つまり「他責化する」ということです。
 

冷静に考えるまでもなく、ジャニーズ事務所にも、FTIにそういう業務を外注した時点で、責任の一端はあります。ジャニーズ事務所にしてみれば「頼んだところが勝手にあんなに先走っちゃって、こっちは迷惑ですよ」と言いたいのでしょう。
 

「それはお気の毒」とも言えなくはありませんが、逆の見方をすれば「そんな会社かどうか精査することもなく頼んでいたの? 企業としての危機管理能力はどうなっているの?」ということでもありますよね。

今、時代のジャッジに対峙せざるを得ない

同業者のリアルな意見もどんどん出てきています。「コンサルがクライアントである発注元の意向を無視して先走ることはありません」と冷静にコメントしている方もたくさんネット上にいます。改めて今いろんなことが可視化されているんだなと思いました。
 

ジャニーズ事務所は、インターネットでの内部告発がまだなかった頃にできたビジネスモデルを頑なに守ってきました。番組の制作発表ひとつとっても、ジャニーズ所属のタレントが1人でもいれば、その写真が(ネット上で)使えないことがずっとまかり通ってきました。ずいぶんと遅れはしましたが、時代のジャッジに今、ジャニーズ事務所は対峙せざるを得ないということなんだと思います。
 

こういう例は、身近にもたくさんあると思います。「世の中変わったけど、あそこだけは変わってないね」って言われていた、昔のやり方でずっとやってきたところが、ついに屈したみたいな。中学・高校の運動部の古いしきたりもそうですよね。その一番凝縮された例が、ジャニーズなのではないかと思いました。

一刻も早い会見のやり直しを

今回、ジャニーズとの縁が深いと言われてきたNHKの動きが活発です。やはりNHKの中にもいろんな人たちがいて、いろんな現場で戦っているんだということを改めて思いました。「NGリスト」の存在も、夜7時のニュースのトップで扱っていて、あれにはちょっとびっくりしました。
 

NHKはジャニーズ事務所のビルの看板を撤去する作業もニュースで流していましたね。あれを見て、例えばウクライナでレーニン像が撤去されたことや、「Black Lives Matter」のムーブメントがアメリカで起こったときに、奴隷制擁護の象徴だった南北戦争の南軍兵士の像を引き倒したこと、そういうことに近い印象を受けました。こうやって時代は変わっていくんだなと思いました。
 

会見のことに話を戻しますが、やっぱり一刻も早いやり直しをやった方がいいですね。ジャニーズ事務所にとっても、事実以上のあらぬ疑いや、風評被害的なものを受けているかもしれません。
 

何よりも今こうやって騒がれることで、被害者への救済や、本当に人権に最も重きを置いた行動をしているかどうかをジャッジしづらい感じになっています。「ジャニーズ憎し」で報道しているのではないかと捉えられかねないような言説も飛びかっていますから、早い段階でやり直しの会見をやって、正すところは正すべきだ思います。

井ノ原さんの発言で記者が分断された?

次の会見が開かれれば、1社1問形式は採用しないと思いますが、質問する側も節度を持ってほしいと思います。前回は騒々しい場面もありました。あのときの井ノ原さんが「どうかどうか落ち着いて。お願いします」と呼びかけましたが、「子供たちのために」と理由を加えたことが、あざとすぎるんじゃないかという声が上がりました。僕もそう思います。
 

それにしてもほかの記者から拍手が起きたのはびっくりしました。「それはジャーナリズムの衰退だ」という声もありますが、あまりに騒がしかったから、それを諌めるような、しかもジェントルな対応をする井ノ原さんに、思わず拍手してしまったというのが本音の人もいたのだろうと思います。
 

でも、そういう心理になること自体がもう異常でしょう。井ノ原さん自身は何か効果を狙ってのことじゃないと否定するでしょうが、ああいうところで冷静さを保つのは、取材する側も難しいんだということを感じさせる出来事ではありましたね。
 

この会見の場面で思い出したことがあります。トランプ政権下の2018年、大統領と欧州委員会の委員長の記者会見で、アメリカCNNの女性記者の発言が問題視されて、ホワイトハウスがこの記者にそれ以降の会見の出席を禁じることがあったんです。
 

ホワイトハウスの広報担当者、日本で言えば官房長官側近辺りから通告を受けたことになるんでしょう。そのときホワイトハウスの記者クラブは、CNNはもちろん、普段CNNと敵対するような報道も多い保守系のFOXニュースでさえも、みんなでこの記者をかばって、「出禁にするようなことはあり得ない」という意思を見せたんです。
 

その出来事とは対照的に、今回のジャニーズ記者会見の現場は、記者たちがバラバラに分断されて、それは気をつけなきゃいけないなと思いました。たしかに騒然とした人たちに対して、「なんでこんなに騒ぐんだ」と思うのは当然のことかもしれません。
 

しかし、ここは新製品の発表会見とかではないわけですよ。会社の不祥事、疑念とか疑惑があって、それを釈明するための会見だったのに、それを追及する側の人たちが分断してどうするんだっていうことです。

フェアかアンフェアかでジャッジ

以前も話しましたが、正しいか正しくないかという見極めは、本当に難しいなと思っています。RightとWrongは立場によって違います。そういうとき、どういうふうに考えるのが一番いいかというと僕は「フェアかどうか」を自分に問いかけるようにしています。
 

RightかWrongかではなく、FairかUnfairか。それも絶対ではありませんが、まだ幾分冷静なジャッジに繋がるんじゃないだろうかと、経験上思っています。あなたも、あの拍手が起きたときに、自分だったらどうするかを考えてみてください。
 

好感度の高い井ノ原さんに手紙を読ませることもフェアかどうか。やはりいろんな意味で、タレントが報道に関わったり、会社経営やスポークスパーソン的なことをやったりすることは危険だという一つの例ができた気がします。
 

以前、井ノ原さんが出演する番組で共演したことあるんですが、本当に気持ちの良い方でした。僕だってあの会見の場にいたら、やっぱり彼の好感度に酔ってしまっていたかもしれません。

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