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人気スポーツのサッカーが汚職まみれ…中国の協会トップに無期判決

飯田和郎

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ドジャース大谷翔平選手の通訳だった水原一平氏による違法賭博疑惑が連日大きく報じられている。スポーツにまつわるカネの話といえば、隣国・中国で注目の裁判の判決があった。東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長が3月28日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で紹介した。
 

中国サッカー協会の元トップが17億円の収賄で無期判決

3月27日、中国で注目の裁判があった。中国中部、湖北省の地方都市の裁判所で判決が言い渡された。中国の新華社通信の記事から引用する。

湖北省黄石(こうせき)市の中級人民法院は26日、収賄の罪に問われていた元中国サッカー協会主席、陳戌源(ちん・じゅつげん)被告に、無期懲役の判決を言い渡した。

合わせて、政治的権利の終身はく奪、全財産の没収。さらに収賄によって違法に得た金銭を全額、国庫に納めるよう命じた。

中国サッカー協会の主席、つまり協会のトップだ。中国の通貨・人民元で、総額8103万人民元。日本円に換算すると、現在のレートでおよそ17億円の賄賂を受け取っていたという。

無期懲役の一審判決を受けた陳被告は、2010年から2023年の間、サッカー協会主席などの地位を利用して、大会の運営に便宜を図るなどを繰り返してきたという。出入りする業者や、大会やリーグ戦は「儲かる」と群がる者たちの要求を受け入れ、その見返りとしてカネを受け取っていたのだろう。

この陳被告は、上海で港湾に関する企業グループのトップでもある。そちらでも様々な便宜、さらにはサッカー協会の利権をちらつかせ、私腹を肥やしていたようだ。報道によると、17億円のうち、日本円にして8000万円は、「約束だけで、逮捕された時は受け取っていなかった」と裁判所は認定している。

それにしても巨額だ。ただし、中国の高級幹部による収賄事件は過去、もっと額が大きいケースが少なくない。変な言い方だが、「中国では驚くほどの賄賂ではない」と言っていいかもしれない。日本にいる我々から見ると、悪事のスケールが違う。

人口13億人の国の人気スポーツ…同じ穴のムジナだらけ

中国のプロサッカーリーグのシステムは日本と同じで、カテゴリーごとに分かれている。最も上のリーグは、「スーパー・リーグ」という名称。2004年に始まったから、今年でちょうど20年になる。日本のJ1と同じスーパー・リーグは現在、全国の16チームで構成されている。

サッカーは中国でもバスケットボールに次ぐ人気スポーツだ。人口13億の人気スポーツだけに、利権も多く、規模が大きい。そうなると、利権に群がる者もいる。最も大きなカネが動く最上位のスーパー・リーグにはどのクラブも参入したいはずだ。

陳被告は、大きな権限を持つ協会トップとして、公正さ阻害する行為をしていた。具体的には一部のクラブに便宜を図って昇格させたり、一部の者にトップの権限でポストを与えたりしていたようだ。

こうした悪事を働くトップを、戒める部下はいなかったのか。実は戒める者がいないどころか、「同じ穴のムジナ」がいる。陳被告が無期懲役の判決を受けた同じ日。このスーパー・リーグの運営会社の社長が、同じように収賄で、懲役8年の判決を受けている。ほか数人の協会幹部も有罪判決を受けた。

もっとひどいのが、男子の代表チームの監督だった男が、賄賂を贈ってその代表監督に就任していたことも、過去に明らかになっている。李鉄(り・てつ)という元代表監督だ。代表監督ポストを得るために賄賂、日本円で4000万円を渡していた。その相手が、これまで話してきた中国サッカー協会のトップ、陳戌源元主席だったというから、腐敗があちこちでつながっている。

この李鉄・元監督は現役時代、イングランドのプレミアリーグのチームにも所属していたほどの名選手だった。この元監督は2021年、代表メンバーの選考で、実力不足の選手4人を選び、その見返りにその選手たちの所属チームに巨額の賄賂を要求し、受け取っていたこともあった。

サッカーファンが習近平政権を支える一因に

底なし沼のような、中国サッカー界の腐敗。肝心の中国代表チームの成績はというと、2026年ワールドカップのアジア2次予選、「中国代表対シンガポール代表」の試合が3月26日夜、中国の天津で行われた。「日本対北朝鮮」の試合も、平壌で行われる予定だった日だ。

FIFA(国際サッカー連盟)のランキング88位の中国は、シンガポールに、4対1で勝った。2次予選4試合を終えて、中国はグループ4か国のうち、第2位。同じ組には韓国もいる。サッカー熱の高い中国だが、中国の男子代表チームがワールドカップ本大会に出場できたのは、2002年の日韓大会ただ1回だけだ。それ以降の5大会は出場できていない。

組織が賄賂で、ガタガタ。これでは到底、勝つことはできない。中国のファン、サポーターは歯ぎしりしているだろう。話は少し違う角度になるが、習近平政権は、徹底した腐敗撲滅運動を進めている。そのキャンペーンが、サッカー界にも及んだ。国民は、治安を最優先する今の政権のやり方に、息苦しさを感じているが、中国社会で格差が広がる中、腐敗撲滅に対しては支持している。つまり、習近平体制を支える一因にもなっている。

ファンとしてはなかなか結果の出ないサッカーのナショナルチームを強くするためにも、膿を出し切ってほしいと願うのは当然だ。一方、習近平政権は、自分たちの権威を高めるために、分野にかかわらず、汚職撲滅を徹底的に進めるだろう。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。