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「100歳まで生きてみたくなった!」明るいおばあちゃんの映画が快進撃。「一人暮らしだけど一人じゃない」――。そんな哲代さんの101歳から104歳までの日々を追ったドキュメンタリー映画『104歳、哲代さんのひとり暮らし』が、各地で満員御礼となる異例のヒットを記録しています。RKB毎日放送の神戸金史解説委員長が、監督らの舞台あいさつを取材し、513日放送のRKBラジオ『田畑竜介Grooooow Up』でその魅力を紹介しました。
リリー・フランキーのナレーションで

映画『104歳、哲代さんのひとり暮らし』は、広島県尾道市の山あいに1人で住む石井哲代さんの日常を、JNN系列の中国放送(RCC)が捉えた作品です。先週末からはKBCシネマ(福岡市)と小倉昭和館(北九州市)でも上映が始まり、5月30日からはシアター・シエマ(佐賀市)でも公開されます。
ナレーション:リリー・フランキー
監督・編集:山本和宏
撮影:的場泰平 筒井俊行
音響効果:金田智子/整音:富永憲一
プロデューサー:中村知喜 古田直子 出雲志帆 髙山英幸
統括プロデューサー:岡本幸/制作:RCC
協力:RCCフロンティア/公益財団法人民間放送教育協会 中国新聞社
後援:広島県 尾道市 府中市
ナレーションは福岡県出身の俳優、リリー・フランキーさんが務めています。予告編では、哲代さんの飾らない言葉と、リリー・フランキーさんの温かい語りが印象的です。
「INGで行きます」という哲代さんの前向きな姿勢が、映画の大きな魅力の一つです。元小学校教員である哲代さんは、83歳で夫を見送ってからも、近くに住む姪や地域の人々と助け合いながら、いきいきと暮らしています。
石井哲代さん:1920年、広島県府中市上下町に生まれる。 20歳で小学校の教員となり、26歳で同僚の良英さんと結婚、尾道市へ。 56歳で退職してからは、民生委員として地域のために尽くしてきた。近所の人たちからは今も「先生」と呼ばれる。83歳で夫を見送り、ひとり暮らしに。 100歳を迎えたころから“人生100年時代のモデル”として地元の新聞やテレビで紹介され注目を集める。
「一人暮らしだけど一人じゃない」

映画は、雑草をむしったり、いりこの味噌汁を作ったりと、100歳を超えた哲代さんの普段の暮らしを丁寧に映し出します。家の前の坂道を後ろ向きに降りる姿からは、転ばないように工夫する知恵が垣間見えます。この哲代さんの日常は、地元の中国新聞社で連載され、書籍化したものは20万部を超えるベストセラーとなっています。
※石井哲代・中国新聞社著、文藝春秋刊『102歳、一人暮らし。哲代おばあちゃんの心も体もさびない生き方』(2023年)、『103歳、名言だらけ。なーんちゃって』(2024年)
歌うことも大好きな哲代さんは、映画の中で大正琴を弾きながら自作の歌を披露します。
♪備後尾道 中野へ寄って 聴いてお帰り 大正琴の…♪
『中野ソング』(作詞:応地実雄、作曲:石井哲代)
「中野」は哲代さんが住む地域名。ご当地ソングを作ってしまうほど、豊かな感性を持っています。
哲代さんは、「ありがとう、ありがとう」と感謝の言葉を常に口にし、できることは自分でしようとします。体調を崩した際には入院したり、姪の家に身を寄せたりしますが、回復するとまた一人暮らしに戻ります。その日記には「一人暮らしだけど一人じゃない」と綴られており、周囲との温かい繋がりを感じさせます。
取材スタッフが「みんなファンになっちゃう」
5月10日には、北九州市の小倉昭和館で舞台あいさつが行われ、RCC中国放送のプロデューサー・岡本幸さんと、監督の山本和宏さんが登壇しました。
岡本幸・統括プロデューサー:私は夕方の情報ワイド番組のプロデューサーをしていて、「哲代さんを取材しない?」とお声かけいただいて、2022年から撮影が始まりました。哲代さんは100歳を超えた頃から、地元の新聞で不定期で特集されるぐらい地元では有名な方だったんです。その時のディレクターが山本監督です。
山本和宏監督:映画の背骨が哲代さんの何気ない会話とか、冗談だと思うので、そのまま皆さんにお伝えしたいと思って撮りました。広島では「スーパーおばあちゃん」として大人気なんです。おいしく市販のお茶をいただいたりとか、ちょっとものぐさなとこもあったりとか、そういったところが親しみを持てたり。取材に行くスタッフがみんなファンになって帰っていく感じでした。
統括プロデューサー 岡本幸:1974年、大阪府出身。1998年から、RCCでテレビ・ラジオのディレクター、記者として勤務。ラジオ番組『核と向き合う~ヒロシマからフクシマ~』(2011年)、民放連盟賞最優秀、『日々感謝。ヒビカン』(2012年)でギャラクシー賞大賞を受賞。
監督・編集 山本和宏:1987年、広島県出身。『世界の車窓から』やNHKのドキュメンタリー番組を制作。『これがおれたちの伝統 ~人と鳥がつないだ450 年~』(2021年)、『被爆樹木の声を聴く ~広島の永遠のみどり~』(2022年)で、ともに民間放送教育協会長賞。
『この世界の片隅に』すずさんの5歳年上

映画には、80年前の教え子たちが集まった同窓会に出席する哲代さんの姿も描かれています。当時の子供たちは皆88歳となり、「米寿」を迎えています。会場で「先生!」と声をかけられると、哲代さんは「こんなおじいちゃん、いたかねえ?」とユーモアたっぷりに応じ、会場は笑いに包まれます。
哲代さんが大きな声で出席名簿を読み上げ、おじいさん、おばあさんが元気よく返事をする様子や、『仰げば尊し』を指揮しながら歌う姿は、感動的です。
「哲代さんのように年を重ねたい」
アニメ『この世界の片隅に』の主人公・すずさんは、生きていれば100歳の設定ですが、1920年生まれの哲代さんは、すずさんの5歳年上。三船敏郎、森光子、原節子と同い年です。舞台あいさつの聞き手を務めた小倉昭和館館主の樋口智巳さんは、映画を観て「哲代さんのように年を重ねて生きたいと思った」と感想を述べました。
樋口智巳・小倉昭和館館主:今回作品を拝見して、「年を取るのも怖くない」と思われた方もいらっしゃるんじゃないでしょうか。「哲代さんのように年を重ねて生きたい」と私も思いましたが、監督の思い、作り手側の思いもそこにあったのでしょうか?
山本和宏監督:「100歳まで生きたい」という方が2割ぐらいしかいないというデータを見つけ、驚いたんですけど、「僕もそうかもしれないな」と思いました。哲代さんにヒントをもらえたらいいなと思いましたし、僕も100歳まで生きたいなと思うようになりました。哲代さんにお子さんがいらっしゃらなかったこともあるんですが、妹のひ孫さんに車椅子をしてもらう、若いころには想像しえない幸せに出会えることが、長生きすればあるなと見せてもらった。米寿を迎える教え子さんと同窓会なんて、思いもしないですよね。そういう出会いに出会えるんだなというのを見て、本当に勉強させてもらったなと思います。
岡本幸・統括プロデューサー:自分が去年50歳になって、「腰が痛いのがずっと続くな」とか、「かすみ目だと思ったら老眼だった」とか、どちらかと言うと「未来というのは暗い色になっていくんだ、しょうがない」と思っていたんですけど、哲代さんの姿とか振る舞いを見てると、ふわっと気持ちが軽くなって。なるようにしかならないし、私の周りに助けてくれる人いるかもしれないという気持ちにもなっていくんですよね。広島だけの放送って止めておくにはもったいないし、今私みたいに辛い気持ちになる人はたくさんいらっしゃると思えたので。周りのママ友に聞いてもそうですし、会社の先輩もそんなこと言ってるし、みんなに見ていただけるような形に作ったら、何か意味があるんじゃないか」っと山本監督とも話して、哲代さんの魅力なら後押しがもらえるんじゃないか、と映画にしました。
だんだんとできなくなることが増えていく中でも、「まだこれはできる」「あれもできる」と自分で行動しようとする哲代さん。2025年4月29日、哲代さんは無事に105歳の誕生日を迎えました。
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この記事を書いたひと

神戸金史
報道局解説委員長
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。