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中露「歴史」蜜月で結束誇示…日本の政治家発言が思わぬ影響?

飯田和郎

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5月8日、中国の習近平国家主席がロシアを訪問し、プーチン大統領との蜜月ぶりを国際社会に印象づけました。その裏で、同じく5月上旬、日本の政治家による「ある発言」が波紋を広げています。国際情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが5月12日、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演し、「中露の接近と日本の政治家の発言、一見無関係に見えるこの二つの出来事が、実は深く結びついている可能性がある」とコメントしました。

赤の広場での異例の光景

5月8日、習近平主席はモスクワでプーチン大統領と首脳会談を行い、翌9日には赤の広場で行われた対ドイツ戦勝80周年記念の軍事パレードに参列しました。このパレードには、ロシア軍の最新兵器に加え、13か国の兵士が行進。その中には中国人民解放軍の兵士の姿もありました。

プーチン大統領のすぐ隣でパレードを閲兵した習主席。式典には20か国以上の首脳が参加しましたが、習主席だけがプーチン大統領のすぐ近くに座っていました。この特別な配置は、両首脳の親密な関係を如実に示していると言えるでしょう。

習近平主席の「いじめ」という言葉

首脳会談で注目されたのは、習近平主席が頻繁に用いるようになった「言い回し」です。プーチン大統領との会談冒頭、習主席は「国際社会はいま、いじめに直面している」と述べました。この「いじめ」とは、アメリカのトランプ前大統領が各国に課した高い関税、いわゆる「トランプ関税」を指すと見られます。

中国メディアの報道によると、中露両国は、国際貿易の分断化や差別的措置、根拠のない貿易制限のリスクが高まっているとの認識で一致。「一部の国」による無差別な関税賦課が、すべての国の正当な権利と利益を侵害しているとの見解を共有しました。名指しこそ避けていますが、この「一部の国」がアメリカであることは明らかでしょう。

ただ、ウクライナ侵攻によって西側諸国から経済制裁を受けているロシアにとって、トランプ関税の直接的な影響は小さいと考えられます。むしろ、トランプ関税で大きな影響を受けているのは中国です。中国はロシアを前面に出すことで、アメリカの貿易政策を批判し、一方のロシアは、トランプ関税を例に挙げ、「アメリカこそが国際秩序の破壊者である」と主張することで、中露が共闘する構図が浮かび上がります。

波紋を呼んだ日本の政治家の「ある発言」

ここで注目したいのが、自民党の西田昌司参院議員による沖縄の「ひめゆりの塔」の展示説明に関する発言です。西田議員は5月3日、沖縄戦で犠牲となった女子生徒らを慰霊する「ひめゆりの塔」の説明について「歴史の書き換えだ」と主張し、物議を醸しました。

西田議員は、「『日本軍がどんどん入ってきてひめゆり隊が死ぬことになり、アメリカが入ってきて沖縄が解放された』という文脈で説明文が書かれてある。歴史を書き換えると、こういうことになってしまう」と発言しました。

しかし、ひめゆり平和祈念資料館は、「過去も現在も、西田議員の指摘したような展示はない」と否定しています。西田議員は当初、発言の撤回を否定しましたが、9日になって撤回し、謝罪しました。

中露共同声明が示唆する日本の立場

この西田議員の発言と中露関係には、看過できない関連性があります。中露首脳会談後、両国は関係をさらに深める内容の共同声明を発表しました。その冒頭には「中国人民の抗日戦争、そしてソビエト連邦の大祖国戦争の勝利、また国連創立80周年を記念して」と記されています。

共同声明の中には、次のような文言が含まれていました。「中国とロシアは、第二次大戦の勝利の成果を断固として擁護し、第二次大戦の歴史を改ざんしようとする、いかなる試みも断固として粉砕する」。さらに、「日本政府は歴史上犯した残虐行為から教訓を得て、靖国神社など歴史問題に関する言動を慎み、軍国主義と完全に関係を絶つべきだ、と中国とロシア双方は指摘した」と、日本を名指しで批判する内容も盛り込まれています。

戦後80年という節目の年に、中露両国は共同で第二次大戦の歴史を強調し、歴史認識問題で連携を強める姿勢を鮮明にしています。習近平主席は9月3日に北京で予定されている抗日戦争勝利80年の記念式典にプーチン大統領を招待しており、両国は歴史を共通の外交カードとして利用する意図が見て取れます。

日本国内の言動が国際関係に与える影響

習近平政権にとって、日本との歴史問題は外交における重要なカードの一つです。安全保障が注目され、日米関係が複雑化する中で、国内の不満のはけ口としても利用できる側面があります。

そのような状況下で、日本の国会議員が過去の戦争に関する歴史認識を疑わせるような発言をすることは、「やはり日本は反省していない」「都合の悪い事実を改ざんしようとしている」という中国側の批判の口実を与えかねません。歴史に敏感であるべき戦後80年の節目=2025年において、日本の政治家の言動は、国内に留まらず国際関係にも大きな影響を与える可能性があることを認識すべきでしょう。

西田議員が発言を撤回した5月9日は、日本が中国に「対華21か条の要求」を突き付けてからちょうど110年となる日でした。中国にとってこの日は「国恥の日」として記憶されており、9月に向けて、歴史問題を巡る緊張が高まることが予想されます。

中露が蜜月関係を演出する中で飛び出した日本の政治家の発言は、中国がロシアと連携して歴史問題で仕掛ける上で、格好の材料となる可能性があります。今回の出来事は、日本の歴史認識に対する国際的な視線が、これまで以上に厳しくなっていることを示唆していると言えるでしょう。

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この記事を書いたひと

飯田和郎

1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。