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旧優生保護法下の不妊手術強制は“違憲”「画期的な最高裁大法廷判決」

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旧優生保護法下で不妊手術を強制された被害者らが国に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁大法廷は7月3日、旧法の規定を憲法違反と判断して、国の賠償責任を認めた。司法取材が長い、元毎日新聞記者で毎日新聞出版社長の山本修司さんが7月5日、RKBラジオ『立川生志 金サイト』に出演し「極めて画期的な最高裁判決」と評価した。

番組コメンテーターとして初登場

山本修司さん

7月1日から毎日新聞出版の社長を務めている山本修司です。もともとは毎日新聞の記者で、東京地検特捜部など検察取材が長く、東京地裁、高裁、最高裁など裁判担当や脱税事件などを扱う国税担当、調査報道などを手掛けていました。

親子2代の毎日新聞記者です。3月までは北九州に本社を置き、九州・山口・沖縄を管轄する毎日新聞西部本社の代表を務めていました。それ以前には西部本社編集局長も務め、そのころRKBテレビでは『天神ウォッチ新聞女子』という朝の番組をやっていて、(スタジオにいる)田中みずきさんも出演していましたね。

私も同じ時期、RKBテレビ『今日感テレビ』の月曜に出演し、お世話になりました。今回、このようなご縁をいただき、感謝しております。どうぞよろしくお願いいたします。

「除斥期間」を適用しない画期的判決

さて、旧優生保護法下で不妊手術を強制された被害者らが国に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁大法廷は7月3日、旧法の規定を憲法違反と判断して、国の賠償責任を認めました。

最高裁は15人の裁判官で構成され、5人ずつ三つの小法廷に分かれて審理しますが、今回は15人全員が参加する大法廷で審理されました。大法廷は、憲法問題について新しく判断するケース、判例を変更するケース、また最終的に違憲判決をする必要のあるケースで開かれるので、これは大裁判です。

今回の裁判は、遺伝性の疾患や障害などがある人に、本人の同意なく不妊手術を施すことを認めた改正前の優生保護法が問われたものです。不妊手術を強制された被害者らが国に賠償を求め、大法廷は、この法律の規定が憲法に違反するうえ、立法行為そのものも違法だと判断しました。さらに、今回の裁判では不妊手術を指しますが、不法行為から20年経つと損害賠償を求める権利が消滅する「除斥期間」については適用されないと判断しました。これが極めて画期的なのです。

戦後最大の人権侵害

私は、障害者らを対象に不妊手術を強制したことは、戦後最大の人権侵害だと思います。被害者はもともと激しい差別を受け、そのうえ「不良な子孫の出生防止」というとんでもない趣旨の法律によって子供を持つ権利を強制的に奪われ、中にはだまされて手術をされて、被害を受けたことさえ知らない人もいたわけです。被害を名乗り出ることが極めて困難な中、「20年経ったので訴えることはできません」と裁判所が排除することはどう考えても不当ですよね。

それなのにこれまで、こうした不条理なことが続いてきました。さらにいえば、最高裁は1989年、「当事者がどのような事情を訴えようとも、裁判所は時の経過で請求権が消滅したと判断すべき」、つまり「どんな事情があろうとも、20年経ったら訴える権利はないと判断すべきだ」という見解を示し、これが最高裁判例として地方裁判所や高等裁判所の判断を拘束してきました。司法は国民を守るためにあるはずなのに、こんな冷酷な考え方を示してきたことを、ここで厳しく指摘する必要があると私は思います。

大法廷判決の中では「除斥期間の経過で国が賠償責任を免れることは、著しく正義・公平の理念に反する」と明確に述べていますが、それだけひどい人権侵害だったということです。普通の感覚からすれば当然のことですが、要はこれまで普通ではなかったということかもしれません。

これまで“8対7”で割れていた違憲判断

今回私が注目するのは、裁判官15人全員の一致した憲法違反の判断だったということです。最高裁の裁判官はいろんな出身の人で構成されています。裁判官出身が6人、検察官が2人、弁護士が4人、このほか学者や行政官がいます。この「裁判官と検察官で8人、15人の過半数」というのがポイントです。

私が最高裁を担当したのは1995年から96年にかけてですからずいぶん前になるのですが、私には、最高裁には違憲立法審査権、つまり国会で成立した法律が憲法に違反していないかチェックする権利のことですが、この行使に極めて抑制的で、国会への介入との指摘を避けがちな姿勢があると感じていました。特に、裁判官と検察官出身者にこの傾向が顕著でした。

私が経験したものとしては、1票の格差が最大6.59倍に達した1992年7月の参院選をめぐって、有権者が選挙管理委員会に選挙無効(やり直し)を求めた定数訴訟で、最高裁大法廷は格差について「到底看過できない程度に達し、著しい不平等状態だった」と違憲状態だったことを初めて認めましたが、選挙そのものについては国会の裁量権を広く認めて合憲とし、有権者側の上告を棄却、つまり訴えを退けました。

1票の格差が6倍を超えるなんて、どう考えても憲法違反だろう、と普通は思いますが、そうはならなかったわけです。そして合憲判断が裁判官、検察官出身の8人、残る7人が違憲判断という一票差。これが絶妙なバランスなんです。まさにこれが、私が先ほど指摘したポイントで、8対7という判断はこれまでも少なくありませんでした。

今後の司法判断に大きな影響

ところが、今回の画期的違憲、憲法違反の判断は15人全員の意見だったので、私は「なるほど」と思ったわけです。最高裁が変わった、などと言うつもりはありませんが、今後の司法判断に大きな影響を与えたことは間違いありません。歴史的な判決、といえるかもしれません。

毎日新聞社はキャンペーン報道「旧優生保護法を問う」で、この問題を掘り下げ、2018年度の新聞協会賞を受賞しました。その内容は、毎日新聞出版から出した「強制不妊 旧優生保護法を問う」に詳しく、電子書籍でも読むことができます。

ただ、これを誇る以上に、1948年から96年までの長い間、旧優生保護法が存在し、日本のジャーナリズムや多くの人がこの問題に気づくことができなかったことは、反省しなければなりません。批判するだけでなく、私自身も厳しく問われていることを認識し、これからコメンテーターとしての出演や本業である出版に生かしていきたいと思います。

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