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段取らないこと|アナウンサーコラム

福岡の糸島を舞台にした映画の制作が進んでいる。「猫の記憶」(主演・金子みゆ)で、少女の自分探しと成長を描いた映画だ。そのワンシーンに出演することになった。
私の役柄はコミュニティースペースの店長で、セリフもある。訪れた主人公らとあいさつを交わし水を差し出すというシーンだ。

先月撮影が行われたのだが、いざ撮影が近づくと、自然な演技がどうしたらよいのか分からず、大いに悩んだ。例えば、あいさつするにしても視線や手足の動きは日常的にどうしているのか意識したことがないので分からないのだ。下手に動くと猿芝居になってしまいそうで、逆に棒立ちでセリフだけを淡々と述べれば自然な演技になるのではないかという気もしてくる。

実は、演技とアナウンスの根は同じだと常々思っていた。新人時代、自然なアナウンスを模索していたころ出会ったのが、劇作家の野田秀樹氏の言葉。
劇空間で一番大切なことを問われ、「段取らないこと。その瞬間初めて経験する状態を作り続けること」と答えた。以来この言葉は、自然なアナウンスを目指す指針であり続けている。

とはいえ、動作においては全くの素人で、撮影現場ではNGを繰り返したのだった。12月公開予定だが、カットされていないことを祈る。

7月30日(土)毎日新聞掲載



坂田周大 RKBアナウンサー。長崎県長崎市出身。

【担当番組】
テレビ:サンデーウォッチ 超科学アイドルメディアHKTV! 志、情熱企業 ラジオ:語り部の記録~戦争の歴史を伝える~ おしゃべり本棚

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