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実は「やればやるほど赤字」の災害特番…それでもやらねば

台風11号は9月6日朝、九州北部地方に最接近した。その時間に放送していたRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』では、佐賀県唐津市やJR博多駅などの中継現場から最新情報が伝えられ、スタジオでは気象予報士が台風の進路や危険性を解説した。台風一色となった番組、午前8時台のコーナー「Catch Up」では、コメンテーターのRKB神戸金史解説委員が「災害特番は、やればやるほど赤字だが、報道機関にとって最も重要な報道」と、その意義を強調した。  

未明の台風報道特番

今日は朝から、テレビの特番でした。打ち合わせは午前3時、それに合わせて私もRKBに来ていました。「台風11号特番」として朝4時半から5時20分までの50分、龍山康朗気象予報士がメインで、4か所と中継を結んで放送しました。

 

私は、気象報道とデジタルニュースの配信などを担当していまして、今回デジタルでこの特番を配信しました。「TBSニュースDIG」と「RKB」のYouTubeチャンネルに流したんですが、のべ10万人くらいの方がネット上でも見ていました。TikTokでもやりました。やはり、災害はニーズが非常にあるんですね。安全を守るためにも、役に立っているということになれば嬉しいです。

 

それから、午前7時から7時35分くらいまで、龍山予報士にお願いして、インターネットだけのライブ配信で防災ニュースを伝えました。ネット上でだけなので、時間の制約がないんです。だから、ゆっくりとしたテンポでしゃべれる。コメント欄を使いながら質問にも答えていくので、雰囲気がラジオみたいに双方向な感じでした。災害情報ですが、非常に親しみもあるような感じでした。

アナウンサー2人の災害報道への思い

こういった形で災害の話を伝えていくのは、僕らの大きな仕事の一つですね。2人はどんな現場のことが思い出に残っていますか?

田畑竜介アナウンサー:九州北部豪雨、2012年と2017年にそれぞれ取材しましたけれど、大雨の被害のときはやっぱりとにもかくにも、「道」がすごく大事だなと。救助するにも、道がどれだけ確保できるかというのが大事だったので、道路がどうなっているのかという情報、「今ここから寸断されている」「そこは通れなくなっている」といった情報などに注意して取材しました。
「現場での取材」が一番大変なんです。「そっちに行けないからこっちに行きます」という情報を適時もらいます。気象情報と見比べながら、「川の近くの道路だから行かない方がいい」とか、そんなことを考えてハラハラしています。クルーの安全確保が一番です。これまで、取材をしていて「危険だ」と思ったことはありましたか?

武田伊央アナウンサー:「危険だと思うようなところには行ってはいけない」と指導されていました。できるだけ安全な場所で、雨の状況や風の状況がひどくても。災害現場で雨に打たれて、自分の声も聞こえなくなるような状況になると、テンションがだんだんハイになって上がってきます。そんな状態になるんですけど、冷静に今起きていることを大げさにもせず、過小にもせずとにかく淡々と伝えるっていうことを意識しますね。
災害報道の基本ですね。どうしても、興奮しちゃうんです。そうなると、不思議と引き寄せられていく。ゴーゴーと流れている川を見て怖いんだけど、「どうなっているんだ、この先…」と思って、つい前に出ちゃうんです。私たちがいつも「注意して」と若い記者に言っているのは、「同じアングルで撮るならば、より安全なところから、より高い場所から撮ってほしい」。

 

20~30年前だったら、より低い、より近いところの方が、迫力があるのでその映像や音の方がいいと言っていたんですけど、今は逆です。私たち自身が危ないところに行っているというのは、民間の方もここまで行っていいんだというメッセージを発していることと同じ。だから、より安全なところの方がいい。私達自身も生きて帰らなければ、ちゃんと伝えることもできないので。自分たちが巻き込まれてしまったということがニュースになることほど、つらいことはないわけです。

災害報道「雲仙の教訓」

私は雲仙・普賢岳の取材(1991年6月)で、当時在籍していた新聞社で、先輩3人を亡くしたことがあるので、本当につらい思いをしました。自分たちも取材される側にもなるし、ご家族も来てらっしゃるし。災害についてきちんと伝えていくということはどういうことなのか、と考えざるを得なかったんです。それで私は、RKBに転職してから雲仙での教訓に当たるものをしっかり取り入れたいと思って、ルール作りをしてきました。「災害取材時の基本原則」というのを報道部長時代に作ったんです。

 

「多分大丈夫という思い込みは絶対だめ」ということや、2人以上で必ず取材をし、1人は必ずカメラマンをサポートしてくださいね、とか。カメラマンはファインダーの中しか見られないから、足元や後ろとか、本当に危ないので気をつけてください、ということ。それから「常に連絡を取り合う」。出発や到着、場所を変える時。デスクに必ず連絡する。今自分がどこにいるかを誰かが知っておくというのがとても大事です。

 

私が一番大事にしていたのは、現場で取材陣が危険を感じた時は撤収してかまいません、ということです。例えば、放送局内にいる私たちが「この現場の取材をして」とお願いして、記者やカメラマンに行ってもらいます。「行け」「そこで取材しろ」と言われたことを真剣に守るのではなくて、行ってみたら「意外とここは危ないかもしれない」と思ったら、すぐに伝えてください、ということ。伝える暇もなかったら勝手に撤収する。「危険を感じたことで引き返しても責任は問わない」というルールにしています。当たり前ですが、局内で得られる情報より、現場で見ている情報の方がよりリアルで正しいからです。

 

実は、雲仙の時に被害が出たのは、そういう動機が一番大きかったんです。「ここで取材してくれ」と言われて、撤収するわけにいかない。横を見たら他の新聞社やテレビ局がいるから自分たちだけ引けない。これが一番大きな、被災した原因なんです。雲仙の教訓から考えれば逆で、現場で言っている人がどんなふうに感じるか。

 

例えば、におい。土砂崩れのする前には「木の腐ったようなにおい」がしてくることが多いです。また「地鳴りする音」。そういったことは、離れた場所ではわからないんです。現場の人たちが、「もう危ないと思ったんで撤収しました」という連絡をくれれば、それでいい。

 

各社全部に映像があるのにうちだけないのを「特オチ」と言いますが、それでも全然かまわない。私が報道の指揮をしている時はそう言っていました。それは今でも守られていると思っています。

赤字になってもやらないといけない

佐賀などの現場に行っている人たちは、前日から泊っているわけです。大変なお金がかかる。この前、ある大学で講義した時「災害報道って赤字なんです」と言ったら、大学生たちがみんなびっくりしていました。「視聴率が高くてお金がもうかるから報道しているんだと思っていました」と言われたんです。

 

逆なんです。やればやるほどお金がかかる。よりひどい災害だったら、CMまでなくなってしまいます。東日本大震災の時は3日間、CMが民放からなくなっていましたし、その後も(公益財団法人の)ACジャパンのCMが流れていました。収入がなくなっていくにも関わらず、支出はどんどん増えるのが、災害報道。

 

それなのになぜやっているか。「目の前に見ているものを伝えて、人の生命と財産を守るための役立つ情報を出したい」というのが一番なわけです。SNSの情報も非常に重要なんですが、時にデマも紛れてきますから、私達は責任を持って報道していきたいなと思っています。それは、ここにいるアナウンサーの二人も一緒だと思います。

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