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首相秘書官の差別発言で考える「性は男と女の2つだけじゃない」

ラジオ
「世の中には、男と女しかいないんだから」――。夫婦げんかの仲裁に入ったときなどに、昔はよく使われたことばだ。しかし、今は性を男と女のふたつだと考える時代ではない。RKB毎日放送の神戸金史解説委員は「性は人それぞれ。グラデーションをもって存在している」と、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で語った。        

産経新聞も首相秘書官の差別発言を非難

今日(2月7日)の朝刊を見ても、荒井勝喜・元首相秘書官の発言の余波が広がっていることがわかりますね。ここまで大騒ぎになるとは、思っていなかったかもしれません。G7ではほとんど同性婚は認められているのに、日本だけは認められていません。国際的には、驚きをもって迎えられていると思うんです。ただ、日本の中では、まだまだそういう感じでもないかな、という肌感覚もあります。保守派がどう思っているのかが気になったので、産経新聞をめくってみました。5日に社説が出ていました。
荒井秘書官更迭 緊張感の欠如が目に余る(産経新聞) https://www.sankei.com/article/20230205-EP4XBO2JENPVVFKYYSKY4TJ6II/

荒井氏は同性婚について「隣に住んでいても嫌だ。見るのも嫌だ」などと述べ、制度導入なら「国を捨てる人、この国にはいたくないと言って反対する人は結構いる」と話していた。性的少数者を嫌悪する、明らかな差別発言である。(中略)更迭は当然だろう。荒井氏は発言を撤回、謝罪したが、口をついて出た言葉は戻らない。荒井氏の発言は、ただただ対立感情を深めるだけで、冷静な議論の妨げとしかならない。
ここまで強く批判していますが、社説の最後の方では、そもそも憲法24条は「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」すると定めている。これは明らかに異性婚について定めたものと解釈するのが自然だ」として…

「すべて国民は、法の下に平等である」と定め、性別などによる差別を禁じている。この矛盾を解消するためには憲法改正を議論しなくてはならない。それほど重大な議論に、嫌悪感情に基づく差別発言など、挟む余地はない。
と締めくくっていました。びっくりしましたけど、「なるほどなー、そう考えるのか」と思いました。

 

ただ、ここで見ておきたいのは、1947年まで施行されていた旧民法では、戦前のイエ制度のもと、結婚には戸主による同意も必要とされていたこと。「これからは当事者2人の合意だけで結婚できるんだよ」という趣旨で、憲法24条「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」ができたと考えられています。これが同性婚を禁止しているというのは、かなり強引な解釈です。

 

公益社団法人「Marriage For All Japan」のホームページでは、憲法24条が同性婚を禁止していないというのが、学説では一般的だということです。憲法で「婚姻は、両性の合意のみに基いて成立」するとなったことは、とても重要なことでした。誰かの意思が入って「結婚する・しない」が決められるのはおかしいと思いますよね。

内心の差別意識を公言したらトップには立てない

2月5日に福岡市で開かれた勉強会に行って、ある統計調査の結果を知りました。

女性が女性に恋愛感情を抱くのは、おかしい 26.8% (対レズビアン)

男性が男性に恋愛感情を抱くのは、おかしい 29.3% (対ゲイ)

性的マイノリティについての意識:2019年(第2回)全国調査」53ページ
「性的マイノリティへの嫌悪感・抵抗感」担当:風間孝(中京大学)
http://alpha.shudo-u.ac.jp/~kawaguch/2019chousa.pdf
 

3割くらいの方が、抵抗感や違和感を持ってるんだなとわかりました。逆に言うと、7割ぐらいはもう「OK」なんですが、口には出せないけど内心そう思ってる人もいるのかなという気がしています。

 

多分、秘書官を更迭された荒井氏もそういうタイプだったんでしょう。聞くところによると、荒井氏は経済産業省の事務次官の有力候補だった、ということです。国を代表して海外と交渉するような立場には、こういう考えの人は就けない。これはもうはっきりしているんじゃないでしょうか。大臣になりたいんだったら、LGBT理解促進法に反対している人はもうだめだよ、という時代になっているんじゃないでしょうか。差別しちゃいけないと私は思います。国と代表する立場に就きたいのであれば。

森蘭丸を愛した信長は「許せない」存在?

時代によっても、性的な関係についての考え方はいろいろあります。例えば戦国時代から江戸時代にかけて、男性が男性を愛する文化がありました。衆道(しゅどう)と言いました。武士同士の恋人は、念友(ねんゆう)と呼びました。心の友という意味ですかね。研究者の論文を見てみます。「武士道は男らしいことがとても大事だった」とあります。

 

軍人である彼等は、「女」と、十分には「男」でない他の身分の「男」たちとを、勇猛果敢なる真の「男」として支配していたのである。(中略)「男らしさ」を誇り追求したからこそ、(中略)「男色」に向かったのである。そして、「男」同士の恋のさやあてで凄惨な刃傷沙汰にも及んだのである。

渡辺浩・東大名誉教授『徳川日本における「性」と権力』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjpt2000/1/0/1_1/_pdf
性の意識は、時代で変わります。「隣に住むのも嫌だ」と思っているならば、「小姓・森蘭丸を愛した織田信長は許せない」ということになりますね。保守派の方には、「同性愛がおかしい」などという明治以降の新しい感覚を捨て、「日本の伝統に戻るのだ」と思って、LGBT理解促進法案に賛成してもらいたいと思っています。自分たちの生活には何も影響しませんし、幸せになりたいと思っている人たちを許してあげたら、ということだけ。人口減少をさらに加速するなんてこともないですし、もう少しおおらかな目で見ていいんじゃないですかね。

「アセクシャル」「アロマンティック」とは?

昔は「世の中には、男と女しかいないんだから」という言い方がありましたが、今はもう違います。性別は生物学的な2つだけではなく、グラデーションのようになだらかに、いろいろな人がいると考える時代に入ってきました。
なかけんこと中村健さん

 

2月5日、福岡県弁護士会館で開かれた勉強会に行ってきました。なかけんこと、中村健さんは、アロマンティック・アセクシュアルの当事者です。

ア(否定)+セクシュアル =性的に惹かれるという経験をしない人

ア(否定)+ロマンティック =恋愛的に惹かれることがない人
私は不勉強で、この言葉を知りませんでした。

なかけんさん:当時働いていたアルバイト先で、自身のことを軽く打ち明ける機会があったんです。食事会で恋バナがされていて、「なんとなく恋愛に関心がないんだよね」と話をしたら、さらっと「人間じゃないみたいだね」と言われて。その人には悪気のない一言だったんですけど、私にとってはすごく刺さる一言になってしまって。

 

なかけんさん:ずっと、「私っておかしいのかな」「周りと違うんだろうな」と思い続けていたところで、「人間じゃない」。やはり私はおかしいんだ、と思いました。「自分は何者なんだろう?」と問い続けて、分からない苦しさがずっとあったんです。そこで、「アロマンティック」「アセクシャル」という言葉があると知りました。「私のことをちゃんと伝えられる」感覚になれたので、自分にとってよかったと思えた瞬間でした。
誰に対しても性愛感情を抱かない人「アセクシュアル」という言葉ができたことで、自分がそういう者なんだなと理解できたそうです。言葉というのは大事です。

 

私は、「性を持たない」と認識している人と話をしたことがあります。肉体的な性はもちろんあるんですけど「自分の中で男性か女性かっていうことを全く決めてない、自分の中に性別が存在しないんですよね」っていう人。無性愛者はいるんだなと思っていました。でも、自分が誰に対しても性的な感情で惹かれることがないというタイプを「アセクシャル」と言うのだと知って「なるほどな、そういうこともあるかもしれない」とも思ったんです。

同性愛もアセクシャルも「おかしい」は同じ3割

自分のことを「おかしい」と思ってしまっているのは、不幸なことかもしれません。会場では、大阪大学大学院の博士課程で学んでいる三宅大二郎さんが、統計データを報告しました。
三宅大二郎さん

三宅さん:男性同性愛・女性同性愛への嫌悪感を調査した時、「恋愛感情を抱かないのは、おかしい」と答えた方が31.2%。(ゲイやレズビアンなどの)同性愛と同じくらいか、少し多いくらい。「知名度がないんですから、そもそも差別なんてないんでしょう」と言われたことがありますが、そんなことはない。最近、ど直球の差別発言が政治の中でありました。「アセクシャル」「アロマンティック」が直接攻撃を受けることはないかもしれませんが、差別意識を持っている人は持っているかも。無関係ではいられないと思っています。
こんなことを言われることが多いんだそうです。先ほど紹介したように、「同性愛は、おかしい」と思っている人も、性的な感覚を持たないということが「おかしい」も3割ぐらい。世の中、性的なマイノリティに対して厳しい態度をとってしまう方がそのくらいいます。なかけんさんは、よく言われてる言葉があるそうです。

なかけんさん:まわりが「それって本当なの?」「運命の人と出会っていないだけでしょ?」が、鉄板フレーズなんですね。そういう一言を言われて、でも「確かにそうかも」と思って、なかなか自分自身の感覚を信じさせてもらえない。恋愛をもっと知るべきだ」と思って、同性の人とお付き合いを開始してみたことがあったんです。「異性に恋愛感情がないんだったら、同性が好きなんじゃない?」と周りに言われて、「ああ、そうなんだ」と思ってお付き合いを始めた流れ。付き合う段階で「性的なことはできないと思う」と何度も伝えたんですけど、性的に求められるシーンが多くなって…「性的なことはできない」と改めて伝えたら、そのあと連絡が取れなくなってしまったということがありました。
「生きづらさ」を感じていますね。「思い込みだよ」「まだ未熟だからだよ」ともよく言われるということでした。

知っておいた方がよい言葉「ズッキーニ」

なかけんさんは、決して「孤独」を好んでいるというわけではないんです。性的なこと、恋愛のようなことで惹かれることがないということは、「人間が嫌いだ」ということとイコールじゃないですよね。

 

お話で非常に面白かったのが、「ズッキーニ」という言葉。野菜のことではありません。英語圏でよく使われる言葉なんだそうですが、恋愛関係とか性的な関係ではないけれど、極めて親密な関係を持つ人たちのこと。そういった人たちが集まっている空間を「パートナー空間」「ズッキーニ空間」と言うようになってきているんだそうです。全く知りませんでした。

 

性を超えた関係、親友という以上に大切な存在で、親密に一緒に過ごしている男女、もしくは男性と男性、女性と女性。よく、そういう設定の映画もあります。より深い心のつながりを持った人たちが描かれていますよね。言葉を知っていくこと、とても大事だなと思います。「アセクシャル」とか「ズッキーニ」という言葉がある。いろいろな性があって、決して2つじゃないのです。

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)

1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。
 

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