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人情に映えるパン|アナウンサーコラム

「人情」が好きだ。人情味ある人、店、街。辞書を見る限り、人情とは「人間が自然に備えている思いやりの心」だそうだ。その割には、人情という言葉はノスタルジーの香りをまとっている。ツイッターやインスタといったコミュニケーションツールは増えたものの、そこに人情味は感じにくい。映えや加工アプリに支えられた「いいね」の応酬が現代のぬくもりなのか。

私は2022年の10月から、RKBテレビ『タダイマ』内の「ギュッとNEWS」を担当している。ある商店街に取材に出た時。老舗ベーカリーで待機していると、20歳に満たないイマドキの女の子たちが次々と入ってきた。聞くと近くの専門学生らしい。「よう来たね。はい、これ取り置きのパン」「明日テストあると?」「明日もこのパンとっておこうね」。店主が姪っ子に接するように話しかける。専門学生たちも「そうそう!テスト大変よ」「ここのパンじゃないと嫌やもん」と返す。そこには確かに人情が生きていた。

店先の立て看板には「インスタ映えもバズったりもしませんが、毎日食べても体に優しいものを作ることがモットーです」とある。店主によれば、自然の酵母を使ったパンなのだという。「自然に備えている」人情を引き出す、自然製法の人情パン。心のなかでそっと「いいね」を押した。

3月18日(土)毎日新聞掲載



冨士原 圭希 RKBアナウンサー。千葉県出身。

【担当番組】
テレビ:タダイマ! 金曜ビッグバン! ラジオ:カリメン 土曜 de R。 おしゃべり本棚

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