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カザフスタンで起きた大規模暴動に“積極関与”した中国の思惑は?

暮らし
中央アジア・カザフスタンで起きた大規模暴動に、積極的に関与しようとする隣国・中国の思惑について、東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『櫻井浩二インサイト』で解説した。  

複合的な要因が独立以来最悪の暴動を引き起こした

まず、この暴動についておさらいをしたい。きっかけは、LPG=液化石油ガスの価格が、今月1日から約2倍に引き上げられたことだ。これに反発したカザフスタン西部の街の市民による抗議デモが翌2日に発生。さらに暴動が拡大し、カザフ最大の都市アルマトイなどにも波及した。現在は、全土で治安はほぼ回復したが、これまでの死者は164人(最新の情報では政府は「死亡多数」と発表)、拘束された者が1万1000人以上で、独立以来最悪の暴動となった。この間、トカエフ大統領は治安維持のため、外国からの部隊派遣を要請。旧ソビエト6カ国でつくる集団安全保障条約機構(この組織はロシアが主導しており、実質ロシアの軍隊)の力を借りながら、武力鎮圧に踏み切った。

 

しかし、LPGの値上げはきっかけに過ぎず、汚職や腐敗、失業率の高まりへの不満や新型コロナウイルス感染症拡大と政府の対処への不満も暴動の要因として見過ごせない。トカエフ大統領は10日「これは計画されたクーデター」と言っている。天然資源による富の配分をめぐる権力闘争との指摘もある。

そもそもカザフスタンとはどんな国?

ソ連崩壊で独立国家になったカザフスタンは、ロシアと中国にはさまれるような位置の内陸の国で海はない。人口は約1900万人だが、面積は世界で9番目の広さで日本の7.3倍もある。住民の6割~7割をカザフ族が占めている。モンゴル系で日本人に似た顔立ち。多くがイスラム教を信仰している。今もロシアが管理する有人宇宙ロケットの打ち上げ基地があるバイコヌールが有名だ。初代大統領・ナザルバエフ氏がは1991年から28年間の長期にわたり君臨し「建国の父」と呼ばれた。トカエフ大統領はナザルバエフ氏の退任に伴い、2019年3月に後継の大統領に就任した。

今回の暴動に隣国・中国の反応は?

中国(新疆ウイグル自治区)とカザフの国境線は1700キロメートルもある。本州縦断に匹敵する距離だ。その中国は、暴動が完全に収拾する前の今月7日、習近平国会主席がトカエフ大統領に対し「重要なタイミングで思い切って強い措置を取り、迅速に事態を収拾している」と、デモ隊の排除を支持するメッセージを送っている。比較的早いタイミングで断固支持を表明した理由は以下のようなものが考えられる。

 

(1)新疆のカザフ族

新疆ウイグル自治区には、中国国籍を持つカザフ族約150万人が暮らす。新疆では、中国当局が「過激派排除」を目的に、ウイグル族だけではなくカザフ族に対しても、強制的な同化政策を進めているとされる。それもあって、反政府派の影響が国境を越えて新疆に波及する危険をはらむ。

 

それを裏づける本が、いま話題になっている。去年8月、日本でも出版された「重要証人―ウイグルの強制収容所を逃れて」だ。著者は新疆ウイグル自治区出身の46歳のカザフ族女性で、自身の過酷な体験を綴っている。新疆での監視態勢や、拘束されていわゆる強制収容所に連行され、同化教育を受けたことを克明に記録している。この女性は釈放後、カザフに逃れるが、中国政府と通じるカザフでは、申請した第三国への出国申請は却下した。ただ、彼女は幸運にも国連の仲介でスウェーデンに渡り、亡命生活を送っている。この本が示している通り、民族問題を抱える新疆で、中国が安定した統治を維持するためには、カザフと歩調を合わせなくてはならない。

 

(2)一帯一路構想

習近平氏は2013年9月にカザフスタンを訪問した際、初めて「シルクロード経済ベルト」構想を提唱した。実はこれが「一帯一路」構想の出発点だ。中国にとってカザフは石油、天然ガスなど地下資源の供給国で、中国からヨーロッパを結ぶ貨物列車の大半がモンゴル経由ではなく、新疆からカザフを通過している。中国にとって、資源、物流、安全保障などカザフスタンは周辺諸国の中で特に重要な存在なのだ。

 

(3)対ロシア

対アメリカという側面から蜜月のように見える中国とロシアの関係だが、実は微妙で「同床異夢」といえる。まだ発足間もないトカエフ大統領率いるカザフでの暴動発生で、軍隊派遣をきっかけにロシアの影響力が増すことを警戒している。

トカエフ大統領は実は、したたか?

トカエフ氏はソ連時代の外交官出身で、ソ連外務省の研修として中国に語学研修している。また北京のソ連大使館での勤務経験もあり、中国語が流暢だといわれている。「中国をよく知っている」ことは、中国にとって理解者であるとともに、手ごわい相手でもある。そのトカエフ氏は暴動鎮圧の過程で政権基盤の強化に成功した。一方で、3年前に退任した後も影響力を維持していた“政敵”ナザルバエフ初代大統領は、暴動をきっかけにその力を弱めた。

 

中国は今回の暴動を、カザフとの付き合いの上での転換点、新しい局面だと認識している。トカエフ大統領との関係を深めていくためにも、かなり前のめりの姿勢を感じる。

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