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クーデターから1年~ミャンマーを巡るASEANの混乱と中国の影

暮らし
ミャンマー国軍が非常事態を宣言し、全権を掌握したと表明してから、まもなく1年が経つ。現在のミャンマー情勢、ミャンマーを巡るASEANの混乱と中国の思惑について、東アジア情勢に詳しい飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『櫻井浩二インサイト』で解説した。  

クーデターの経緯をおさらい

ミャンマー国軍が非常事態宣言を発したのは昨年2月1日。ミャンマー軍は、前の年=2020年11月に行われた総選挙について「不正や不備があった。それらを調査するため」と宣言の理由を説明した。

この2月1日は、総選挙後初めての国会が開かれる予定だった。総選挙では、アウンサンスーチー氏が率いるNLD(国民民主連盟)が圧勝し、かつての軍事政権の流れをくむ野党が大きく議席を減らしていた。2011年に民政移管してから10年目。追い詰められていた軍が、国会開会のタイミングで仕掛けたクーデターだった。

スーチー氏はクーデター後「無線機を許可なく輸入し、使った」という罪など計17件の罪で訴追され、一部で有罪判決が出ている。17の容疑全てが有罪になれば、100年を超える禁固刑が科される可能性もある。多くは「訴追するためにつくり上げられた罪」といえる。
この1年間、NLDの支援者や少数民族の武装勢力、そしてなにより多くの一般市民が軍に抵抗してきた。軍による弾圧で、これまでの死者は1,400人とも言われる。

カンボジア首相のスタンドプレーで周辺国の足並みそろわず

ミャンマーはASEAN(東南アジア諸国連合)の加盟国だが、ASEANの足並みは合っていない。それを象徴することが年明けに起きた。今月18・19日の2日間、カンボジアで予定されていた、ASEAN外相会議が延期された。毎年、年明けに開く外相会議は、その1年間の議論の方向性を示す重要な会議で、延期は極めて異例のことだった。

 

きっかけは今月7日、ASEAN議長国を務めるカンボジアのフン・セン首相のミャンマー訪問したことだった。ミャンマーを除くASEANの加盟9カ国の間では、クーデター後の昨年4月に「ミャンマー問題を巡る5項目合意」案をつくっている。5項目合意とは「暴力の停止」や「特使の受け入れ」などが柱。ミャンマー軍側に対して、5項目を受け入れるよう求めているが、軍側は受け入れず膠着状態が続いている。

 

そんな中でフン・セン氏が自らミャンマーに乗り込み、実権を握る国軍のミン・アウン・フライン最高司令官と直接会談した。国軍トップと直接交渉して突破口を見いだそうとするやり方に、「スタンドプレーではないか」という不信感が起こり、ASEANの一部加盟国が外相会議への出席を拒んだということだ。

 

フン・セン氏は37年間もカンボジア首相の座にある。敵対する野党を解党したのち、前回2018年の総選挙では、与党が全議席を独占した。また、自分の長男=陸軍司令官=を事実上、自分の後継者として公表している。まさに独裁者といえ、国内外から強権批判を浴びている。人権や民主主義を軽んじるフン・セン氏が選挙結果を覆し、民主主義を踏みにじったミャンマーのクーデターに対処できるはずがない、と周辺国が訝るのも無理のないことだ。

ASEAN加盟国間の対立や分断にちらつく中国の影

カンボジアはASEANの中で、最も中国に近い立場をとる。南シナ海の領有権を巡って、カンボジアは対中強硬派のフィリピンやベトナムと対立してきた。また、インドネシアやマレーシアは市民への弾圧を続けるミャンマー軍に厳しい姿勢を取る。

 

ASEANが一致して中国に毅然とした態度が取れないのは、経済発展が遅れたカンボジア、それにラオスの存在がある。だから、フン・セン氏の立ち回りを見て、加盟国の多くが「カンボジアの動きは、中国が背後で操っているのではないか」と疑っているのだ。

 

当の中国はというと、ミャンマーに対してはスーチー氏とも、一方の軍とも関係を作ってきた。とはいえ、さすがにクーデターまでは想定していなかったのではないかと推測している。中国も早くミャンマーを安定させたいと考えているだろうが、同時に軍が今後も政権を担い続けるとも読んでいるだろう。

 

事実、中国外務省のスポークスマンは今月10日、「ASEAN議長国・カンボジアが積極的な役割を果たすことを支持する。ミャンマーの当事者間の相違を適切に解決し、できるだけ早く安定と発展を回復するうえで、重要な貢献をすることを、中国は全面的に支持する」と述べている。カンボジアも、ミャンマー軍政も擁護したと受け取れる。

 

ASEANの中でも、経済レベルに劣るカンボジア、ミャンマー、ラオスからは、国境を接する中国の資金力は、経済発展に欠かせない。中国の広域経済圏構想「一帯一路構想」の一つも、自国から南に延びる。3つの国もそれがわかっていながらも、中国に頼らざるを得ない。こうして中国が主導する経済圏構想が広がり、それぞれの国の政治にも影響を及ぼすことになる。

ミャンマーへの投資・企業進出も多い日本がとるべき行動は?

政情不安によってミャンマーから撤退したり、現地資本との合弁の在り方を見直したりという動きはあるものの、日本企業はおよそ450社が進出している。

 

世界各地で、強権主義・権威主義が台頭し、自由主義・民主主義の尊さが今こそ問い直されている時はない。ミャンマー軍政の居座りや既成事実化は、自由主義・民主主義の対局にある。事態打開は容易ではないが、ミャンマーの人に信頼が厚いとされる日本は、自由主義・民主主義の尊さを説くべきだろう。

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