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自民党が擁立し、与野党が相乗りで応援。さらに現職が後継指名した元キャリア官僚。これまでの常識では圧勝は間違いないと思われてきた候補が、北九州市長選挙で敗れ去った。「奇跡」という人もいたが、現場で取材をしていると、当然の結果のように感じられた。「政治家にとって大切なのは自らの言葉」という当たり前の事実を確認する選挙になった。「選挙戦の潮目が変わった」とも言われている討論会の舞台裏とは?豊かな文化と地の利に恵まれながらも、政令指定都市で最も高齢化が進み人口減少が著しい北九州市。16年ぶりに新たなリーダーが誕生するまでの戦いに迫った。(肩書きはすべて今年2月10日当時のもの)
与野党相乗り+現職が後継指名=「圧勝」のはずが…
現職の北橋健治市長が後継指名したのは元国交省官僚の津森洋介氏。自民・公明に、立憲民主と国民民主が推薦。さらに社民も支持。市議会議員57人のうち40人が支援することになる。これまでの常識では与野党相乗りの津森氏が「圧勝する」と思われていた選挙だった。実際に、選挙通を自称する人たちが、構図が固まった時点で結果が決まったような話をしているのを何度も聞いた。
ただ、そこに強烈な違和感を覚えた。いまの選挙は政党や団体の支持だけで決まるものなのか?候補者の政策や資質を市民がどう判断するのかが重要なのではないか?そう感じながら取材を進めていった。
最初の違和感は政治家の「言葉の軽さ」
最初に違和感を覚えたのは、北九州市議会の鷹木研一郎議長が福岡県議会を訪れた時だ。県議団と津森氏擁立の話題が出ることは当然であり、別に隠す必要もない話だと思っていた。だが、鷹木議長はカメラの前で「市長選の話をしていない」と言い切った。ところが、その直後に自民党県連の幹部が、市長選の話が出たことをあっさり認めた。なぜすぐに分かるのに隠すのか、疑問だけが残った。
この時、出馬に意欲を示したのが自民党の中尾正幸県議。「党を割ってでも出る」と明言したものの、結局、「断ると、これからの私の政治が立ち行かなくなると判断した」として出馬を撤回、前言を翻した。いったい政治家にとって「言葉の重み」とは何なのか、その言葉を広く届けたいという思いが強まっていった。
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この記事を書いたひと
今林隆史
1976年生まれ 福岡市出身 政治・経済などのニュース取材に加え、ドキュメンタリー番組の制作にも携わる。第58次南極観測隊に同行。JNNソウル特派員として韓国の大統領選挙(2022)などを取材。気象予報士・潜水士の資格を有し、環境問題や防災、水中考古学などをライフワークとして取材する。 番組「黒い樹氷~自然からの警告~」で科学技術映像祭 内閣総理大臣賞(2009)、「甦る元寇の船~神風の正体に迫る~」同映像祭 文部科学大臣賞(2013)など受賞。