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どこで潮目が変わったのか? 政治家の「言葉」を追いかけた北九州市長選挙

「過去との決別」武内氏の戦い


ここで当選した武内和久氏の選挙戦に触れたい。武内氏は選挙戦が進むにつれて「過去の自分との訣別」という言葉を口にするようになった。
その真意を尋ねたところ、自民党推薦で出馬して惨敗した2019年の福岡県知事選挙の経験から出た言葉だった。この時は、言われるがまま支援団体を回る選挙戦で、市民と向き合ってこなかったと言う。この時の選対本部長は、くしくも今回の津森氏の選対本部長を務めた大家敏志参議院議員だった。

武内和久氏「選挙というのはその団体組織に頼れれば勝てると思っていた当時の甘かった自分と決別するというのが今回の私の覚悟です」

政治家にとって「言葉は命」


今回の市長選で、武内氏が特に強調したのが「市民との対話400回以上・街頭演説700回以上」という数字だ。何より「言葉」を大事にし、出馬表明後、誰よりも市民の前に立ち続けたという。

武内和久氏「政治家にとって言葉は命です。1ミリの嘘も許されません。また、自分の思い自分の魂、感情全てを凝縮して誠実に正直に語る、これが全てです」


政党の推薦を受けずに、まさに草の根のドブ板選挙を繰り広げていたことをアピール。4年前の知事選とは180度違う活動だったのだろう。対する相手は典型的な組織選挙。相手候補をかつての自分の姿と重ね合わせ戦った選挙だったのかもしれない。

SNS戦略と草の根応援団


その武内氏の応援に回ったのが、自民党市議団を飛び出した三原朝利市議と大石仁人市議だ。熱のこもった演説は、ほかではなかなか見られない迫力があった。また、途中で合流した井上純子市議のSNSなどによる発信力も見逃せない影響があった。さらに、若者や女性を含む熱烈な応援団が生まれていた。
期日前投票が始まった区役所の前で、雪が降る中、一人で武内氏のパンフレットを配る若者の姿が目を引いた。彼はあるIT企業の社長で多忙な身でありながら、武内氏に共感し、応援していると言う。こうした多くの若者も集まり、陣営は活気にあふれていた。武内氏の事務所では、20代の3人がSNSにあげる動画を作成していた。見ている層やSNSの特質に合わせて動画を編集、5種類のSNSに投稿していた。また、GPSを活用して武内氏の居場所を知らせたほか、QRコードを読み取って応援していることを投稿できる仕組みを取り入れるなど、ネット上でも選挙戦を繰り広げていた。
一方、事務所の壁に貼られていたのは、市民による手書きのメッセージだった。著名な政治家が「必勝」などと書いたいわゆる「為書き」で埋め尽くされる従来型の選挙事務所とは違う空気が流れていた。

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この記事を書いたひと

今林隆史

1976年生まれ 福岡市出身 政治・経済などのニュース取材に加え、ドキュメンタリー番組の制作にも携わる。第58次南極観測隊に同行。JNNソウル特派員として韓国の大統領選挙(2022)などを取材。気象予報士・潜水士の資格を有し、環境問題や防災、水中考古学などをライフワークとして取材する。 番組「黒い樹氷~自然からの警告~」で科学技術映像祭 内閣総理大臣賞(2009)、「甦る元寇の船~神風の正体に迫る~」同映像祭 文部科学大臣賞(2013)など受賞。