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海が「砂漠化」?! 原因はウニ…厄介者を活用する発想の転換とは 【RKBの調査報道】R調査班

海で進む異変、「磯焼け」。ウニなどが海藻を食べ尽くす現象で、「海の砂漠化」とも呼ばれます。この厄介者のウニに、廃棄される食材をエサとして与え、商品化しようという取り組みが始まっています。

海が「砂漠化」している?

福岡県糸島市沖の玄界灘に浮かぶ姫島。周辺の海では、ここ数年ある異変が目立つようになっています。

漁師「昔はもう、波止の中やら生えよりましたばってん……全然生えん」「かなり深刻ですね。もう数年になりますけどね、どんどん波打ち際から広がって」

波打ち際から広がる「白い海」。海藻が姿を消して岩が目立つようになり、海の砂漠化と呼ばれる「磯焼け」が起きているのです。九州大学は、この海の変化を捉えようと調査を続けています。

九州大学 三納正美准教授「全国的に(磯焼け)していない場所はないんじゃないかというくらいの報告は上がっています。特に糸島の周辺、姫島の西側・南西側がひどいと聞いていましたので、どういう状況になっているか確認していこう、と」

実際の海の中は……驚きの光景

水中での調査に同行しました。

RKB今林隆史「この海にどのような異変が起きているのか、これから海の中に潜って確認してきます」

海の中に広がっていたのは……

RKB今林隆史「見渡す限り一面ゴツゴツとした岩肌が広がっていて、生物の姿はほとんど確認できません。海藻はほとんど生えておらず、岩と岩の間には長いとげを持ったウニが潜んでいます」

玄界灘を含む東シナ海北部の海面水温は、この100年で1.28℃上昇しています。この海水温の上昇などによって引き起こされる「磯焼け」。アワビやサザエのエサとなり、小さな生き物の隠れ家や産卵の場所にもなる海藻が姿を消していました。代わりに目立つのが、海藻を食べ尽くすウニです。南方系でトゲが長く商品価値が低いウニの一種「ガンガゼ」がいたるところで見られました。

九州大学 三納正美准教授「元にも戻せないので、どうやって地元の人たちも海を活用しながらいけばいいのか考えるために、調査しなければいけないと思っています」

商品価値が低い厄介者の「ウニ」

磯焼けは潜水漁が盛んな宗像市でも起きています。アワビやサザエが減少し、ウニが増えていました。このウニ、中を見せてもらうと……

潜水漁師「商売で取るウニとしたら、ちょっと物足らないですね。ちょっと身が細いですね」

ウニを駆除するために、福岡県では今年度約2800万円の税金が投じられています。

エサの種類を変えた「ウニ」 味に違いは?

一方で、こうした駆除に頼らない取り組みも始まっています。

九大 栗田喜久准教授「補助金頼みになってしまうと持続的でない、補助金が終わってしまったら活動できないという現状がありますので。どうやって持続的に。ウニを取り除くと藻場は確実に回復するのは、いくつかの治験でわかっているので絶対にやった方がよい」

九州大学がこれまで培ってきたウニの養殖技術を活用する「宗像ウニプロジェクト」。出汁を取った後の廃棄される昆布、野菜の切れ端、タケノコの3種類のエサを分けて、それぞれ養殖しています。どのエサを与えたものかは伏せた状態で試食させてもらいました。

A「弾力もあって濃厚な味わい」(野菜)
B「Aよりも濃厚な気がします。でも後味はすっきり」(タケノコ)
C「非常にウニらしいおいしさを感じます」(昆布)

3種類のエサで、味や身入りがどうなるのか検証を進めています。

九大 栗田喜久准教授「価値のないウニに与えることで、そこに新しい価値を生み出していく。さらにその活動から藻場が保全されて、環境が改善されて水産資源が増えて、環境もよくなっていく。そういう風ないいサイクルが生み出される」

サステナブルな漁業は可能か

この事業に期待を寄せているのが、北九州市に本社を置くうどんチェーン「資さんうどん」です。これまで廃棄していたうどんの出汁を取った後の昆布を、ウニのエサとして提供。将来ウニを商品化することも検討しています。

資さんうどん 原田浩陽さん「循環型経済というところで、こちらの昆布を提供したウニを養畜して育てたものを、弊社で買い取りをしたうえで店舗で商品化できればなぁと考えています」

厄介者ウニの商品化めざし

ウニプロジェクトを事業として取り組んでいるのが、産業設備などを手がける高田工業所です。

高田工業所 佐野刀志男さん「手ごたえを感じながらワクワクしながらやっていますので、期待できると思います」

2023年度には新たな養殖場を建設し、規模を年6万個まで拡大して量産化の道を探っていきます。

高田工業所 佐野刀志男さん「畜養がうまくいけば需要のニーズはあろうかと考えています。宗像ブランドとして商品化して販売できるかなと思っています」

磯焼けで厄介物となったウニに、廃棄物だったエサを与えて、新たな価値を生み出す。持続可能な漁業を目指す取り組みが軌道に乗るのか、注目されます。

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この記事を書いたひと

今林隆史

1976年生まれ 福岡市出身 政治・経済などのニュース取材に加え、ドキュメンタリー番組の制作にも携わる。第58次南極観測隊に同行。JNNソウル特派員として韓国の大統領選挙(2022)などを取材。気象予報士・潜水士の資格を有し、環境問題や防災、水中考古学などをライフワークとして取材する。 番組「黒い樹氷~自然からの警告~」で科学技術映像祭 内閣総理大臣賞(2009)、「甦る元寇の船~神風の正体に迫る~」同映像祭 文部科学大臣賞(2013)など受賞。

R調査班

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