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AAA 與真司郎のカミングアウトについて松尾潔「声をあげる流れになれば」

人気グループAAAの與真司郎(あたえ・しんじろう)さんが7月26日、同性愛者であることを公表した。「3つ目の選択肢にたどり着きました」と語っているが、裏を返せばこれまでの芸能界にその選択肢がなかったことを物語っている。RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』に出演した音楽プロデューサー・松尾潔さんがこの勇気ある告白について「性的マイノリティの問題に限らず、エンターテイナーが声を上げる流れになってほしい」とコメントした。

AAAの與真司郎さんがゲイ告白

人気グループAAAのメンバー、與真司郎さんが先週、自身がゲイであるとファンに向けたイベントで公表しました。1週間ほど経ちましたが、いまも結構な余波が続いているように思います。

もしかしたらファンの方の中には、前から何となく感づいていた人もいるかもしれないし、距離感によっては「そうなの? 全然そう思わなかった」とか、いろんな反応があったようです。

あるいは「それをわざわざ言うことなのか」という、発言に対する是非をめぐって意見が分かれたりもしています。與さんの狙いだったのかどうかは別として、問題提起になっているなと思いました。

3つ目の選択肢をつくる

発言の全文はネット記事で読むことができますが、その中でも「この部分が肝になる」というところをピックアップしてみます。

カミングアウトを決意する前は2つの道だけしかないと思っていました。一つ目は、本来の自分を受け入れることなく、エンターテインメントの世界に居続けること。もう一つは、エンターテインメントの世界から退いて、世間から隠れてひっそりと暮らすことでした。

でも、たくさんたくさん考えて、3つ目の選択肢にたどり着きました。それはゲイということを公表した上で、エンターテインメントの活動を続けるということです。ありのままの自分で生きていくことで、大好きなエンターテインメントの活動をあきらめたくなかったんです。

僕はこれを機に、まったく違う人間になってしまうわけではありません。むしろ、このことを打ち明けたことによって、本来の自分を分かってもらえる、ファンの皆さんとの距離が縮まることを本当に願っています。

この言葉は重く、かつ本質的で、僕はこれを何度も何度も読み返しました。今年の日本のエンターテインメントビジネスの重要な言葉として、のちのち記憶されていくのではないかと思っているぐらいです。長いスピーチでしたが、その中でもこの部分にフォーカスして、僕なりに考察してみたいと思います。

「カミングアウトを決意する前は2つの道だけしかないと思っていました」これは言い換えると、これまでの芸能界、エンターテインメントの世界では2つだけしかなかったということです。

ひとつは「本来の自分を受け入れることなく、エンターテインメントの世界に居続けること」。つまり性自認をごまかし、偽って、エンターテインメントの世界で芸を見せたり、笑顔を見せたりするということですね。

そしてもうひとつは、本来の自分を優先した場合、芸能人ではいられない。だから、世間から隠れてひっそりと暮らすという表現を使っています。つまり、カミングアウトしながら芸能活動を続けるという両立ができないという現実が、今まではあったということを端的に述べています。

結局、彼は自分で選択肢をもうひとつ作ったんです。それは「ゲイということを公表した上で、エンターテインメントの活動も維持していく」ということ。これは昨今言われている「セルフラブ」「セルフケア」すなわち、ありのままの自分を受け入れて、自分をいたわるということを、今までの自分の公の部分を変えることなく続けていく。双方を両立させるということなんです。

「そんなの当たり前のことじゃないか」と僕は思ってしまったんですが、当たり前が当たり前としてこれまで通用してこなかったという現実を、彼の言葉は示していますね。

世の中を柔らかい方向へ変えるきっかけに

エンターテインメントという枠で話してきましたが、これは何も芸能界に限った話ではありません。一般社会においても、このことに関して同じようなことが言えるのではないでしょうか。

彼はスピーチの後半で、あるデータを引用しています。これ、結構重い話だったんです。與さんは「とある記事を読んで得た情報なのですが」と断ったうえで、次のように話しています。

“LGBTQ+”と自認している方のうち48%が自殺について考えたことがあり、さらにそのうちの12%は、実際にそれを行動に移していたという統計を目にしました。例えば、自分の性の対象が同性やどちらの性にも向いているというだけで命をなくす必要があるのでしょうか。理解されずに自分のことを責め続けて、最終的に耐えられずに追い込まれてしまう方が、これだけ多く存在するということを1人でも多くの方に知ってもらいたいです。

今回、行動を起こすことによって世の中を柔らかい方向へ変えるきっかけにする。“もの言えない雰囲気”を変えることになればと言っています。僕が素晴らしいと思うのは、彼自身の知名度を、こういう形で有効的に活用しようとしていることです。

エンターテイナーが声を上げる流れになってほしい

與さんがなぜ今このタイミングでカミングアウトをしたのかということは、僕はAAAのキャリアについてあまりよく知らないので断言できませんが、一つにはエイベックスのマネジメントが満期終了になって、エージェント契約になったことで、発言しやすくなったという背景はあるようです。

加えて、社会的には6月に国会で成立し、一応G7後にギリギリ施行された、いわくつきのLGBT理解増進法がありますが、それを受けてであろうということも何となく想像はつきますね。

LGBT理解増進法は、進歩だという方もいれば、これは悪法で、むしろ国民を分断するものではないかというような批判の意見もあります。そういった、ソーシャルな議論に対して、エンターテインメントの世界で人気もある與さんが、このタイミングで発言したことは、僕は本当に大きな出来事だなと思います。

声を上げるってことの重要さを、僕はこういったことで思い知りますし、今回のことに限らず、認知度の高い人がアクションを起こしてくれることによって、他の人たちも続きやすくなります。LGBTQ+に関すること以外でも、エンターテイナーの人たちが声を上げるような流れになってほしいなと思います。

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