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「終戦の日」の朝刊から考える“8月ジャーナリズム”と「新しい戦前」

昭和天皇の「玉音」が放送された8月15日が、今年も来た。戦争と平和について深く考える日だ。RKB毎日放送の神戸金史(かんべ・かねぶみ)解説委員長は、RKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で先週に続いて“8月ジャーナリズム”に触れ、朝刊各紙の中で印象に残った記事を紹介した。

まさに“8月ジャーナリズム”

今日8月15日は、78回目の「終戦の日」。新聞の朝刊には、戦争のことがいっぱい書いてあります。私は先週、“8月ジャーナリズム”という話をしました。

“8月ジャーナリズム”と言われても… 戦争を報じ続ける意味(radiko news)

8月になると、平和や戦争のことをメディアが多く取り上げるけれど、「8月しかしないじゃないか」と怒られたり、やゆされたりする面もあります。しかし戦争を知らない私たち、特に今の若い世代の記者が取材をすること自体はとても意味があるという話をしました。今日は、まさにそういう紙面になっています。
 

1面書籍広告では「戦争と平和」特集

1面下の方にある書籍広告は、記事3段分を8つに分割していることから「サンヤツ広告」と呼ばれますが、読売・毎日・朝日の全国紙3社はすべて戦争の書籍を紹介しています。

読売新聞の1面、広告で一番目立つ右端は『はだしのゲン』(完全版、全7巻)。「今こそ読みたい!」というカラー広告が出ています(広島市の方々に、ぜひお伝えしたい)。

朝日新聞は、以前私が紹介した漫画『ペリリュー ―外伝―』。2巻が出たばかりで、私もすぐに買いました。戦争の漫画ですが、「可愛らしいタッチで紡ぐ凄惨な『戦争』の日常」。サンヤツ広告も、今日は非常に印象的でした。

毎日新聞の2面に大きく出ていた広告は、澤地久枝さんの『記録 ミッドウェー海戦』(筑摩書房、税込み1870円)。広告には「日米戦死者数 3418名」と大きく出ています。広告のこの大きな数字が、一人一人の名前で描かれていました。NHKが先日、澤地さんのこの戦争調査について、ドキュメンタリーを2本放送しました(ETV特集『ミッドウェー海戦 3418人の命を悼む』、第1部「命の重さ」6月10日、第2部「残された者たちの戦後」6月17日)。私も見ました。

よかった朝日コラム「天声人語」

やはり“8月ジャーナリズム”はとても大事だ、と思います。6紙の今朝の「1面コラム」を読みましたが、全部、戦争と平和の話で書いています。読んでみて一番印象に残ったのは、朝日新聞「天声人語」でした。

記者が子供のころ「あれは小学校5年生だったか、担任の栗原先生が一度だけ戦争の話をしてくれた」と書き出します。サイパンで生まれ育った先生は、9歳のときに米軍が上陸してきて、ジャングルの洞窟へ逃げ込んだ。飢えと渇きで眠れず、12日目に「ミソアリマス、デテコイ」という米兵たちの声が聞こえたそうです。「なんで味噌?」

(天声人語)きょう終戦の日 朝日新聞DIGITAL

『▼水あります、が片言でなまった。のどが渇いているのに味噌なんて、とだれも動かない。呼びかけは延々と繰り返された。ついに母が「死ぬ時はみな一緒」と投降を促す。朝から水を探しに出ていた父は、たぶん米軍に撃たれ、永遠に戻らなかった▼子どもは時に残酷だ。「ミソアリマス」は、クラスの男子のはやり言葉になった。でもおかげで、40年たってもあの授業は忘れない』(朝日新聞8月15日朝刊「天声人語」より)

自己体験の中から出てきた言葉です。先生から聞いた「味噌あります」が流行り言葉になった。どれほど残酷なことだったか、と実体験として書いている。コラムの最後は「先生から預かった話を皆さんにお渡しする」。口で語り、口で語られたことを聞く。それが大事なことなんじゃないかというこのコラム、とてもいいなと思いました。

社説で「新しい戦前」に触れた新聞

西日本新聞の1面のトップは「安全保障を考える」という企画で、見出しは「もの言えぬ『新しい戦前』」。昨年末にテレビ番組『徹子の部屋』でタモリさんが言った言葉です。「来年はどんな年になりますかね?」と聞かれ、「新しい戦前になるんじゃないですかね」と言ったんですよね。私も見ましたけど、びっくりしました。

やはりタモリさんは優れていますね。「戦後が終わる」ということは、「戦前の始まり」かもしれません。西日本新聞は社説でも「新しい戦前」について触れていましたし、日経新聞も社説で書いています。

『今年、その「戦前」に光があたった。きっかけはタレントのタモリさんが語った「新しい戦前」という時代認識に共感が広がったことだ』(日経新聞8月15日朝刊社説より)

[社説]戦争阻む歴史を見る眼を培いたい(日本経済新聞)

※生放送では言い損ねましたが、毎日新聞1面コラム「余録」でも、「新しい戦前」に触れています。

余録「日本はこの興亡の大戦争を始むるのに幾人が知り…(毎日新聞)

今、米中対立だったり、ウクライナ戦争だったり、いろいろな対立がある中で、戦争のことをこう考える人が増えている、ということ。防衛力の増強もありますし、私達の暮らす日本もそのものも、新しい戦前に入ってきたのではないかと言われると、ドキッとしますよね。

善し悪し、いろいろな意見があるでしょうけど、時代がそういう大きな変化を迎えている可能性が高く、「後で思ったら、タモリさんの言った通りだったな」ということになるかもしれません。そんな年に私たちが生きている、ということを今日の紙面を見ても考えます。今朝の朝刊各紙を見てみると、いろいろなことを考えるんじゃないでしょうか。

◎神戸金史(かんべ・かねぶみ)
1967年生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。

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この記事を書いたひと

神戸金史

報道局解説委員長

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。