料理と切っても切れない関係の器。お気に入りの器があるだけで、料理をすることや誰かをもてなすことがより一層楽しくなるものです。作家ものや民芸、アンティーク、世界各国の器まで、収納場所に困るほど器を集めてしまうライターの森脇が、こだわりのセレクトが光るお店を紹介していきます。
この連載も早いもので1周年。私が器に興味をもった頃から足を運んでいるお店に再訪することも多く、改めてそれぞれのお店の思いやセレクトについて知ることができるいい機会となっています。今回おじゃました赤坂「工藝風向(こうげいふうこう)」もその頃に初めて訪れたお店です。
こちらを営むのは、店主の髙木崇雄さんと奥さまのしらべさん。髙木さんは東京での会社員生活を経て、2004年12月に清川「ラシック」の一室に「工藝風向」をオープン。その後、今泉に移転し、2009年5月に現在の店舗での営業を始めました。その傍ら、九州大学大学院で近代工芸史を専攻、「日本民藝協会」の常任理事や同協会が発行する「民藝」の編集長を務めるなど、店舗の運営に加えて講演や執筆活動などもなさっています。
髙木さんは、お隣の「珈琲美美」の故・森光宗男さんと高校生の時から付き合いがあり、「美美」が今泉から移転する際にこの場所に誘われて一緒に移転したそう。両店の設計を手がけたのは「ヌワラエリヤ」のオーナーで建築家の前田勝利さん、一昨年のファサード改修を担当したのは「PUSIS」や「くらすこと」などの内装を手がけた山田香織さん、という福岡の名店の魅力が集まった一角となっています。大濠公園や福岡市美術館を訪れた時の帰り道には、「美美」でコーヒーを飲んで、「風向」におじゃまするというのが、私も含めお決まりのコースになっている人も多いのではないでしょうか。
店内には髙木さんご夫妻がこれまでに出会ってきた、さりげないけれど手に取りたくなる工芸品が並んでいます。「私たちが仕事を見ていいと思い、信頼関係を築いてきたつくり手を紹介しています」と髙木さん。実際に窯や工房を訪れて自身の目でものを選ぶことを重視しているため、特に焼物は近場のつくり手が多いそう。また、師弟関係にある人は取り扱わないようにしているそうです。
開店当初から紹介している熊本県小代焼の窯元「ふもと窯」の井上尚之さんと岡山県「石川硝子工藝舎」の石川昌浩さん。「2人とは同世代で、付き合いも長いのでいろいろ言い合える仲です」と言う髙木さんご夫妻からお2人のエピソードを聞いていると、つくり手の人となりが垣間見え、器がより表情豊かに感じられます。「長く付き合いのあるつくり手だけでは、店もつくり手も古くなるので、最近は島根県出雲市『出西窯』の若手の展示なども行っています」と髙木さん。
訪れた時は、大分県小鹿焼の坂本創さんの器が入荷したばかりでさまざまな器が並んでいました。「風向」では坂本創さんが20代の頃から個展を開催していて、私が坂本さんを知るきっかけもこちらのお店でした。4月には沖縄「読谷山焼北窯」の松田健悟さんとの2人展も予定されているそうで楽しみです。
焼き物に加え、かごやカトラリーなど生活にまつわる工芸品も紹介しています。髙木さんご夫妻が選んだもののほかに、「ひとり問屋」として日本のさまざまな道具を紹介している日野明子さんが繋がれているのものもあるそうです。ちょうど探していた新潟県燕市「conte」のステンレス小物の取り扱いがあることもわかり、うれしい出会いでした。
今回も気になった器を紹介します。まずは「工藝風向」を代表するつくり手、小代焼「ふもと窯」の井上尚之さんの器です。左から「6寸皿」(2,420円)、「8寸平皿」(6,270円)。藁灰釉で仕上げた「6寸皿」は、白のなかに青みを感じる小代焼らしい色合い。飴色の「8寸平皿」は、櫛描きの模様がモダンな印象です。
坂本創さんは、20代の頃から活躍している小鹿田焼の若手作家。指描き、櫛描きなどの技法や釉薬など伝統的な小鹿田焼の作り方を守りながらこれまでとは違った焼き物を生み出しています。左から「7寸皿」(3,300円)、「8寸皿」(4,400円)。刷毛目を残した白い化粧土から透けて見える素地や縁に並んだ筒描きの点などが趣深い「7寸皿」、そして化粧土に櫛描きを施して模様にした「8寸皿」。どちらも実際に使用することを考えるのが楽しくなるお皿です。
こちらは北海道北見市「野つけうるし」の菅原咲さんのお椀です。左から「4寸椀」(12,650円)、「3.8寸椀」(12,100円)。菅原さんは岩手県の「安比塗」の「安代漆工技術センター」で学んだのちに独立し、自生の北限となる網走の漆を使って漆器を作っています。なめらかな手触りと手になじむ形がいいですね。店頭には髙木さんが実際に使っているものが展示されていて、艶や色味の変化を感じられるのも興味深かったです。
いつ訪れても興味を引かれるものと出会い、新しいことを知ることができる「工藝風向」。静かな店内に並ぶ確かな目で選ばれたものを手に取ると、さまざまなことへ誠実であることの大切さを感じ背筋がぴんと伸びる特別な場所です。
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