僕の生まれ育った北九州では、酒屋で立ち飲みすることを"角打ち"と言っていた。現在のようにコンビニや量販店がない時代、それぞれの町には一軒や二軒の酒屋があり、大人たちが店内で飲んでいるのをよく目にしたものだ。加えて製鉄所をはじめとする工場で働く人たちは三交代勤務が多く、夜勤明けに朝から酒を飲むのもごく普通の風景だった。そんな環境で育てば、長じて立派な呑み助になるのも、むべなるかな。町角で立ち飲みできる酒屋や酒場を見つければ、つい覗かずにはいられない。福岡で立ち飲みがブームといわれて久しいが、こちとら年季が違うんだぜ。
1.立ち飲みの聖地【角屋】からスタート

天神で立ち飲み屋をハシゴするなら、まずはここから始めねばなるまい。呑み助の"聖地"ともいえる、老舗の立ち飲み酒場「角屋」だ。初めて訪れたのは随分と昔で、現在「ソラリアプラザ」が建っている場所にまだ「福岡スポーツセンター」があったように記憶している。当時の客層といえば、競艇場帰りのおっさんや西鉄電車で帰宅するくたびれたサラリーマンが大半で、店内の雰囲気も殺伐としたものだった。ところが今や未成年を除く地元の老若男女に加えて、来福客やインバウンドの外国人までが陽気に杯を酌み交わす光景は、まさに隔世の感がある。

店に入ると券売機で好みの酒やつまみを買うシステムで、今どき焼酎1杯300円~という破格の値段! つまみはおでん1個140円からショーケースに入った一品料理は150円~500円程度。「いかの塩辛」や「たこわさび」、「しめさば」に「串カツ」等々、いかにも呑み助が好きそうなアテが揃っている。


とりあえず「酢モツ」(250円)をつまみに生ビールを喉に流し込み、「ハムカツ」(350円)で小腹を満たす。立ち飲み屋のハシゴとしては、上々のスタートだ。サクッと切り上げて外に出ると、やや傾いてきた初夏の陽射しが目に眩しい。地下街に潜って、次の店へと足を向けた。


2.話題のビルにオープンしたパラダイス【立ち呑み たたんばぁ】へ

目指したのは4月末にオープンしたばかりの天神の新名所「ONE FUKUOKA BILD.」(通称ワンビル)だ。呑み助のオヤジが何故そんなオシャレスポットに?と思われるかもしれないが、地下1階の「天神のれん街」に長崎が本店の立ち飲み酒場ができたという噂を聞きつけて行ってみることにした。その名も「立ち呑み たたんばぁ 福岡本店」は開業間もないということもあり、早い時間からほぼ満席の賑わい。カウンターに着くと、正面の壁面一杯に並べられた一升瓶に目を奪われた。


その数なんと焼酎200種類、日本酒100種類以上のラインアップで、ほかにも泡盛やワイン、ウイスキー、クラフトビール、リキュールなど、ありとあらゆる種類の酒が揃っている。眺めるだけで気分が爆上がりで、これをパラダイス(天国)といわずに何といおうか!
さらに目の前に張られたメニューを見て、二度目の驚きが。小鉢のつまみが100円~という常軌を逸した値段に小躍りしながら、一杯目のグラスワインをグイッと飲み干した。

ここのシステムは"どんぶり勘定"と書かれた器に現金を入れておき、一杯注文するごとにキャッシュで支払う方式。あらかじめ予算を決めておけばそれで打ち止めにできるし、なにしろ写真の「焼酎ロック」(400円)、「ポテサラ」(100円)、「合鴨スモーク」(200円)で合計700円。さらに"せんべろ会員"になれば、1,000円で3杯飲めるというから堪らない(銘柄の指定は不可)。最近は足が遠のいていた天神だが、今後はわざわざ用事を作ってでも出てくる機会が増えそうだ。

3.最後の〆も立ち飲みで【立ち呑みとラーメン れんげ】

千鳥足になる一歩手前で踏みとどまり、ワンビルを出て最後の1軒へ。〆のラーメンを求めて「立ち呑みとラーメン れんげ」へと向かった。ここは自家製麺のラーメンが食べられる立ち飲み酒場で、常時「豚骨ラーメン」「醤油ラーメン」「塩ラーメン」(各890円)の定番に加えて限定麺を提供している。しかも、スープによって麺の打ち方を変えるという本格派。「醤油ラーメン」を注文しつつ、待っている間にポテサラでビールを飲むのが呑み助の習い性だ。

真っ赤な丼で出てきたラーメンは、甘めの醤油スープにストレートな中太麺の組み合わせ。3種類のチャーシュー、メンマ、煮卵、ナルト、海苔、ミツバが乗った具沢山にも関わらず、あっさりとした味でスルスル食べられる〆にふさわしい一杯だった。
店を出る頃には日も暮れて、あたりは夕闇に包まれる時刻。さて、次回はどこで立ち飲みハシゴをしようかと思案しながら、たそがれ時の親不孝通りから帰路についた。

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