PageTopButton

「自主映画で時代劇を撮る!」映画『侍タイムスリッパー』が大ヒット

radiko podcastで聴く

時代劇? SF? それともコメディ? ―――自主制作映画『侍タイムスリッパー』が口コミでブレイクしている。上映館は全国250を超えた。インディーズ映画好きを自認するRKB毎日放送の神戸金史解説委員長が、この映画の持つ魅力を、10月15日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で熱く語った。

幕末の武士が時代劇の撮影所にタイムスリップ!

時代劇の撮影セットに紛れ込んだ侍©2024 未来映画社

映画『侍タイムスリッパー』を観てきました。幕末の京都にいた会津藩士がタイムスリップしたのは現代。京都・太秦にある時代劇の撮影所だった、というコメディです。「自主映画で時代劇を撮る」という、チャレンジングな企画で、制作費はすごく低予算なのですが、快進撃を続けています。観に行った日の劇場もほぼ満員でした。

今年8月に公開されたときは東京での単館上映でしたが、口コミで人気が広がって上映館が増加していて、ホームページによると、10月8日現在で上映館は全国251館にまで広がっているそうです。動員数も22万人、興行収入3億円を突破しています。

福岡県では9月から上映が始まっていましたが、10月11日からは北九州市のT・ジョイリバーウォーク北九州、小倉コロナシネマワールド、イオンシネマ戸畑、イオンシネマ大野城、ユナイテッド・シネマトリアス久山、佐賀県では・イオンシネマ佐賀大和と、どんどん上映館が増えています。

脚本の面白さに京都撮影所が特別協力

米農家でもある安田監督©2024 未来映画社

監督の安田淳一さんは、本業が米農家。大学卒業後にビデオ撮影業を始め、幼稚園の発表会からブライダル撮影会、イベントの仕事での演出などをしていたのですが、2023年に父親が亡くなり実家の米作りを継いだということで、自主映画としては今回3作目です。

自主映画は自分たちで何でもやらなければいけません。今回は①監督、②脚本、③原作、④撮影、⑤照明、⑥編集/VFX、⑦整昔、⑧タイトルのデザインと CG製作、⑨現代衣装、⑩車両、⑪制作など、1人で11役を務めました。エンドロールに「車両」と出ていて、笑っちゃいましたね。さすがインディーズ映画です。無名の監督作品という情報を覆す作品の完成度の高さに、話題が沸騰しています。

【ストーリー】
時は幕末、京の夜。会津藩士高坂新左衛門は暗闇に身を潜めていた。「長州藩士を討て」と家老じきじきの密命である。名乗り合い両者が刃を交えた刹那、落雷が轟いた。

やがて眼を覚ますと、そこは現代の時代劇撮影所。新左衛門は行く先々で騒ぎを起こしながら、守ろうとした江戸幕府がとうの昔に滅んだと知り愕然となる。

一度は死を覚悟したものの心優しい人々に助けられ少しずつ元気を取り戻していく。やがて「我が身を立てられるのはこれのみ」と刀を握り締め、新左衛門は磨き上げた剣の腕だけを頼りに撮影所の門を叩くのであった。「斬られ役」として生きていくために…。

「脚本がとにかく面白い」ということで、東映京都撮影所が特別協力しました。

大ヒット御礼で舞台あいさつ

新宿で開かれた大ヒット御礼舞台あいさつ=諏訪ただゆきさん提供

タイムスリップしてしまった会津藩士を演じた山口馬木也さんは、岡山県出身の51歳。インターネットで検索したら、大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にも出ていて、「あ、この役の人か!」と分かりました。役者生活25年で、自身初となる長編映画での主演。インディーズであるからこそ叶ったこの主演でしょうけど、大ヒットで非常に盛り上がっているようです。

10月14日、東京の新宿ピカデリーで、大ヒット御礼の舞台あいさつがあり、監督や山口馬木也さんたちがそのままの衣装で登壇、「会津藩松平家家中、高坂新左衛門と申します」とあいさつして、大喝采だったそうです。

本格的な殺陣の魅力

殺陣の指導は切られ役のプロから©2024 未来映画社

ネタバレしちゃいけないので、あまりストーリーは言えないのですが、山口さんはまるで本当の江戸時代の人が降りてきたかのようにも見えるんです。もちろん表情も含めた演技がそうさせるのですが、もう一つは殺陣(たて)がすごいんです。京都撮影所といえば殺陣をずっと引き継いでいますが、その方々が指導しています。

演技の殺陣は竹光を真剣のように見せる技。つまり、刀の重さを感じさせることです。映画の中で演じられる殺陣が迫力満点なんです。言い過ぎかもしれませんが、世界的な大ヒットになった『SHOGUN 将軍』で見た殺陣に遜色ない感じに見えました。これには、時代劇を引き継いできた日本の文化があるのかな、と感じました。

インディーズ映画ならではの熱さ

私はインディーズ映画が好きで、東京に単身赴任していた時期に、東京・西神田のビルで毎月開かれている「TOKYO月イチ映画祭」によく行っていました。月に1回開催で、10本くらいの映画を観ます。5分の短編から、30分より少し長いくらいまでの自主映画をみんなで持ち寄り、上映作品を全部観通した人は投票ができ、その月のグランプリを決めています。なかなかこれだけの本数が集まるのは東京ならでは、と思いました。そこにはチャレンジ精神、夢を見る心があり、私は大好きです。

この「TOKYO月イチ映画祭」で上映された映画に出た、カトウシンスケさんという役者さんが非常に印象に残りました。そのカトウさんがメジャー映画『ある男』に出演したので、ちょうど2年前にこのコーナーで紹介しました。

インディーズ映画にはいろんな可能性があります。報われないことが多いかもしれませんが、監督も、役者も自分でモノを作って表現していく。『侍タイムトリッパー』は、そんな意気が込められた映画でした。

「これが日本なのか?」©2024 未来映画社

映画館で観て、大ヒットする理由がよく分かりました。劇場ではゲラゲラと笑い声が起きているし、泣いた人もいるんじゃないかな。ストーリーがとにかく面白かったので、「これは観る価値が十分にある!」と思いました。

インディーズ映画の大ヒットと言えば、『カメラを止めるな!』(2017年)があります。「もう2度とない」と言われた『カメ止め』の大ヒットでしたが、その再来とまで言われるヒットになってきています。お近くの映画館で観ることができるので、ぜひ鑑賞してください。とにかくおかしいし、悲しいし、笑えます。

この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう

この記事を書いたひと

神戸金史

報道局解説委員長

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。