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西日本で進む「軍事化」…地方局が県をまたいで取材して分かったこと

radiko podcastで聴く(前編)

軍事力が増強されている西日本地域で、県を越えて横に連携する初の反対集会が開かれた。そのもようを取材したRKB毎日放送の神戸金史解説委員長は、4月22日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で「地方のメディアは日々の報道に、つい慣れてしまいがちだ。県単位のエリアの中だけを見ず、横に連携することも大事だ」とコメントした。

自衛隊「南西シフト」と西日本

けさ(4月22日)の読売新聞朝刊に、参議院予算委員会で石破首相が、関税の措置の見直しに向けた交渉を巡って「安全保障の問題をリンクさせて考えるべきだと思っていない」と発言したという記事が載っていました。

トランプ米大統領は日米安保条約について、アメリカが一方的に負担をしていると主張しています。関税問題にはディール(取引)で臨もうとしていますが、ここまで押して、ちょっと一歩引いて、どこかで相手に落としどころを見つけさせる、というやり方を取っていることが多いですが「安全保障の話までそうなってくると嫌だな」と思っていました。

日本の自衛隊は、アメリカと密に防衛政策に当たるのは今までと変わらない一方、3月には「統合作戦司令部」を発足させました。陸海空の自衛隊を一元的に指揮する部署です。緊密に米軍と進めていくと同時に、自分たちの足で立っていく整備が進んでいるのだろうと思います。

この間、沖縄周辺では、自衛隊の強化がものすごく進んでいます。これを「南西シフト」という言い方をします。2016年に沖縄県与那国島に陸上自衛隊の駐屯地ができたのを皮切りに、2019年に宮古島と奄美大島(鹿児島県)、2023年に石垣島と、駐屯地がどんどん増えてきています。

集会に参加した家族連れ

ミサイル配備などに発展していて、こうした「南西シフト」に危機感を持っている人たちが、4月20日(日)、陸上自衛隊築城基地近くのグラウンド(福岡県行橋市)に集まり「平和といのちをみつめる福岡大集会」を開きました。九州各県で平和運動・市民運動をやっている方が集まったのが特徴です。

小雨が降っていましたが、大分県中津市から車で行橋市の会場に向かう、梶原得三郎さんと同乗しました。梶原さんは、大規模開発や基地の反対運動などに携わって半世紀以上、87歳ですが、とにかくお元気です。

集会に参加した87歳の梶原得三郎さん

梶原得三郎さん:日本政府がどんどん戦争の方向に向かって、ことを進めていますから、特にこの西日本、琉球列島あたり、特に大変なことになっているので、反対運動としてもちょっと大きな集会をやって、何とか止める力にならないか、と。

空港・港の「軍民共用化」が進む九州

この番組で、ちょうど1年前、自衛隊や海上保安庁が訓練などで利用するため、全国16の港や空港が「特定利用空港」「特定利用港湾」に指定されたことをお伝えしました。国の予算で空港や港の整備が促進されるのは、地方にはうれしいことですが、民間施設を自衛隊が使うことにで「軍民共用」と認識されると、攻撃対象になると指摘する専門家もいます。

民間施設への攻撃は国際法違反になりますが、そうではないと自ら認めたことになるのではないか、という危惧です。特定利用空港・港湾はその後さらに追加されていて、現在は空港が8つ、すべて九州・沖縄地区にある空港です。港湾は20、そのうち九州・沖縄は博多港や熊本港など半数の10を占めています。

【特定利用空港】北九州、長崎、福江、熊本、宮崎、鹿児島、徳之島、那覇 【特定利用港湾】博多、熊本、八代、鹿児島、志布志、川内、西之表(種子島)、名瀬(奄美大島)、和泊港(沖永良部島)、石垣

この展開を考えると、九州全体に「自衛隊が使いやすい施設」が増えてきているのは間違いないでしょう。軍事拡張につながっているのではと危惧する人たちがいます。

一方で、沖縄の南西諸島には当然駐屯地があるべきだと言う方もいるし、援護していくためには九州が頑張らなきゃいけないと考える人もいるとは思います。考え方が分かれるところです。だけど現実的には南西シフトがきっちり進み、そして九州・沖縄、もしくは西日本と言ってもいいかもしれませんが、南西諸島を整えるための後背地として、支える側に立つ施設が増えているのは確かです。

九州は「まるっと当事者ですよ」

ドキュメンタリー映画『戦雲(いくさふむ)』を撮った映画監督・三上智恵さんの講演会が1年前の4月、福岡県柳川市でありました。(「いくさふむ」は石垣島の方言)。『戦雲』は、2016年から「南西シフト」が急激に強化され、島にミサイルが配備されていく過程を赤裸々に描いだドキュメンタリーです。

7年間をまとめて見ると、その移り変わりが分かりました。テレビでも地元では放送しているかもしれませんが、全国放送でこうやってまとめたことはあまりないのではないでしょうか。仮にあったとしても、見逃していたら見ていないことになります。

映画を観て、現状がこうなっているんだと知ってびっくりしました。その時、三上さんから「もう実は、九州はまるっと当事者ですよ。沖縄だけじゃないんですよ」と言われました。それが非常に印象に残っていました。

雨の中で開かれた集会

今回行った集会、主催者発表で参加者は1300人でしたが、「そんなにはいないんじゃないかな」と思いました。沖縄・南西諸島の方々はメッセージを寄せました。でも、小雨がぱらつき、ぬかるんだグラウンドに、それなりの人数が集まって声を上げました。

地元の北九州空港について、報告がありました。

北九州空港は昨年4月に、特定利用空港に指定されました。10月に日米共同訓練が、自衛隊と米軍など合計4万5000人で行われ、北九州空港でも初めて軍事訓練が行われました。

米軍岩国基地所属の対潜哨戒機に、自衛隊機が給油を行うという訓練が行われていて、空港にはたくさんの人がいました。日常の横に、戦争がある。まさに現在を象徴する状況だったと思います。

北九州空港の2500メートルの滑走路を、3000メートルに延長し、補強する工事は1年以上前から始まっています。延長されれば、米軍のどんな飛行機も、北九州空港を利用できるようになります。(辺野古土砂ストップ北九州・事務局長、八記久美子さん)

各県の情報をまとめ初めて分かること

月刊誌『地平』

北九州空港滑走路延長のニュースは放送されていますが、「どんな米軍機も」というのは、なるほどなと思いました。福岡・佐賀をエリアとする私たちRKBも、佐賀にオスプレイが配備される計画は報道していますが、他の県のことはよく分かりません。

スタジオに持ってきたのは、月刊誌『地平』です。私が信用している人も編集者で参加しているので、私は去年1月の発刊から毎月購読しています。実は『地平』は4月号で、「軍事化される西日本」という特集を組んでいます。

特集を読んでいたら、私たちRKBの仲間、大阪の毎日放送(MBS)の記者で、友人の亘(わたり)佐和子さんが記事を書いていました。京都南部にある祝園(ほうその)分屯地で、自衛隊が102億円をかけて火薬庫を8棟増設することに驚き、取材した中身が書いてありました。

祝園分屯地は、関西文化学術研究都市の中央部にあり、半径10キロ圏内には奈良市や大阪府枚方市などの人口密集地があります。「敵基地を直接攻撃できる長距離ミサイルが来るのか」「有事の際に標的になるのでは」と不安の声が上がり始め、亘さんは2025年2月にMBSラジオ報道特別番組『ミサイル弾薬庫がやってくる』を制作、関西で放送しています。

亘さんが「軍事化される西日本」という特集に、京都のことを書いています。つまり、南西シフトに伴って、後背地として九州の防衛力が整備されていくだけではなく、京都なども入っているのです。特定利用港湾には、四国にある港も加わっています。確かに、焦点は西日本なのだと、読んで知りました。

大学の目の前に弾薬庫が

西日本の急速な軍事化に危機感を強めている各地の人たちが2月、「戦争止めよう! 沖縄・西日本ネットワーク」を発足させ、初めて開いた集会が4月20日だったのです。集会では、九州各地からの報告がありました。たまたま、亘さんのように特集の執筆を担当した人たちも来ていました。

熊本から参加した海北由希子さん

南西シフトになって、司令部が熊本の西部方面総監部にあります。町の中の、健軍駐屯地の中の一部が、西部方面総監部です。それが、地下化されようとしています。3年前の予算では、1億円と計上されていました。何のことかよく分からず、その次の年は5億円になりました。そして今年、355億円です。来年はどうなるのだろうか。これは、単に地下化するだけの分の予算です。(平和を求め軍拡を許さない女たちの会熊本・事務局長、海北由希子さん)

大分市のほぼ中央にある陸上自衛隊大分分屯地で、計9棟の大型弾薬庫の建設が始まりました。また、湯布院には、各地のミサイル連隊に指令を出し、戦争の火ぶたを切る第2特科団も配備されています。九州への長射程ミサイルの配備は、湯布院と熊本がターゲットになっています。(大分敷戸ミサイル弾薬庫問題を考える市民の会・運営委員、池田年弘さん)

私は福岡にいて、あまりよく分かっていませんでした。西部方面総監部が地下に移されようとしていること、大分で弾薬庫9棟の建設が始まっていること。大分の弾薬庫は、大分大学の真ん前にあります。『地平』を読んで知ったのですが、集会で実際に話を聞き、いろいろな地域からの報告をまとめて聞くと、「九州はこうなっているのか!」と感じました。

会場には「防衛力の増強に反対」という人がもちろん多いんですが、そうではないという考えを持つ人も世の中にはいっぱいいると思います。ただ、「沖縄は、日本を守るために一定の負担をすべきでしょう」と言っていた九州の方々が、実は東日本からは「九州は当然、一定の負担をすべきだよね」と言われる側になっていることを実感した、という感じです。それはそれで、知らないといけないことだと思いました。

南西諸島の気持ち「身にしみた」

会場で面白いなと思ったのは、「日の丸」を掲げた人がいたことでした。

「日の丸」を掲げた参加者も

「日の丸」アピールは大事だと思いますね。いろいろ考えると、憲法の精神と、日本の文化そのもの、伝統は一致しているんじゃないか、と。今の軍拡の流れ、早く言えば、アメリカにそそのかされてやっているようなものですからね。

「日の丸」と一緒に、「PEACE」と書いた短冊も掲げていました。いろいろな人がいて、いいなと思いましたし、日本を大事にするからこそ軍備に反対するという考え方も、なくはないよな、とお話をうかがいました。

集会後のデモに参加する梶原得三郎さん(左)

大分県中津市の梶原得三郎さん(87歳)は、集会からデモにかけて3時間近くあったのに、立ちっぱなしで参加していました。「さすがにもう限界ですよ」と笑っていましたが。

いろんな意見があっていいと思うんです。「陸上自衛隊の増強は当然だ」と言う人もいるでしょうし。ただ、私たちは、基本的に自分の放送エリアのことしか放送していないし、他のエリアのことが分かっていません。

まとめて見ると、例えば『地平』という月刊誌を見て、初めてこうなっているんだなと分かります。(系列の)TBSを通じて全国放送する機会を得て「まとめてやってみるべきではないか」とも思いましたし、新聞社もそういう機能をもっと果たしていった方がいいんじゃないか、と思いました。

梶原さんは、南西諸島の方々のメッセージを聞いて「身にしみた」と話していました。この「身にしみた」という言葉は、とてもいいなと思います。私たち自身も、立場に関わらず、身にしみたという感覚を持って、ニュースを制作、放送したいと思いました。

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この記事を書いたひと

神戸金史

報道局解説委員長

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。