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荒れる政見放送“実名で個人的なトラブル”“服脱ぐ”「そのまま放送」は問題ない?【調査報道】

今月10日に実施された参議院選挙の期間中にそれぞれの候補者や政党の主張を伝える「政見放送」がテレビやラジオで実施されました。政見放送は公職選挙法で「そのまま放送しなければならない」と定められていますが、最近の選挙では放送すべきか考えてしまう内容のものも見られます。なぜ、そうしたことが起きているのかRKBの調査報道グループ「R調査班」が背景を取材しました。

◆政見放送で実名あげ「もめ事で暴行受けた」
6月30日にRKBで放送された政見放送を録画し、音声を一部処理したものです。
「実は少し揉め事があって暴行を受けてしまっていたんですけどその時実際に暴行した人は”●●”という●●の社員ですがその人が暴行した事を認めていません」

実際には伏せ字で示した部分の実名が放送されました。今回で3度目の国政選挙出馬となったNHK党の熊丸英治氏は、政見放送で自身が被害者だと主張するトラブルについて、実在する個人名を挙げて語りそのまま放送されました。

公職選挙法は、政見放送を実施する放送局に対して「そのまま放送しなければならない」と定めているためです。


◆名指しされた会社員は否定、熊丸氏「ウソ」
NHK党・熊丸氏:
Qあの内容を政見放送以外で訴えることは考えられなかった
「あれはあれで、試しにああいう方法もあるだろうと。ビデオ制作会社の方が落ち着いてくれと言われて、あれくらいで収まっていて、住所とかまで言おうかと思ったけど、そこまではしなかった」

この政見放送で熊丸氏から名指しされた会社員は、所属先を通じて「そのような事実はない」と回答しました。また、目撃者と名指しされた男性も熊丸氏の主張を完全に否定しています。

公職選挙法には、他人の名誉を傷つけるなどの「政見放送としての品位を損なう言動をしてはならない」とも書かれています。

NHK党・熊丸氏:
Q公職選挙法では、政見放送で名誉を傷つけ品位を損なう言動をしてはならないとなっています
「いや、それは該当していないです。向こうがウソついているので」


◆法の想定外か・・・選管“関与できない”
福岡県選挙区についての政見放送を管理運営する立場の福岡県選挙管理委員会は、この放送について議論した結果「政見放送を事前に審査して指導することは憲法上の検閲にあたりかねない」として「内容に関与することはできない」との見解を示しています。

選挙管理委員会・藤井委員長「立候補した人がどのような訴えを選挙民にしていくかは本来自由でなければいけない。個人レベルの批判まで規制するというのはできないのかなぁと思っています」

こうした状況に問題はないのでしょうか。九州大学法学部の南野教授は公職選挙法の限界を指摘します。

南野森教授「一般の民間人を政見放送の中で悪口を言うとか名誉を棄損するとか、事実に反することを言うとか、よもやそんな人が政見放送でいると想定されていなかったので、法が想定していないんですね。政見放送そのものあり方について公職選挙法のそのものあり方について国会で議論をして見直す必要があるのではないか」


◆N党立花党首「思いがあってやったんだろう」
熊丸氏の政見放送についてNHK党の立花党首に聞きました。

NHK党・立花党首:
「熊丸なりに思いがあってやったんだろうと思います。もちろん党として責任を取るべきものはとらないといけないと思っていますけど。ちょっとごめんなさい。そこについては承知していないです。承知していませんが、責任逃れしようという気持ちもないです」


◆放送局の設備で無料放送、服を脱いで踊る候補者も「そのまま放送」?
キャスター:
取材した今林記者です。そもそも政見放送とはどういうものなのでしょうか?

RKB今林隆史:
公職選挙法では選挙の期間中、候補者や政党がそれぞれの政治的な見解を、放送局の設備を使って無料で放送できることになっています。最近では事前に収録した映像を持ち込むこともできます。戦後の総選挙でまずラジオから始まり、その後テレビでも実施されるようになって、幅広く見解を伝える手段がない候補者にとって貴重な機会になってきました。

ところが今回の参院選以外にも、最近の選挙では服を脱いだり踊ったりと奇抜な政見放送を用意する候補が現れています。

キャスター:なぜそういった政見放送がそのまま流れてしまうんでしょうか?
公職選挙法が政見放送を「そのまま放送しなければならない」と定めているためです。また、選挙管理委員会は憲法21条が禁止する「検閲」にあたるとして、放送内容への関与はしないとの見解を示しています。こうした政見放送が増えてきた背景についても取材しています。


◆当選ではなく“助成金”狙い 自分の主張だけなら「吟味必要ない」
NHK党は今回、改選議席数3の福岡選挙区に3人の候補者を擁立するなどし全国ほぼすべての選挙区で定数と同じだけの候補者を擁立。その目的は候補者の当選ではなく、税金から拠出される政党助成金だと明言していました。

NHK党・立花党首演説「我々NHK党は皆さんが1票投じていただければ250円の政党助成金を受け取ることができます」

政党助成金は、得票率2%などの政党要件を満たした党に交付されるもので、国民1人あたり年間250円の税金が振り分けられています。今年、NHK党に交付された政党助成金は2億1000万円あまり。これを狙って多くの候補を擁立したのです。

立花党首「当選する可能性がある候補者に関してはある程度精査しなければいけないと思っていますけど、立候補して自分の主張をするだけっていう候補者についてはまあ、そこまで吟味する必要はないと」

選挙の結果、NHK党は政党助成金を受け取れる得票率2%を超えました。さらに比例代表で1議席を獲得。当選したのは、有名人のスキャンダルを暴露するユーチューバーでした。


◆供託金没収されても“お得”?法律の歯止め効かない現状
キャスター:選挙には一定の票を取らないと没収される供託金があって、売名行為などを目的にした立候補に歯止めをかけていると思いますが、実態はどうなのでしょうか?

RKB今林隆史:
参院選の供託金は300万円ですが、政見放送をネットに掲載して多くの関心を引けば結果的に供託金を払ってもお釣りがくると考える候補もいるようです。さらに今回すべての候補の供託金を政党が用意したところもありました。

本来の目的を外れた形で政見放送が利用されかねない、また、それに対して今の法律では歯止めがきかないのが現状で選挙の在り方が問われています。

政見放送で実名あげ「もめ事で暴行受けた」

6月30日にRKBで放送された政見放送を録画し、音声を一部処理したものです。
「実は少し揉め事があって暴行を受けてしまっていたんですけどその時実際に暴行した人は”●●”という●●の社員ですがその人が暴行した事を認めていません」

実際には伏せ字で示した部分の実名が放送されました。今回で3度目の国政選挙出馬となったNHK党の熊丸英治氏は、政見放送で自身が被害者だと主張するトラブルについて、実在する個人名を挙げて語りそのまま放送されました。公職選挙法は、政見放送を実施する放送局に対して「そのまま放送しなければならない」と定めているためです。

名指しされた会社員は否定、熊丸氏「ウソ」

NHK党・熊丸氏:
Qあの内容を政見放送以外で訴えることは考えられなかった
「あれはあれで、試しにああいう方法もあるだろうと。ビデオ制作会社の方が落ち着いてくれと言われて、あれくらいで収まっていて、住所とかまで言おうかと思ったけど、そこまではしなかった」
この政見放送で熊丸氏から名指しされた会社員は、所属先を通じて「そのような事実はない」と回答しました。また、目撃者と名指しされた男性も熊丸氏の主張を完全に否定しています。

公職選挙法には、他人の名誉を傷つけるなどの「政見放送としての品位を損なう言動をしてはならない」とも書かれています。
NHK党・熊丸氏:
Q公職選挙法では、政見放送で名誉を傷つけ品位を損なう言動をしてはならないとなっています
「いや、それは該当していないです。向こうがウソついているので」

法の想定外か・・・選管“関与できない”

福岡県選挙区についての政見放送を管理運営する立場の福岡県選挙管理委員会は、この放送について議論した結果「政見放送を事前に審査して指導することは憲法上の検閲にあたりかねない」として「内容に関与することはできない」との見解を示しています。
選挙管理委員会・藤井委員長「立候補した人がどのような訴えを選挙民にしていくかは本来自由でなければいけない。個人レベルの批判まで規制するというのはできないのかなぁと思っています」
こうした状況に問題はないのでしょうか。九州大学法学部の南野教授は公職選挙法の限界を指摘します。
南野森教授「一般の民間人を政見放送の中で悪口を言うとか名誉を棄損するとか、事実に反することを言うとか、よもやそんな人が政見放送でいると想定されていなかったので、法が想定していないんですね。政見放送そのものあり方について公職選挙法のそのものあり方について国会で議論をして見直す必要があるのではないか」

N党立花党首「思いがあってやったんだろう」

熊丸氏の政見放送についてNHK党の立花党首に聞きました。
NHK党・立花党首:
「熊丸なりに思いがあってやったんだろうと思います。もちろん党として責任を取るべきものはとらないといけないと思っていますけど。ちょっとごめんなさい。そこについては承知していないです。承知していませんが、責任逃れしようという気持ちもないです」

放送局の設備で無料放送、服を脱いで踊る候補者も「そのまま放送」?

キャスター:
取材した今林記者です。そもそも政見放送とはどういうものなのでしょうか?

RKB今林隆史:
公職選挙法では選挙の期間中、候補者や政党がそれぞれの政治的な見解を、放送局の設備を使って無料で放送できることになっています。最近では事前に収録した映像を持ち込むこともできます。戦後の総選挙でまずラジオから始まり、その後テレビでも実施されるようになって、幅広く見解を伝える手段がない候補者にとって貴重な機会になってきました。

ところが今回の参院選以外にも、最近の選挙では服を脱いだり踊ったりと奇抜な政見放送を用意する候補が現れています。
キャスター:なぜそういった政見放送がそのまま流れてしまうんでしょうか?
公職選挙法が政見放送を「そのまま放送しなければならない」と定めているためです。また、選挙管理委員会は憲法21条が禁止する「検閲」にあたるとして、放送内容への関与はしないとの見解を示しています。こうした政見放送が増えてきた背景についても取材しています。

当選ではなく“助成金”狙い 自分の主張だけなら「吟味必要ない」

NHK党は今回、改選議席数3の福岡選挙区に3人の候補者を擁立するなどし全国ほぼすべての選挙区で定数と同じだけの候補者を擁立。その目的は候補者の当選ではなく、税金から拠出される政党助成金だと明言していました。
NHK党・立花党首演説「我々NHK党は皆さんが1票投じていただければ250円の政党助成金を受け取ることができます」
政党助成金は、得票率2%などの政党要件を満たした党に交付されるもので、国民1人あたり年間250円の税金が振り分けられています。今年、NHK党に交付された政党助成金は2億1000万円あまり。これを狙って多くの候補を擁立したのです。
立花党首「当選する可能性がある候補者に関してはある程度精査しなければいけないと思っていますけど、立候補して自分の主張をするだけっていう候補者についてはまあ、そこまで吟味する必要はないと」
選挙の結果、NHK党は政党助成金を受け取れる得票率2%を超えました。さらに比例代表で1議席を獲得。当選したのは、有名人のスキャンダルを暴露するユーチューバーでした。

供託金没収されても“お得”?法律の歯止め効かない現状

キャスター:選挙には一定の票を取らないと没収される供託金があって、売名行為などを目的にした立候補に歯止めをかけていると思いますが、実態はどうなのでしょうか?

RKB今林隆史:
参院選の供託金は300万円ですが、政見放送をネットに掲載して多くの関心を引けば結果的に供託金を払ってもお釣りがくると考える候補もいるようです。さらに今回すべての候補の供託金を政党が用意したところもありました。

本来の目的を外れた形で政見放送が利用されかねない、また、それに対して今の法律では歯止めがきかないのが現状で選挙の在り方が問われています。  

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