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聞けば深い話だった「1丁目がない町」“大男”の民話が住民を動かした

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福岡県に伯玄町2丁目という地名があります。1丁目はありません。歴史をひもとくと、町名整理で1丁目が消えた後、何とか地名を残したいと地元の住民たちが奮起した経緯が浮かび上がりました。『伯玄(はくげん)』は民話にも登場し、深い愛着とともに地域に根ざした地名だったのです。

町名整備事業の対象になって1丁目は消えた

福岡県春日市。福岡市天神や博多駅に近く、交通の便もよいことから人気のベッドタウンの1つとなっています。この春日市に、不思議な地区があるんです。

『伯玄』の名前を残したい!市に嘆願書

RKB高田佳明「春日市伯玄町2丁目を記した地図です。伯玄町1丁目を探しているのですが、見当たりませんね」
古くからの店などが建ち並ぶ伯玄町2丁目。2丁目はあるのにいくら探しても1丁目はありません。周辺住民に聞いてみても・・・
住民「1丁目がどこかというとわかりません」 住民「いや~、わかなんないです」
なぜ、1丁目がないのか、春日市役所を訪ねてみました。
市の担当者「いまはありません」
いまはない―。どういうことなのでしょうか?
市の担当者「町界町名地番整備事業を1981年から行っています。自治会の単位を整理するの目的です。伯玄町1丁目は、小倉や春日と併せて『若葉台西』の町名に変更されました」

『伯玄』の名前を残したい!市に嘆願書


春日市では40年ほど前、宅地開発が進み、人口が急激に増えました。その影響で地番が複雑となり、地区ごとの人口や面積にも格差が生じました。これを解消するため、春日市が町名の整備を進めたのです。その結果、図の赤で囲われた「伯玄町1丁目」は「若葉台西1丁目」に名称が変更されました。一方、青で囲われた「伯玄町2丁目」はと言うと。
市の担当者「青い地区も『宝町』の町名に整備する意向が当時あったと思います。住民から『伯玄』の名前を残したいと要望を出されまして、伯玄町2丁目として残っているのです」
伯玄町2丁目に本店を構える創業55年の和菓子店「富貴」です。2代目店主の松本弘樹さんが当時のことを詳しく教えてくれました。
松本弘樹さん「1丁目が町名変更になったものの、2丁目は残したいとおやじが中心になって署名活動をしました。嘆願書を春日市に出したという経緯です」

松本さんの父・美智也さんは春日市が伯玄町2丁目を宝町5丁目に変更しようとした際に、名前を残そうと地域住民の署名を集めて回ったといいます。美智也さんがそこまでして伯玄町の名前を守ろうとしたのはなぜだったのでしょうか―。

饅頭にもなった真面目な大男「はっけんさん」


春日市の学芸員は、伯玄町に言い伝わる民話の存在を指摘します。
学芸員「伯玄町2丁目には伯玄社という社があって、伯玄明王がまつられています。そこで伯玄どんとか、はっけんさんというとんち話が伝わってます」
~~昔むかし、小倉村に伯玄という大男が住んでいました。伯玄は真面目で、曲がったことが大嫌い。仕事ははやく一夜で二日分の田を耕すほどの働き者でした。そんな伯玄を、村人たちは「はっけんさん」と呼び、親しんでいました~~

伯玄町で和菓子屋を営んでいた美智也さん。地元の名物にしようと「はっけんさん」と名付けた饅頭も作るなど伯玄町という地名に対する並々ならぬ思いがあったようです。
松本さん「名前が大切なのを市はわかっていなかった。どうしても残さなきゃいけないものがある。手を挙げて意見を言った方がいいと町内の方々に問いて回り、必死になっていましたね」

『伯玄町』ではなく『伯玄町2丁目』として残した理由

美智也さんの思いに地域の人たちにも同調しました。
タバコ店「はっけんさまがある以上、伯玄町をなくしたらいけない。はっけんさまがあるから、ここに住んでよかったなって思っています。(名前に愛着?)ありますよ!はっけんさまがまず浮かんできますね」 美容室「2丁目が残っててよかったと思います」
こうして、伯玄町2丁目は残ることとなりました。あえて2丁目まで残したのにも理由があると言います。
松本さん「市の方からもう1丁目がなくなったから、2丁目はいりませんよねと。2丁目も外して伯玄町という形で出しましょうと言ってきたんですけど、2丁目だけを残すことによって、みんなが不思議に思うんじゃないかと。その不思議に思ったことでみんなそれぞれの町のあり方を襟を正してもう一度見直すきっかけになると」
2丁目があって1丁目がない町、そこには地元の民話や文化を残そうとした人たちの思いが詰まっていました。

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