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「危険な場所が載っていない!」命守るハザードマップに大きな問題点

信じられないような豪雨が、増えています。いざという時に自分や家族の身を守れるか。それには、事前にハザードマップを見ておくことがとても重要です。

しかし、ハザードマップに載っていない危険があるのです。都市部で起きやすい水害「内水氾濫」は全国的に調査が進んでおらず、実に9割の自治体でハザードマップへの掲載がありません。問題は下流の都市部だけでなく、上流の農村部にも広がっています。いま私たちの目の前に迫る危険について考えます。

◆「博多駅前のビル内で水死」の衝撃

「都市型水害」という言葉が世に知られたのは、福岡市の博多駅周辺で1999年に起きた水害でした。福岡市では1時間に79.5ミリの雨が降り、あふれた雨水は、階段から地下街に流れ込み、博多駅周辺や天神地区で、延べ8万9000平方メートルの地下施設が浸水しました。博多駅前のビルでは地下1階の店舗が水没。ドアの隙間からの浸水に気付いた時には、水圧でドアが開かなくなっていました。ビルの地下1階で溺死する人が出る、というショッキングな災害は、豪雨による氾濫(はんらん)という今までの水害のイメージを覆しました。

大雨で河川が増水して水があふれたり、堤防が決壊したりして起きるのは「河川洪水」です。これに対し、用水路や下水道が雨水を流しきれずにあふれてしまうことを、今は「内水氾濫」と呼ぶようになりました。

◆「内水氾濫」全国9割の自治体がマップ未掲載

自治体が作るハザードマップには、洪水や高潮、火山、津波、土砂災害などから、私たちが命を守るために欠かせない情報が掲載されています。頻発する豪雨災害を受け、国は2015年に水防法を改正。想定される最大規模の雨が降った際に内水氾濫によって浸水する範囲を記載した「内水ハザードマップ」を作成することが義務づけられました。想定最大規模の雨量は「1000年に一度の雨」。福岡市がある「九州北西部」ブロックでは153ミリ、最も多い「四国南部」ブロックは160ミリと設定されました。
福岡市は全国の自治体に先駆けて、博多駅周辺のマップを作成・公表していましたが、2021年度の法改正でマップ整備の範囲は「下水道区域全域」へと拡大されました。最新の防災白書によると、全国9割以上の自治体で「内水ハザードマップ」の整備が進んでいないことが分かります。福岡市でも、市全域の公表には至っていません。

福岡市の担当者は、「内水氾濫の浸水をシミュレーションするためには、地表面に加えて、地下施設である下水道の函渠等もモデル化する必要があり、コストや時間がより必要になることが原因」と話しています。

◆過去20年で浸水「また起きると考えるべき」

福岡大学の渡辺亮一教授(河川工学)は、「ハザードマップ上で問題ないように見える地域でも本当は内水氾濫で浸水してしまう。そんな場所がたくさんある」と説明します。

福岡市のほぼ中央に位置する城南区は、1982年に当時の西区から分割されて誕生した比較的新しい地区。今では農地はほとんど姿を消し、住宅地が圧倒的に多いエリアです。現在の人口は約13万人。渡辺教授と城南区の金山(かなやま)団地周辺を歩いてみました。
「ハザードマップでは金山団地は浸からないから、土地を買っても大丈夫じゃない?となると思うんですよ」
実は、金山団地周辺で1999年、浸水の被害が発生しています。当時の写真を見ると、道路は広く冠水し、大人の膝の辺りまでが水に浸かっています。用水路があふれたためでした。この地区で時計店を営む末吉輝雄さんは「私の店の中でも約40センチ床上浸水しました。店の外では深いところで多分1メートル弱ぐらいまで水が来たのでは」と振り返ります。
その後、用水路を掘り下げる改修工事が行われました。末吉さんは「掘り下げてからは、浸水はほぼないですね。またあふれるのではないか、と思うことはありますけど」と話していました。しかし、渡辺教授は「対策工事は、最大でも100年に1度の雨を想定して行われる。1000年に1度の雨が降れば、過去20年以内に内水氾濫の被害があった場所は、間違いなく再び被害に遭う危険性が高い」と話します。
「なのに、ハザードマップ上に全く示されてないという点が、最大の問題。事前に『いざという時はこう行動しましょう』と話し合っておくためにも、一刻も早くハザードマップを作ってもらった方がいい」

◆江戸時代以前に造成された「ため池」が7割

ハザードマップの問題点は、下水道などが整備された都市部だけではありません。農村部では、「危険なため池」がマップ上に載っていないというのです。

農村部では、農業を営むうえで欠かせない水を確保するためのため池が各地にあります。福岡県内では実に4777か所。このうち7割は、江戸時代までに作られたと言われています。福岡県朝倉市では2017年7月の豪雨で、隣接する2つのため池(貯水量計7万4000立方メートル)が決壊。水が一気に流れ込んだ下流のため池も壊れてしまい、下流の住民3人が死亡しています。地域の住民は「農業用にため池は必要。複雑な気持ちだ」と漏らします。
決壊した原因は、流木や土砂が水の流れを塞いでしまったことでした。福岡県は、ため池から水が流れ出す出口を付け替え、木が引っかからない構造にした、と説明します。国は、決壊した場合に下流の住宅地に被害が出る恐れがあるため池を「防災重点農業用ため池」と指定し、各自治体で必要な点検・整備を進めています。その数は、全国に何と5万4610か所(2020年7月末時点)もあるのです。全国で最も多いのは、広島県の6846か所。以下、兵庫県(5972か所)、岡山県(4105か所)と続きます。

福岡県内は、全国で4番目に多い3545か所です。ほとんどの池では福岡県が「浸水想定区域図」を作成し市町村に渡し、避難所まで盛り込んだハザードマップとして市町村が地域住民とワークショップを開くなどして整備を進めています。ただ、国が整備の期限を設けていないこともあり、公開されているのは1498か所にとどまります。なんと福岡県では約2000か所の危険なため池が、ハザードマップには載っていないのです。

◆都市の「地下神殿」、江戸以前の「ため池」

下水道は一般的に、1時間に50ミリ前後の雨を流せるように設計されてきました。そこに1000年に一度の雨が降った場合、ハザードマップには現れていない多くの場所で内水氾濫が起きる恐れがあります。福岡市は博多駅近くの都心部に巨大な貯水池を作りました。
公園の地下に作られた貯水池は、まるで「地下神殿」であるかのよう。隣にある野球場を掘り下げて作られた貯水池とあわせて、貯水量は2万8000立方メートル、設置には25億円の莫大な費用がかかりました。都心部では土地や地下空間の確保が難しく、たくさん作ることはできません。

江戸時代までに作られたため池は設計資料がなく、強度がどれくらいなのか分かリません。整備するには、まずボーリング調査などから始め、仮設道路の設置・撤去なども必要です。福岡県宗像市で工事が進められているため池では、調査から工事完了まで4年かかる見通しで、費用は3億4400万円と見積もられています。それでも、都市部に貯水池を新たに作るよりは現実的です。

◆早急な整備求められるハザードマップ

現在、国が水害対策として進めているのは、河川に水が一気に流れ込んで洪水が発生しないよう、各地で雨水をとどめようという「流域治水」の考え方です。渡辺亮一・福大教授は「雨の降り方が、以前とは変わった」と話し、「今も残っているため池は、農業用としての利用がなくなったとしても、防災にうまく活用していくべきだ」と考えています。

今、私たちが暮らしている日本は、各地でこうした「見えない」危険にさらされています。

国は「内水ハザードマップ」について、2025年度までに公開することを求めていて、自治体が整備を進めています。しかし、災害を起こすような豪雨は明日降るかもしれません。私たち一人ひとりが自分たちの住んでいる場所の特性を見直し、「車は高台に移動させる」「貴重品は2階以上に置く」など、万が一に備えて対策を考えておく必要があります。

同時に、被害を最小限に食い止めるためには、地域ぐるみで連携が不可欠です。そのたたき台となるハザードマップの早急な整備が求められています。

※この記事は、RKB毎日放送とYahoo!ニュースによる共同連携企画です。

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