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増える女性の自死。背景にある“感情労働”とは

女性が自ら命を絶つ立つというケースが増えているという。政府の統計によると、日本の去年の自殺者数は約2万1000人で、11年ぶりに増加に転じた。しかも、男性は減少しているのに対し、女性が増加しているのが特徴だ。毎日新聞論説委員・元村有希子さんがレギュラー出演している、RKBラジオの朝の情報番組『櫻井浩二インサイト』で解説した。  

元村有希子さん(以下、元村):働く環境が急に変わって、非正規労働者が新型コロナの影響を受けています。非正規労働者には女性が多いので、それが影響してるのではないかというのが政府の分析でした。例えば、医療や介護のように急激に忙しくなった分野、逆に接客業はお店が閉まったり、旅行の需要が減ったりしました。両極端に激変しているこれらの業種に“共通している働き方”があります。それは「感情労働」だといことです。感情労働というのは、頭脳労働、肉体労働に次ぐ第3の働き方として、最近出てきた考え方です。お客さんに向き合うために、自分の感情や振る舞いをコントロールする必要がある職業を指します。
櫻井浩二アナウンサー(以下、櫻井):相手に対して常に気遣いするから、精神的に疲れてしまう仕事ですよね。

元村:そうなんです。この考え方は、もともと飛行機の客室乗務員の働き方を研究する過程で出てきたもので、無理難題を押し付けられても、笑顔で応対するといったようなものですね。

櫻井:憧れの職業でもある客室乗務員が、いちばん挫折するのは接客だといいますもんね。

田中みずきアナウンサー(以下、田中):対応が難しいお客さんはいるでしょうから、イラっとしながらも笑顔を絶やさないという。

元村:労働組合が3年前に実施した大規模な調査によると、怒声を浴びせられるとか、ひどいものになると土下座を強要するとか、そういったカスタマーハラスメントに直面した労働者が、回答者の7割を超えていて、その9割が、多かれ少なかれストレスを感じていたというんです。話を少し戻すと、女性は(男性に比べて)小さいことに気がつきやすく、人が喜ぶような仕草を先回りしてできるという特徴があって、こうした感情労働に適職とされているんですが、その分こういう強いストレスにさらされたり、新型コロナで仕事が増えたり減ったりして、不安定になりやすいと思うんです。新型コロナ流行前の2019年の調査なんですが、顧客や取引先からのクレームによる病気で厚生労働省が労災と認定した人の3割以上が亡くなっているという統計もあるんです。ですから、感情労働をどう守るか、女性が働く環境の困難さについては、自殺対策としても考える必要があります。

櫻井:対応策として、すでに取り組まれている事例はあるんですか?

元村:ILO=国際労働機関が採択したハラスメント禁止条約にも、セクシャルハラスメントやパワーハラスメントと並んで、カスタマーハラスメントが含まれているんです。これを受けて、国は去年5月、労働施策総合推進法を改正して「ハラスメントにより配慮しなさい」という条項を加えました。ところがその対象は、パワーハラスメントだけで、カスタマーハラスメントは対象外です。それが労働者の間で問題視されていて、政府が法律で禁止してほしいという声が高まっています。しかし厚生労働省は「相談できる窓口を職場内に設ける」とか「クレーマーには二人一組で対応させる」といった対応マニュアルを例示している程度にとどまっています。

櫻井:まだ対応が緩いですね。

元村:女性が7割を占める非正規の人たちは、まず仕事を切られやすく、失業して職を探そうにも、コロナ禍でなかなか採用されにくい。たとえ採用されても、お客さんのそういうストレスにさらされる。さらに仕事から帰ってきて、家で子供や夫や親の面倒を見る。女性はストレスだらけなんです。どこから改善したらいいのか本当に見えづらいんです。ただ、どこからでもいいから、できるところから公正な社会にしていかなければ問題は解決しません。

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