櫻井浩二インサイト

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「24時間見られている」中国監視システムと米中摩擦

「24時間見られている」中国監視システムと米中摩擦

中国国内での市民への監視システムが、米中対立を引き起こしている。毎日新聞北京特派員の経験もある、元RKB解説委員長・飯田和郎が、RKBラジオ『櫻井浩二インサイト』に出演し、監視社会・中国の現状と米中摩擦の理由を解説した。

 

「中国は世界で最も安全」胸を張る警察官

本題に入る前に、こんな小噺を紹介したい。

上海を訪れた日本人ビジネスマンが、財布を無くし、交番に駆け込んだ。そのわずか1時間後、警察からビジネスマンに「財布が見つかった」と連絡があった。警官の説明はこうだ。

「あなたはけさ8時45分23秒に滞在先のホテルを出ましたね。8時47分32秒にタクシーを拾い、9時12分29秒に降りましたね。通りを歩いた人混みの中で、財布をすられました。それは9時15分45秒の出来事です。犯人はすぐにわかりました。こうして財布は戻りました」

警察官はこう言って胸を張った。「わが国は世界で最も安全な国なのです」続けて「あなたはその前の夜、2時間37分15秒間、接待を伴うナイトクラブで飲んでいましたね。そうそう、あなたはナイトクラブの中で、ホステスを横に座らせ、肩に手を回しましたね。重大な違法行為です。今回は見逃しますが、今後は気をつけてください」

つまり、街中に設置された監視カメラで、このビジネスマンの行動はすべて把握されていた。もちろん、被害者だけではなくスリの犯人についても同様に。さらに犯人の方は年齢や性別、過去の犯罪履歴、家族構成、交友関係の記録は全部警察にあるので、すぐに逮捕に結びついたのだ。

付け加えると、小噺にあった「ビジネスマンがナイトクラブで肩に手を回して」の部分。街角だけではなく、個人の店舗の中でだって、どこにどのような監視システムがあるかわからない。笑うに笑えない小噺だ。

中国では防犯カメラ、監視カメラはシステム会社を通じ、当局のコンピュータと結ばれているとされる。同じ人物の動きを複数の監視カメラによって時系列に追うだけではなく、このビジネスマンの顔や骨格の画像データなどを、空港での入国審査の際にすでに手に入れていたのだ。

それを人工知能(AI)が解析し、スリに遭った場面を含むすべての行動が難なくわかってしまう。さらに中国の場合、スマホの位置情報も当局が把握。ほぼ全国民が、いまどこにいるのか、また時間をさかのぼっても監視されているといえる。

画像認証技術で人権侵害?米財務省が投資を禁じる措置

中国にAIによる画像認識などを手がけるセンスタイムという企業がある。同社のシステムはビルの入り口などに設置され、顔認証と赤外線による体表温度測定を瞬時にできる。そうすれば、施設への入館・退館と検温を一元管理できる。顔認証システムがとらえた顔のデータと、所蔵した大量の顔の画像データをAIでマッチングさせるという、最先端のものだ。

先週、米財務省は「アメリカ人によるセンスタイムへの証券投資を禁止する」と発表した。理由として、同社の顔認証技術が少数民族ウイグル族を監視し、人権侵害に使われていることを挙げた。米政府はすでに国防、安全保障などに影響があるとされる中国企業への証券投資を禁じてきたが、このリストにセンスタイムを加えた形だ。

この決定を受け、センスタイムは今月に予定していた香港証券取引所への上場を延期せざるを得なくなった。当然、センスタイムは反発。センスタイム日本法人のホームページには英語と中国語で「米財務省の決定に強烈に反対する。主張は根拠がない。科学技術の発展は地域の政治的な影響を受けてはならない」との声明を掲載している。

センスタイムのシステムは、適法に活用されるケースがほとんどなのだが、度が過ぎれば、技術の進んだ中国の場合、少数民族への監視活動などに使われる懸念もある。だから、バイデン政権は中国の人権抑圧の象徴的なシステムだとしてアメリカ国民に訴えやすく、ひいては自身の支持を得るためのペナルティだと考え、投資禁止を決定したのだろう。

北京特派員の経験がある私の場合、中国での外交官や外国人記者はどうやって活動しているのか、とても心配になる。かつての電話の盗聴、尾行に代わって、この顔認証システムがあれば、行った場所、会った人、買った本…すべて丸裸になる。外交官や外国のジャーナリストを管理するにはこれ以上の方法はない。

顔認証などの技術をめぐって、米中対立が起きている

これらの認証テクノロジーを中国国内だけではなく、途上国へ輸出し、強権国家・権威主義国家を支える手段になるおそれも感じる。そんな中、バイデン大統領は先週開かれた「民主主義サミット」に合わせて、監視技術の輸出を管理する多国間の枠組みを立ち上げると表明した。

名称は「輸出管理と人権のイニシアチブ」。この枠組みは、中国を念頭に、強権国家の人権侵害に、顔認証や監視カメラなどの技術が悪用されないよう、輸出を規制するとし、同じ考えの国同士、足並みをそろえようというものだ。

こうした中、日本では、国際人権問題を担当する首相補佐官に中谷元氏を起用。岸田首相は来年の通常国会に経済安全保障推進法案を提出する。中国を念頭に日本の技術が転用されるリスクなどに備えたもの。2023年度からの運用を想定する。サプライチェーンの強靱化や、技術流出を防ぐための先端技術の研究開発支援を急いでいる。

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