
「蜜柑」 芥川龍之介 著
ラジオ
ある曇った冬の日暮れ、横須賀発の列車に乗り込んだ私は、疲労感と倦怠感でいっぱいだった。そのとき着物も肌も髪もすべてがみすぼらしく、いかにも田舎者らしい十三四の年頃の娘が乗り込んできて、私の目の前の座席に座った。正直、私は不快に思った。
気にせずひと眠りしようとしたが、いきなりその田舎娘が私の隣に座り、一生懸命に窓を開けようとしている。しかも列車がトンネルに差し掛かろうとしている時に・・・。
そして、ついに列車がトンネルに突入した途端窓が開き、煤を溶かしたようなどす黒い空気が車内に入ってきてしまった。
娘の行動はますます私をイラつかせたのだが、
踏切に差し掛かった時、なぜこの娘がそのような行動をとっていたのかがわかる出来事が私の目の前で起きた。
結果、この娘に対して抱いていた不快感は一瞬で消え去り、むしろ朗らかな気持ちがわいてくるのであった。
先日初めて、「越冬みかん」なるものをいただきました。
一つ一つうやうやしく紙の袋に包まれています。
さすがは贈答用。皮のオレンジの色合いがとても艶やかでした。
奉公に出される姉を、途中の踏切あたりで見送る弟たち。
精いっぱいの大声で姉の名を呼ぶ弟たちに向けて、姉はいくつかの蜜柑を、車窓から投げてあげるのです。
その美しいシーンを朗読するとき、
私の中では、あの越冬みかんのようなピュアで、輝く蜜柑色が浮かびあがってきました。
そしていつまでも強烈な印象が残っているのです。
朗読を聴いていると、あなたの脳裏にも鮮烈なオレンジ色の蜜柑がきっと浮かんでくるはずです。
3月19日放送 担当:田中みずき
気にせずひと眠りしようとしたが、いきなりその田舎娘が私の隣に座り、一生懸命に窓を開けようとしている。しかも列車がトンネルに差し掛かろうとしている時に・・・。
そして、ついに列車がトンネルに突入した途端窓が開き、煤を溶かしたようなどす黒い空気が車内に入ってきてしまった。
娘の行動はますます私をイラつかせたのだが、
踏切に差し掛かった時、なぜこの娘がそのような行動をとっていたのかがわかる出来事が私の目の前で起きた。
結果、この娘に対して抱いていた不快感は一瞬で消え去り、むしろ朗らかな気持ちがわいてくるのであった。
先日初めて、「越冬みかん」なるものをいただきました。
一つ一つうやうやしく紙の袋に包まれています。
さすがは贈答用。皮のオレンジの色合いがとても艶やかでした。
奉公に出される姉を、途中の踏切あたりで見送る弟たち。
精いっぱいの大声で姉の名を呼ぶ弟たちに向けて、姉はいくつかの蜜柑を、車窓から投げてあげるのです。
その美しいシーンを朗読するとき、
私の中では、あの越冬みかんのようなピュアで、輝く蜜柑色が浮かびあがってきました。
そしていつまでも強烈な印象が残っているのです。
朗読を聴いていると、あなたの脳裏にも鮮烈なオレンジ色の蜜柑がきっと浮かんでくるはずです。
3月19日放送 担当:田中みずき
この記事はいかがでしたか?
リアクションで支援しよう