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ウクライナ危機に乗じた中国外交官の威圧的投稿が新たな日中摩擦に!?

ロシアによるウクライナ侵攻は3月17日で3週間となる。この間、ロシアと結び付きの強い中国は明確な態度を示していない。一方で、この危機に乗じるかのように、中国の外交官が日本を威圧するような投稿をSNSに発信した。これは何を意図しているのだろうか?東アジア情勢に詳しい、飯田和郎・元RKB解説委員長がRKBラジオ『櫻井浩二インサイト』でコメントした。
 

中国総領事のトップが日本語で「弱い人は強い人に喧嘩を売るな」と投稿

発信の主は、中国政府の在大阪総領事、薛剣(せつ・けん)氏。薛総領事はロシア軍のウクライナへの侵攻が始まった2月24日、Twitterに次のような投稿をしている。

「ウクライナ問題から銘記すべき一大教訓 弱い人は絶対に強い人に喧嘩を売る様な愚か(な行為)をしてはいけないこと」

「仮にどこかほかの強い人が後ろに立って『応援する』と約束してくれても、だ」

「これと関連で、さらに言えば、人にそそのかされて、火中の栗を拾ってはいけない」
これらはすべて日本語で綴られている。つまり、アメリカを後ろ盾にする日本を念頭にしている、と受け取れる内容だ。「ウクライナはアメリカにそそのかされて、NATOの東方拡大問題でプーチン大統領の怒りを買った。その結果が今日の事態だ。日本だって同じ。アメリカにそそのかされて中国と敵対してはいけない」と、ウクライナのことを指しているようで、実は、日本に対して「アメリカという後ろ盾がいても弱い人(=日本)が、強い人(=中国)に喧嘩を売るのは愚か。ウクライナ危機と同じだよ」という警告のようにみえるのだ。「アメリカとの協調を優先する日本を威圧した」と受け取った者も少なくない。

領事館の大切な業務は、友好・協力関係を行政や民間レベル、経済界において構築していくことだ。東京の中国大使館を除いて大阪の総領事館は、日本国内にある6つの中国領事館では最もランクが高い。薛総領事はそのトップだ。

過去にも過激な投稿を繰り返していた薛剣総領事

この薛剣総領事の人物像について解説しよう。
中国外務省のいわゆる「ジャパンスクール」つまり、日本を専門に担当するエリート外交官だ。日本語は極めて堪能で、日本での勤務も今回で4回目というベテランだ。

大阪には昨年6月に赴任したが、当初からTwitterでさまざま発信してきた。もちろん、日中友好に寄与する活動報告や意見もあるが、一方で過激な投稿も少なくない。たとえば昨年10月、国際人権団体アムネスティ・インターナショナルが、人権弾圧の続く香港から支部の撤退を決めた時には「害虫駆除!!!快適性が最高の出来事 また一つ」と投稿。人権団体を「害虫」と表現した。

なぜ、誰もが呆れるような、挑発的、上から目線的な投稿を続けるのだろうか?そのヒントが2022年1月28日付の夕刊紙・日刊ゲンダイに掲載された薛総領事のインタビュー記事にある。

「世界第二位の経済大国になった今、中国が理不尽な対応を受け入れる時代はとっくに終わりました。そこをアメリカなど、少数の自称先進国、偽装民主主義国には認識してもらわないと困ります」

「日本の皆さんはアメリカのことをあまりにも知りません。良い一面だけを見て信じ込んで、いざ中米間に何かあったら、分別なくアメリカ側についていきます」

「中日関係の発展のためには、アメリカを正確に理解し、扱ってもらわないといけません。私のTwitter投稿を見て感情的にならず、意図を理解してもらいたいと思います」
「ウクライナ問題の責任はロシアではなくアメリカにある」という、中国の一貫した考え方を映し出す発言ともいえる。

「戦狼外交」を担っている中国外交官は世界に数多く駐在

中国の攻撃的、威圧的な外交姿勢は「戦狼(せんろう=戦う狼)外交」と呼ばれる。まさに、大阪総領事もそうではないか。日刊ゲンダイのインタビューからの引用を続ける。

「自分が戦狼外交官だとは思いません。あえてそういう言い方をするなら、私たち中国外交官が狼なのではなく、むしろ逆、『狼と戦う外交官』という理解が正しいと思います」
総領事の投稿は、安倍晋三元首相が提起した「核共有論」のように、中国への危機感や警戒感が高まることをむしろよしとしているのかもしれない。

薛総領事は、個人の判断で、このような挑発を続けているのか?社会主義の国において、エリート外交官が個人の判断でこんな大胆なことはできない。SNSによる発信もいわば、本国の業務の一つ。硬軟織り交ぜた対日外交の一環として、この総領事は狼の役割を演じている。ただ同時に、以前のような厳しい国際環境にあった時代を経験せず、自分の国の国際的地位が上がる中でキャリアを積んできた世代でもある。SNSを自由に操れるのもこれまでの世代と異なっている。

このような中国の攻撃的な投稿をしている外交官は、実は世界に数多くいる。かつて、中国外交は「才能や野心を隠して力を蓄え、しかるべき時期を待つ」という姿勢だった。今や「しかるべき時期」が来た、という認識なのかもしれない。

しかし外交官は読んで字のごとく「外と交わる」のが仕事。今年は日中国交正常化50周年の節目だが、「外交」とは正反対の言動を投げかけられたわれわれ日本人が、50周年を祝おうという気分になれるはずはない。なにより、ウクライナでは今日も多くの命が失われ、悲劇が続く。許しがたい暴挙について、それを「教訓」と投稿する姿勢。中国外交の底の浅さを感じる。中国をウオッチしてきた一人として悲しい気持ちになる。

 

飯田和郎(いいだ・かずお) 1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。

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