僕が一番通っているうどん店は、博多駅南にある創業37年になる「葉隠うどん」だ。もちろん、ここのうどんが大好きなのだが、最近はカウンター越しに飲食業界をとりまく世情について店主の古川義久さんといろいろと話をするのも楽しみの一つになっている。
最初にここに来たのは、2001年だったからもう22年通っていることになる。店舗は現在の場所の隣にあり当時から昼時には近所のサラリーマンなどで賑わう人気店だった。
洋食店コックからうどん業界へ
古川さんは佐賀県出身。高校卒業後に大阪で1年間サラリーマンをしたが、仕事に馴染めず佐賀へ戻ることにしたそうだ。元々飲食店の仕事に興味があったので、求人を見つけた佐賀市のレストランに就職。そこで洋食を5年間経験した。将来的には独立して喫茶店スタイルのレストランをしたいなと思っていたが、当時はファミリーレストランが世の中に増えてきている頃だったので「個人店はこれから厳しくなるかな」と踏ん切りがつかずにいた。
そんな時だった。飲食業に関心があり博多に住む古川さんのお兄さんがある提案をしてきた。当時博多駅前にあった人気うどん店「うどん平」(現在は住吉で営業中)での修業をすすめてきたのだ。「うどん平」の常連客だったお兄さんは、弟子はとらないという「うどん平」の店主に「なんとか弟を雇って欲しい」と一生懸命お願いしたという。それにより古川さんは弟子として受け入れられたそうだ。もちろん数年後には独立するという前提での弟子入りだった。
「葉隠うどん」の開業
古川さんは、「うどん平」で4年間修業し、ついに独立を決意。金融機関から融資を受けるための事業計画書や融資申込書類などは、会社員としてバリバリに仕事していたお兄さんが手伝ってくれた。つまり、うどん業界を選んだことも、開業するに至る工程もお兄さんの後押しが大きかったということである。
そして昭和61年(1986年)に「葉隠うどん」を開業。古川さんが29歳の時だった。開業時の店舗は、今よりも竹下駅に近い場所にあったそうだ。その後現在の店舗の隣に移転したが、20年経過した頃に大家さんによるマンション建設計画により退去を余儀なくされた。大家さんに相談したところ、隣に空き地があるからうどん店を継続したいのなら、ということで現在の店舗を建て貸ししてくれたそうだ。
うどん作りについて
うどんの作り方やメニューは、「うどん平」のスタイルをほぼそのまま踏襲している。
「博多うどん」と言えば、茹で置きの太くて柔らかい麺が定番とされていることが多いが、「葉隠うどん」の麺はそれとは一線を画す。手打ちのうどん麺は、茹でたてで少し平たくて柔らかいけどモチモチしている。
練り工程は伝統的な足踏みで行われる。一度に10kg程度の生地を作るので体力的にも大変だそうだ。足で踏みながら練った生地をさらに折り重ねながら数回繰り返す。踏めば踏むほどモチモチした麺に仕上がるということだが、多ければよいというわけでもない。踏みすぎると硬くなりすぎるし、足りなければ柔くなる。
「踏む回数の塩梅も難しいのですが、天候や気温、湿度に応じて水分や塩分も調整するのでなかなかマニュアルを作るのは難しいんですよね。それでも今では足踏み作業の力仕事だけは若いスタッフに任せているので少しは楽させてもらってます」と古川さん。
出来上がった生地は一晩寝かせて翌日のうどんになる。営業中は、注文に応じ機械で生地を伸ばして麺切りし茹で釜に投入していく。タイミングをみて大きな網ですくい揚げ、それを水で一度締めるのだ。最後に一杯分ずつ竹製の「てぼ」と呼ばれる湯切り道具に入れて再び温めて出来上がる。
スープは鰹節とうるめイワシで出汁をとっている。そしてその割合は鰹節が2に対してうるめイワシが1というのが特徴だそうだ。あっさりと薫り高く甘さ控えめの澄んだスープが、柔らかいけどモチモチした麺とよく合うのだ。僕は途中から備え付けの柚子胡椒で味変して食べるのが好きだ。ここでスープを残すことはほとんどない。
それらに様々なトッピングをのせてうどんが完成する。僕が好きなメニューは、えびかき揚げに月見トッピング。しかしえびかき揚げが売り切れている時は、ごぼううどんに月見にする。お店の人気メニューベスト3は、「肉ごぼううどん」(680円)、「えびごぼううどん」(600円)、「肉えびうどん」(680円)の順番だそうだ。つまり、肉とごぼうとえびが人気ということだ。
地元だけでなく観光客で大賑わいの人気店へ
創業から30年過ぎた頃には、インバウンドによる海外からのお客さんが劇的に増えて朝から晩まで待ち客ができる店になっていた。「ミシュランガイド福岡2014」に掲載されたことの影響もあっただろうし、特に韓国のインフルエンサーたちがこぞってSNSにアップした効果もあったようだ。
さすがに新型コロナ感染症の影響で一時期はゆっくりとした営業だったが、最近では海外国内を問わず観光客が戻ってきて、再び待ち客が増えている。
古川さんは「長年支えてくれた常連さんたちがランチタイムなどに入りにくい状況になってるのは申し訳ないと思ってます。しかし、開業当初は1日の客数が10人ということが何度もあったので、現在のようにたくさんのお客さんに来ていただけるのは大変嬉しいです」と語る。
将来のこと
29歳で始めたうどん店。体力的にも厳しい年齢が近づいている古川さんではあるが、一番の趣味は、モトクロスバイクで山や林道を走り抜けてストレス解消することだそうだ。「数年前にバイクで転倒してお店をしばらく休むことになったので、怪我だけはしないように注意してます。奥さんに怒られますから」と照れ笑いの古川さん。
古川さんには2人の息子さんがいる。数年前から兄弟ともお店を手伝うようになった。麺打ちや仕込みも少しずつ任せているので少しは古川さんの負担も減ってきたらしい。
「将来的には、息子さんたちがお店を継いでくれると良いですね」と聞いてみた。「継いでくれたら嬉しいけど、どうなることやら・・・。そう簡単じゃないですからね」と笑顔で息子さんに目をやる古川さんだった。
なにはともあれ、博多の地でこれからも何十年と続いて欲しいうどん屋さんであることは間違いない。
ジャンル:うどん
住所:福岡市博多区博多駅南2-3-32
電話番号:092-431-3889
営業時間:11:00~15:00/17:00~21:00
定休日:日曜・祝日
席数:カウンター12席、座敷8席
メニュー:かけうどん350円、えびかき揚げうどん500円、ごぼううどん480円、肉うどん580円、トッピング100円増、おにぎり(2個)200円、いなり(3個)200円、かしわごはん200円
URL:https://tabelog.com/fukuoka/A4001/A400101/40004342/
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