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自分の人生を受け入れ楽しんでいる夏井先生はやはり人間として魅力的だ|『瓢箪から人生』 著 : 夏井いつき

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瓢箪から人生 著/夏井いつき

「幸福とは何か?この命題に対してはいくつかの答えがあります。でも、その最大のものは、やはり『めぐりあい』、人と人との出会いです。」これは漫画家やなせたかしさんの言葉だが、人との出会いはそれほどの喜びと幸せを与えてくれるということなのだろう。偶然であったとしても、その出会いによって人生が大きく変わることもある。

夏井いつき

本書の著者は俳人夏井いつき先生。
彼女はゴールデンタイムの全国放送番組「プレバト‼」に出演しており、芸能人の俳句を添削するその姿を思い浮かべる方も多いのではないか。芸人からアイドル、大御所俳優まで誰に対しても変わらない歯に衣着せぬ物言い。その切れ味が気持ち良く、つい期待して見入ってしまう。私もこの番組を観て「面白い先生だなぁ」と思っていた。
この本はそんな各方面で活躍している俳人夏井いつきが「人生の中で、どんな人に出会い、どう影響されてきたのか」をテーマに執筆したもの。現在テレビや句会イベントで活躍している彼女だが、以前は松山市の中学校教諭として働き、出産・離婚も経験されていた。慌ただしく過ぎる日常のなかで後の師匠となる黒田杏子の俳句と出会い、「人生の杖」と表現される俳句と共に生きていこうと決めた。そこから彼女は手探りで「俳句の種蒔き」と称する活動を始める。彼女の代名詞となった「句会ライブ」。各結社の最若手という名目で推薦された「俳句王国」。最初は全く応募がこなかったNHKラジオ「一句一遊」。俳句界からの逆風を受けながらも結果的には大成功となった「俳句甲子園」。そのどのエピソードにも現在の夏井いつきを形づくる上で欠かすことのできない、大切な出会いがあったのだと気づかされる。偶然の出会いのひとつひとつが繋がり広がって、やがて大きなうねりとなっていく。瓢箪から駒のように、ちょっとした偶然で人生は良い方向にも悪い方向にもすすんでいく。そんな自分の人生を受け入れ楽しんでいる夏井先生はやはり人間として魅力的だ。

俳句はたった17文字で最も輝く言葉を紡がなくてはならない。その神髄は本書でも存分に発揮されており、鋭い観察力からもたらされる言葉選びや表現の巧みさにハッとさせられる。時に辛口(プレバトでの批評でもわかる通り)ではあるが、彼女の言葉には品があり、あたたかさがあり、そしてどこか切ない。特に彼女の父親を思い出しながら食べる鰊蕎麦の件は何度読んでもぐっとくるものがある。どのエピソードも芯の強さを持ちながらも人を優しく包み込むような彼女の魅力が溢れており、ページを捲る指が止まらなかった。

 人生は偶然の積み重ねで、その出会いこそがそのひとの人生をかたちづくっていく。この文章を読むあなたにも、この本との出会いがこれからの「人生の杖」となってくれれば、これ以上嬉しいことはない。

著者プロフィール

夏井いつき
1957年愛媛県生まれ。俳句集団「いつき組」組長。京都女子大学文学部国文科卒業後、八年間の中学校国語教諭を経て俳人へ転身。「第八回俳壇賞」「第四十四回放送文化基金賞」「第七十二回日本放送協会放送文化賞」「第四回種田山頭火賞」受賞。創作活動に加え、俳句の授業「句会ライブ」、「俳句甲子園」の創設にも携わるなど幅広く活動中。MBS『プレバト!!』俳句コーナー出演をはじめ、多くのメディアでも活躍。

INFORMATION

書籍名: 瓢箪から人生
著者: 夏井いつき
出版社: 小学館
価格: 1,485(税込)
ISBN: 9784093888660

この記事の著者について
[テキスト/佐藤弘庸]
1987年札幌生まれ。2009年日本出版販売への就職を機に上京。入社後は紀伊國屋書店を担当。
2011年にリブロプラス出向。2016年より日販グループ書店の営業担当マネージャー。
2022年より文喫事業チームマネージャー兼 文喫福岡天神店 店長。

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この記事を書いたひと

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