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上野万太郎の「この人がいるからここに行く」福岡県嘉穂郡桂川町で有機農業に取り組む「合鴨家族 古野農場」を継ぐ長男・古野隆太郎さん

以前「muto」で取材させてもらった久山町にあるイタリアンレストラン「BASE RADICE VERDE」の木曽オーナーシェフが日頃から仕入れ先としてお世話になっているという生産者の一人「合鴨家族 古野農場」(以下、古野農場)の古野隆太郎さん。

古野さんは、父の代より合鴨農法を取り入れた米作りを始めとする完全無農薬の有機農業に取り組んでおり、それを飲食店や個人のお客さんに直接販売するという仕事をされている。木曽さんもその納品先の一軒ということだ。今回は「古野農場」に来るのは3年ぶりという木曽さんと一緒に「古野農場」を訪ね、古野さん家族が取り組む農業について話を聞いてみた。

左:「BASE RADICE VERDE」の木曽オーナーシェフ、右:古野隆太郎さん

古野農場の歴史

古野家は嘉穂郡桂川町で代々農業を営んできた。特に隆太郎さんの父・隆雄さんは、富山県の故・置田敏雄さんに指導を乞い、40年以上前に合鴨農法による米作りを始めたそうだ。

合鴨農法をご存じない方のために簡単に説明すると、水を張った田に合鴨を放ち雑草や害虫を食べさせて駆除する農法で、合鴨の糞は米の栄養にもなるので循環型でもある。これにより除草剤を使わずに米が栽培できるということだ。

しかし、一方で、合鴨が外に逃げ出したり、野犬などの獣から狙われるリスクもあったが、隆雄さんは試行錯誤の末、電気柵を田の周りに張ることによりその問題を解決した。さらに役目が終わった合鴨は鴨肉として食することにより「合鴨水稲同時作」というスタイルを確立したのが隆雄さんだった。米を作りながら食用の合鴨も育てるのだ。

隆雄さんが始めた「合鴨水稲同時作」は、国内のみならず海外でも評判になり、講演や指導に行くなど幅広い活動で長年活躍されてきた人なのだ。

古野隆太郎さんの経歴

そんな隆雄さんが経営する古野家で育った長男・隆太郎さんは、隆雄さんと同じく九州大学農学部で大学院まで進んだ。父の農業へ取り組む姿に憧れはあったものの、その苦労も見て来ており、実家の農業に何かしら役に立つことが出来ないかと農業経営学を学んだという。さらに現在一緒に古野農業をされている次男・泰治郎さんは京都大学農学部出身というから農業エリート一家なのだ。

隆太郎さんは、大学院を卒業後、社会に出て勉強したいと思い実家には帰らず、リクルート系の広告営業の仕事に就いたそうだ。いつかは起業したい気持ちがあったので、コンサルタント会社なども考えたが、営業力はどこで何をしても絶対必要だろうと思い営業職を選んだという。
リーマンショックによるリストラもなんとか乗り越え、東京と久留米で勤務し、一軒一軒会社を訪問して仕事を取るような、まさにどぶ板営業をしていた。こんな感じで営業すれば農産物の販売もうまくいくのではと思い、29歳の時に実家である古野農場に入ることを決意した。

29歳で古野農場へ

古野農場で生産しているのは、米、小麦、野菜など60種類以上に加え、鶏や鴨の飼育と幅広い。それを父・隆雄さん、母・久美子さん、長男・隆太郎さんと妻・まゆみさん、弟ご夫婦の・泰治郎さんとサハラさんを中心に行っている。

「元々父は、家族に美味しくて安全なものを食べさせたいという思いで有機農業に取り組んできたんです。僕らも生れた時から両親が作った農作物を食べてきたし、農作業を手伝ってきたのでそれが当たり前だと思っていました。だから僕も弟も同じ思いで、自分たちの子供にも自分たちで作った美味しいものを食べさせたくて農業に取り組んでいます」と隆太郎さん。

生産性を考えると作物の種類を増やすことは効率が悪くなるのが一般的だ。例えばドーム球場1個分(7万㎡)の面積で米だけ作るとの、同じ面積に60種類の作物を栽培するのを比べたら、使用する機械も作業内容も栽培ノウハウも含めてどちらが効率的に投資できるか一目瞭然だろう。しかし古野農場では、家族が食べるものを自分たちで作るという考え方からスタートしているので、昔から品目数は多かったそうだ。

古野農場へ入ってからの苦労

「古野農場に入ってからは、身に付けた僕の営業力を生かすつもりだったのですが、父から最初に言われたのは、『俺のお客さんをいくつか任せるから頑張れ』。
『作物はどうする?』と聞いたら『自分で作って売って稼いだら良かろうもん』と言われました。
一瞬、話が違う、、、と思いました(笑)」と隆太郎さん。

そうやって隆太郎さんの農業がスタートした。小さい頃から家業は手伝ってきたし、農学部の大学院まで卒業していたが、「営業より作物を育てる方が難しい」ことに改めて気づかされたそうだ。農機具メーカーや資材業者の勉強会に参加したりしながらの猛勉強だった。

数年経った頃、飯塚商店街の一角で有機野菜を販売したが思っていたより売れない日々が続いた。まずもって有機野菜の付加価値がお客に伝わらないのだ。よく通りかかる高齢の女性が「あたしはもうすぐ死ぬけん、有機かなんか知らんけどそげなもんをわざわざ買わんでよか」と言われた。小さい頃から有機作物が当然良いものだと思い、当たり前のように食べて育ってきた隆太郎さんだったので、世の中の常識とのギャップにショックを受けたそうだそうだ。

しかし、その女性がある日、隆太郎さんの野菜を買ってくれたという。「有機野菜は要らんのじゃなかったんですか?」と聞いたところ、「あんたが一生懸命作って頑張って売りよるけん、買いたくなったとたい」と言われたそうだ。という。それから15年、今では個人客だけではなく、福岡市内を中心に飲食店との取引が人から人への紹介で増えていったそうだ。

「朝に収獲した野菜を昼にパッキング(袋詰め)して、その後ピッキング(注文に合わせて小分け)するんです。そして夕方から配達です。これを福岡市内の地区ごとに分けて週3回配達しています」と隆太郎さん。

帰宅するのは深夜になることもあるらしい。「大変ですね」と聞いてみると「注文のあったお客さんには週一回会うことになります。すると取引先と年に50回近くお会いしていることになります。これが大事だと思っています。結局人と人との付き合いです。仕事がどれだけ大変でも、一生懸命作った野菜をちゃんと買ってもらえるならそれだけで幸せです」。

古野農場の強み

古野農場の基本的な作型は、表作で米を作り裏作で野菜や小麦を作付けしている。水田を間にはさむと連作障害のリスクが減るので可能な限りそのパターンを基本としている。
古野農場が大切にしている仕事を3つ挙げると、土作り・雑草管理・そしてお客さんとのコミュニケーションだという。

「土作りは、根が張る土(作土)を厚くする為に、水はけを良くし、自家製の堆肥や緑肥を沢山投入し、土中の微生物数を増やします。雑草管理は、除草剤を使わないため、シートで地面を覆うマルチ、水田と畑を入れ替えて草を減らす輪作、太陽の熱で草の種を焼く太陽熱養生処理、機械除草、手除草など様々な方法を組み合わせて雑草と戦っています。父が発明した『ホウキング』という人力除草機械も省力化に貢献しています」とのこと。

さらに「お客さんとのコミュニケーションは、LINEやSNSのおかげで便利になりましたが、なるべく自分たちで配達して、お客さんの顔をみて、手渡しすることを大切にしています」。
「施設が大きいとか、機械をたくさん所有しているとか、作付面積が広いなどは今の農業では資産とは言えないと思っています。古野農場の資産は、野菜を買ってくださるお客さん、農地を貸してくださる地域の地主さん、最先端の技術を情報共有できる農家の仲間です。それらの関係を大事にしてきました」。

「私たちの畑には、時々お客さんが農作業に来てくれるんです。農業体験などではなくマジの作業。ジャガイモを何トンも収穫してもらったり、僕たちが行うのいつも通りのハードワークをやってもらい、仕事終わりにみんなで近所のスーパー銭湯に行って、風呂の後、うちの畑で採れたものを使った料理を食べてみんなでビールを飲みます。体を動かして汗をかきみんなで食べるご飯は幸せです。手伝ってくれた方々もこれまで以上に農作物に愛情をもって下さいます。そして、自分で掘ったジャガイモを翌週自分で沢山買って、友人に配ってくれたり(笑)」と隆太郎さん。

手伝いに来てくれたお客さんには古野農場で収穫した小麦を使ったフォカッチャを振る舞うことも

古野農場の将来について

最後に今後の古野農場について聞いてみた。

「話は最初に戻りますが、子供が美味しく食べて健康でいられるものを作り続ける。それと同じものをそのまま消費者にもお届けするスタイルはこの先も変わることはないと思います。付加価値をつけて高く売るための有機農業ではなく、家族のために作る最初の目的を忘れないようにしたい」という。

しかしそれは逆に難しいことではないだろうか。
「美味しい」は、絶対的な数値として計測できるものではなく人それぞれ感じ方によって違う相対的なことであり、それまでの味に対する経験や知識などに大きく左右されると僕は常々思っている。
それに対し隆太郎さんは、
「確かに子供たちに『美味しい』と思わせるのは難しいですよ。毎日食べるので味が濃いと飽きられてしまいす。糖度が高ければ良いというわけでもありません。娘からは『濃くて美味しいけど、後味が軽いことが大事』と言われます(笑)。子供に味見してもらいながら美味しい米や野菜とは何かを考え作っています」。

古野農場には「美味しさ」にこだわる後継ぎがしっかり育っているようでますます楽しみだ。有機農業というと健康にプラスのイメージが強い反面、環境問題的なイデオロギーの主張が強すぎたり、経済的には非効率でコスト高にもなりがちで、重労働になったりという面もあるが、古野農場の話を聞いてみると、まったく違う印象を受けた。

あくまでも古野農場の基本理念は「子供に自信を持って食べさせることが出来る美味しいものを作る。そして同じものを直接お客さんにも食べてもらいたい」というシンプルな答えだけだった。
僕もこれまでに何度か食べたことのある古野農場の野菜だが、あらためてどんな美味しさなのか、じっくり味わってみたいと思った。
それは単なる美味しさでなく、古野家族の愛情や生き物の命の有難さや、桂川町の自然の恵みなどを全部まとめた美味しさとして感じることが出来るかもしれない。

【企業データ】
会社名:合鴨家族 古野農場
住所:福岡県嘉穂郡桂川町寿命824
ホームページ:http://www.aigamokazoku.com/
instagram:https://www.instagram.com/aigamokazoku/
通販サイト:https://aigamokazoku.thebase.in/

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この記事を書いたひと

muto(ミュート)

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