新生児集中治療室から在宅へ 孤立する親子が「これが息子の世界」と思えるまで
1月、全国各地で行われた成人式。この日を、「これまでよく生きてくれた」と特別な思いで迎えた家族がいる。障害のある息子と歩んだ20年は決して平坦な道のりではなかった。何が、悲しみの中にあった家族を笑顔に変えたのか。
目次
見つけた居場所
午前9時、由美さんは、北九州市内の医療型ショートステイ「さくらんぼ」に向かった。友喜さんは、午前9時から午後3時頃まで医療的ケアをしながら自宅で生活する人を支える施設で過ごしている。
看護師
「これなんだ? そう、鬼でーす」
この日は、節分を前に看護師と一緒に、鬼を制作した。
看護師
「そうそう、上手上手。OK?OK.かっこいい!」
頻繁に話しかける看護師。友喜さんも笑顔になる。
そして、少し離れた場所には、友喜さんとは別の利用者をケアする由美さんの姿があった。
村岡由美さん
「海里さん、おいしい?うん、ぼちぼちごはんの用意しようか」
実は由美さん、看護師の資格を生かし、17年前からここで働いている。医療の進歩で、人工呼吸器や胃ろうを使いながら自宅で生活する人が増え、こうした施設のニーズは高まっている。
村岡由美さん
「こういうモニターの数字とか見て、何に困っているか早め早めに気づいてあげないと、『きつい助けて』って利用者が訴えて気づくのでは遅いんですよ」
由美さんに働くよう後押ししたのは、施設の理事・半田みどりさん。きっかけは、由美さんが日中の友喜さんの居場所を探してここを訪れた時だった。
医療法人桜が丘クリニック 理事・半田みどりさん
「『私と友喜はうつです、うつです』って言うんです。由美さんももちろん暗いんですけど、友喜もずっと泣いているんです。何が彼女に必要なのかなって思った時に、友喜のお母さんだけじゃなくて、村岡由美として存在する、『村岡由美さんだね』っていう時間が一日の中で少しでもあったら、っていうのがきっかけなんです」
看護師 村岡由美さん
「自分が誰かの役に立てている喜び。ここで仕事をする時間はとても大切な私の宝物です。子供たち、みんなかわいいですもんね」
泣いてばかりだった友喜さんも笑顔に
泣いてばかりいた友喜さんも変わった。当初から友喜くんを知る看護師の川村響子さん(39)は、こう話す。「すっごい泣き虫さんだったんです。ずっと泣いてたね。こんなに笑うとは。しゃべるだけが、お話できることだけがコミュニケーションじゃないということを、ここにいる皆が教えてくれた。表情だったり、口元や目も動かして、こうやって手も動かして、求めていることを教えてくれます」
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