炊きたてのご飯は最高においしい、それはもちろん正解。だけど、お米の味わいと食感をさらに引き出して、冷めてもそのおいしさを楽しむには「おひつ」の力を借りるのが大正解でした。
昔ながらの道具は現代の家電にも負けず、理にかなった機能と豊かさを併せ持っています。福岡に古来より伝わる民工芸品「博多曲物(はかたまげもの)」も、そのひとつ。ご飯の時間をもっと豊かに、幸せにしてくれる“魔法の道具”をご紹介したいと思います。
ご飯がおいしくなる、博多の“まげもん”
写真は「博多曲物 飯びつ」3合 17,600円
「博多曲物」は、薄く削った杉や桧の板に熱を加えて曲げ、桜の皮で綴じて作られる木製容器。先日、前々から憧れていた「博多曲物 玉樹」の「飯びつ」をついに我が家へお迎えしました。結果、なんでもっと早く使わなかったのかと大後悔。非常に軽く、美しい佇まいに加え、その機能性と使い勝手の良さに驚きです。
曲物って特別な感じがするし、お手入れが大変そう……なんて、最初は思っていました。でも、これが大間違い。曲物は日常づかいしてこそ良さが輝く“暮らしの道具”でもあり、使い方・お手入れ方法は以下の通りで、とっても簡単なんです。
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① 水で濡らし、布巾で軽く拭いてご飯を入れる。
② 使用後はぬるま湯と柔らかいスポンジで洗う。
③ 洗った後は布巾で拭き、風通しの良い場所でしっかりと干す。
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正しくお手入れすれば何十年と永く愛用でき、曲物の器であれば底の入れ替えや修理もできるそう。使い込むほどに木の味わいが増すのも素敵ですよね。
飯びつに炊きたてのご飯を入れ、粗熱が取れた頃に食べてみると、お米は驚くほどもっちり。杉の木が余分な水分をちょうどよく吸収してくれるおかげで食感が際立ち、お米本来の甘味や滋味をいっそう強く感じられます。ふわっと広がる杉の香りも心地よく食欲をそそり、とにかくおいしい! 「ご飯は炊きたてよりおひつに入れた方がおいしい」という料理研究家や料理人の方が多いのにも納得です。
「博多曲物 玉樹」提供
そして、そのまま冷やご飯にすればさらに真価を発揮します。曲物は水分量を適度に保ってくれるので、時間が経ってもお米はツヤツヤ、モチモチのまま。杉の木には殺菌・抗菌効果があり、ご飯が傷みにくいのも大きなメリットです。
熱湯をかける、長期冷蔵する等の過度な温度変化は木割れや変形に繋がるため注意が必要ですが、夏場は布巾やラップなどで包み、冷蔵庫に入れてもOK。「博多曲物」の代表的なアイテムといえばお弁当箱で、近年はその良さが見直され、愛用する人が増えているそうです。
「博多曲物」の歴史って?
納められた「筥」の上に目印として松を植え、それが「筥崎宮」の御神木・筥松に。社名や町名の起源となっている
諸説あるものの、曲物は古墳時代にはすでに製法が確立され、日本各地へ広まっていったとされています。なかでも「博多曲物」の起源は古く、「古事記」や「日本書紀」に登場する応神天皇の誕生に由来。筑紫の蚊田の里(現在の糟屋郡宇美町)で生まれた応神天皇の「胞衣(えな)※へその緒」を「納める筥(はこ)」として作られたことがはじまりだそうです。
420年以上の伝統を誇る「博多曲物 玉樹」
兄の昌吾さん(左)と弟の佳吾さんは「伝統を未来に繋ぎたい」と、玉樹さんの元で目下修業中
「博多曲物」の魅力に惹きつけられた私は早速取材を申し込み、志免町に工房を構える「博多曲物 玉樹」を探訪。18代目にして初の女性曲物師である柴田玉樹さん(中央)と2人の息子さんが快く迎えてくれました。
柴田家は「博多曲物」を作り続けて420年以上の歴史を誇ります。昭和の初め頃までは20軒ほどの工房が東区馬出(まいだし)に連なっていましたが、現在、伝統の技を継承するのはとうとう玉樹さんと2人の息子さんのみに。「筥崎宮」の三方をはじめとした神社仏閣品から日用品まで幅広く制作を担っています。
「博多曲物 玉樹」提供/17代目・父の玉樹さん(右)と工房にて
「博多曲物 玉樹」は1995年に工房を志免町に移しますが、程なくして玉樹さんの父・17代目が病に倒れ急逝。子どもの頃から家事と曲物づくりを手伝っていた玉樹さん(本名・真理子さん)は、周囲の反対を押し切り家業を継ぐ決意をします。当時「曲げは男の仕事」という職人の世界。女性ならではの苦境も数多かったそうですが、「伝統を守る。そして絶対に認めさせてやる!」との一心で、とにかく努力を続けたと言います。
やがて10年が経つ頃には、冷ややかだった周りの目が応援、期待、信頼へと変化。先代の頃には作っていなかった茶道具で新たな分野も切り開き、2007年ついに18代目・柴田玉樹(雅号)を襲名します。
端正な職人の手仕事に感動
「私が父の背中から学んだことは、諦めずに作り続けること。息子たちにも伝えていますが、とにかく数をこなし、目で、手で、感覚を覚えていくしかありません」と玉樹さんは話します。
丸太の目利き、仕入れから乾燥、採寸、断裁。木目を読みながらミリ単位で繰り返し削り、湯で煮込んで柔らかくして……と、素材となる側板を用意するだけでも大変な苦労です。
アクを抜きながら茹でて柔らかくなった側板は、すぐさま「巻木」に巻きつけて整形。ピタリと合うように削った板の端を重ね、「木挟」と呼ばれる道具ではさみ、4~5日かけてしっかりと乾燥させます。
大小さまざまな木地に古い消防ホースの生地をつけた「巻木」は、玉樹さんオリジナル。工房内には、商品ごとの寸法を図るための板もあり、福岡のさまざまな有名店の名前が記されていました。以前ご紹介した「さばたろう」の重箱も、ここで作られているんですよ。
板を綴じ合わせる「桜の皮」も手作り。ゴツゴツとした粗い皮をなめし、それを紐状に切って削り出し、板を綴じ合わせます。飯びつや弁当箱、茶道具、神具など、アイテムごとに綴じ目の幅や意匠が異なる点も素晴らしいの一言。そうして最後に底板をつけたら完成です。
「博多曲物」ならではの絵付け。
インテリアとしても活躍
筆致には職人の個性が出る。玉樹さんの描く絵は柔らかく丸みがあって優しい
また「博多曲物」にはもう一つ、全国的にも非常に珍しい特色があります。それが、曲物の表面に漆などを塗らず、無垢な木目に直接絵を描く絵付けの技法です。
松竹梅、鶴亀といった縁起の良い図柄を施した「ぽっぽ膳」は、博多に伝わる伝統的な子供用の祝い膳。かつては3歳の七五三の時に用いられていましたが、現在は生後100日を祝う「お食い初め」などのハレの日に使用されることも増えているそうです。
この博多ならではの技法を生かし、さまざまな絵を描いた「博多曲物」も登場。季節の花を描いた茶道具から、行政、ブランド等に依頼を受けて生まれたコラボレーションデザインの小物入れまで多彩で、ときめきが止まりません。
左上の大きな木製容器は「Restaurant Sola」(築港本町)に依頼を受けて制作したワインクーラー
そして近年、「博多曲物」の利用シーンはさらに広がりをみせています。ホテル、飲食店等の空間に華を添えるオブジェや容器、酒器、和室に馴染む空気清浄機まで誕生。2026年2月には「ザ ロイヤルパークホテル 福岡」内に「伝統工芸ルーム」がオープンし、抗菌効果や吸水性を生かした「博多曲物」のアメニティボックス(左下)も採用されています。
箱崎には土日限定ショールームも
写真は、軒先に提灯飾りが下がる放生会の頃
「博多曲物の良さをもっと知ってもらいたい」と、2023年には箱崎3丁目・箱崎商店街内に「ショールーム」もオープン。土日のみの営業で、定期的に「博多曲物」の制作を体験できるワークショップも開催されています。
「伝統を守りながら、新しいことにも挑戦して、たくさんの人に使ってもらうことが大切。息子たちも、新しい発想で時代に合うものを作っていってくれたら」と玉樹さんは目を細めます。
だえん弁当箱8,800円~は贈り物にも◎。桜の皮の引き手を付けたオリジナル箱も素敵
箱崎のショールームはもちろん、生活道具店をはじめとした一部取扱店でも、見つけたらぜひ手に取ってみてください。「博多曲物」は、軽やかなのに丈夫で、すべすべとして、ご飯をうんとおいしくしてくれる“魔法の道具”。毎日を頑張っている自分や家族、大切な人へ、確かな幸福を運んでくれます。
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