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商人の街・博多らしいうどんのあり方を今に残す。

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「早い、安い、そしてうまい」が信条。博多うどんらしさを貫く。

福岡の老舗うどんを巡る本コラム。前回は福岡に現存する最古のうどん店として知られる「かろのうろん」を訪れ、店主・瓜生高康さんに話を聞いてきた。今回も同じく、博多区エリアに店を構える「みやけうどん」を取り上げる。ぼくの著書「うどんのはなし 福岡」では表紙も飾ってもらったこともあり、個人的にも思い入れが深い。店を訪れると、白い、大きな提灯がいつもの顔で出迎えてくれた。

「みやけうどん」が創業したのは昭和29年(1954)。終戦から9年が経ち、日本において戦後復興から本格的な高度経済成長へと歩み出した頃だ。映画「ゴジラ」が公開されるなど、ようやく文化的な活動にも人々が心を寄せられるような、そんなタイミングでのうどん店の開業。希望に満ち溢れた船出だったのだと思っていた。ところが、現在、「みやけうどん」を弟・三宅裕次郎さんとともに兄弟で切り盛りする兄・正一さんから思いがけない言葉が発せられた。

写真上が三宅正一さん、写真下は弟・裕次郎さん

「父は元々、材木商やったんよ。やけん、うどんとは無縁の生活を送っとった。たまたま、この自宅の敷地が広かけん、一部を店にして、家賃でも稼ごうとしとったみたいですね。それでうどん屋をしようと思って、そのための改修工事まで済ませ、さあ、というタイミングで、その借主と連絡がとれんくなってしまって。店だけあってもしょうがなかけん、仕方なしに父がうどん屋をすることになったんよね」

当然ながら、うどん店での経験はゼロ。さらにいえば、飲食店自体が全くの未経験だった。そこで開業時にはうどんの職人を雇い、その職人に習いながら、店を切り盛りしたのだという。
正一さんは現在、74歳。29歳の時に店を手伝うようになった。「弟のほうが先に店に入っとったんです。だから、うどん屋では、彼のほうが先輩。おれはぶらぶらしよったけんね。店の主人も、弟ということになっとります。まあ、お互いに歳やけん、いつまでできるかって感じやけどね」と正一さんは豪快に笑った。

大正14年に建てられたというこの建物も、年季が入っている。元々の造りがしっかりとしていたからなのだろう。福岡県西方沖地震も乗り越えた。
「昔ながらの店やけん、椅子、テーブル、どれもずっと使い続けているものばかりやね。それでも地震の際は大変やったね。今は、こうやって普通に見えるけど、ところどころ、新しい木材が見えるやろ。あれは補強。初めの揺れのあとに筋交を入れたり、手直ししたりしたけん、その後の余震でももったんよ。茹で釜のところは流石に頑丈に作ってもらっとったけん、大丈夫やったね。それでも、茹で釜自体は消耗品で、もう同じものを作っとるところも無さそうなんよ。今のものも、ようやく探してもらって、広島で見つけて、運んできたものやけん。これが無くなると、どうしようもなくなる」

これもまた、老舗ならではの悩みの一つ。味はもちろん、店を変わらずに続けていく上で、その食材や仕事の道具といったそれまでは当たり前のようにあった「欠かせない物」が手に入らなくなることもあるということだ。
かつて町内にデパートがあった時代もある。そのデパートが撤退し、人の流れが変わった。「みやけうどん」を取り巻く環境がどんどん移ろっていく中でも、こうして続けて来られたのは、その「あり方」が尊いからだろう。

先代の頃から「早い、安い、そしてうまい」を信条としてきた。「それが昔からの博多のうどんやけんね。博多っ子は気が短かでしょ。特に早さは変えられんでしてね。まあ、うまいというのを自分で言うのはちょっと偉そうですけど、値段と味のバランスが良かとでしょうね。値段に対して味が足りていないと思われたら、来んくなるでしょうし。そこは大切に考えとりますよ」

その「早さ」を支えているのが、麺のスタイルだ。店では開業時から“茹で置き麺”のうどんを仕入れて使っている。茹で置きとはあらかじめ茹でてある麺のことで、こうしておくと生麺ならではの食感ではなくなるものの、注文が入ってゼロから茹で始めるよりも劇的に調理が早くなる。
これまでの歴史で、製麺所は二度、変わったが、昔から太めのうどん麺を用いてきた。「食べごたえがあるけんね。今の麺も太かと言われるんやけど、昔のほうがもうちょっと太かったとですよ」と正一さんは笑顔を見せる。2本も箸で持ち上げようものなら、ずしりと手首に力が入るくらいの重みがあるものの、茹で置きならではのふんわりとした口当たりは健在で、そのふくよかな食感に、温かみを感じた。

出汁は昆布、鰹節を主体に引き、この製法も昔から変わらない。自慢のつゆは、今も少量ずつを徳利で湯煎しておく。
注文が入ると、まさに電光石火。丼をさっとお湯に潜らせて軽く温め、その後、うどんの麺をテボに入れて茹で釜で温める。頃合いで麺を丼に移し、準備が整ったら、徳利から熱々のつゆを注ぐ。最後にトッピングを乗せて完成。時間にして1分ほどだろうか。あまりにその一連の流れが澱みなく、美しかったので、見惚れているうちに、文字通り、あっという間にうどんができあがっていた。
「博多うどんの茹で置きは、せっかちな商人が待たずに食べられるようにという点で生まれたんよね。うちもそういう思いでやっとります」

写真はエビ天

麺、天ぷら類を仕入れることで成り立つ「みやけうどん」の一杯。うどんの麺は製麺所、天ぷらは天ぷらの専門店というように、それぞれの道のプロから食材を集め、店のつゆでまとめる。それはお互いの仕事へのリスペクトでもあり、商人の街・博多らしいうどんのあり方だとも思えた。

ただ、馴染みの仕入れ先も、この店と同じように年月を重ねている。
「さっきの茹で釜もそうやけど、うどんの食材についても、卸先が店を畳んで、この先、手に入らんくなるかもしれんけんね」

実際、近年の傾向でいうと、茹で置きスタイルのうどんを提供する新規店は、ぼくの知る限りほとんど無く、昔ながらのそのスタイルは減少しているように感じる。「いつまでもあると思うな親と“老舗”」だし、「ないと思うな“時間”と“行動力”」という思いで、これからも「みやけうどん」に通い続けたい。

店舗名:みやけうどん
ジャンル:うどん
住所:〒812-0036 福岡県福岡市博多区上呉服町10-24
電話番号:092-291-3453
営業時間:11:00~17:00頃 ※売り切れ次第終了
定休日:日曜、祝日
席数:カウンター6席、テーブル20席
メニュー:うどん500円、そば500円、えび天100円、ごぼう天100円、丸天100円、わかめ100円、玉子100円、きつね100円、いなり50円

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この記事を書いたひと

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