東京の中国大使館、そして日本各地にある中国総領事館が、日本人が取得する中国入国ビザの発給手数料を一気に引き上げました。その上げ幅はなんと7倍。この強硬とも言える措置の背景には、日中間のどのような思惑があるのでしょうか。東アジア情勢に詳しい、元RKB解説委員長で福岡女子大学副理事長の飯田和郎さんが、9月14日放送のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で解説しました。
「いきなり7倍」の手数料引き上げ
東京の中国大使館、そして日本各地にある中国総領事館は9月14日、日本人が取得する中国入国ビザ(査証)の発給手数料を引き上げました。その上げ幅はなんと7倍。今回の中国側の措置から、現在の日中関係を見ていきましょう。
福岡市中央区地行浜1丁目に、中国の駐福岡総領事館があります。その領事館のビザ発給部門は朝9時から窓口が開きますが、14日の申請分から、中国入国ビザの発給手数料が一気に値上げされました。この引き上げは9月11日に発表されたものです。週末で業務が休みの土曜、日曜の2日間をはさんで、まさに「いきなりの実施」「いきなりの7倍」というわけです。
日本人が中国に赴く場合、30日間を超える長期滞在にはビザが必要です。1次ビザ、つまり1回に限って入国できるビザは先週の申請までが2250円でした。これが14日の申請から1万6750円になります。7.4倍にあたります。また、2回入国できるビザは3750円だったのが、2万5100円になります。こちらは6.9倍の引き上げです。
中国側が主張する「相互主義」の裏側
中国側は、このビザ手数料の引き上げをどのように説明しているのでしょうか。料金改定が発表された11日の午後、中国外務省のスポークスマンは定例会見で、日本の報道機関の質問に対し、次のように説明しました。
「日本にある中国大使館がすでに発表しています。今回の調整は、対等の原則に基づく措置です」
このごく短いコメントがすべてです。大幅な値上げは「対等の原則に基づく措置」、すなわち相互主義によるものだと言っています。相互主義とは何か。日本政府は今年7月、訪日する外国人向けのビザ手数料を5倍に引き上げました。今回の中国側の措置は、「日本側の決定に対抗して」というわけです。
「日本が引き上げたから、こちらも上げた」ということですが、日本政府が取った値上げは、国籍に関係ない一律の措置であり、中国に限った措置ではありませんでした。一方の中国側は、国ごとに分けて中国入国ビザの申請手数料を定めています。中国側からすれば今回、「日中2国間の枠組みで」、また「日本だけを対象に」という相互主義を適用したわけです。
日本政府が7月から施行した、日本入国のための1次ビザの手数料は1万5000円。一気に5倍の引き上げでしたが、中国政府が14日から日本人だけに適用する中国入国の1次ビザは1万6750円。ほぼ同額です。額の上でも相互主義と言えるかもしれませんし、厳密に言えば、中国入国の方が1750円高くなっています。
中国の不満とメンツの現れ
まさにビザ発給手数料の、日中間の“応酬”という感じですが、今回の「いきなりの大幅値上げ」の影響は限定的に思われます。と言うのも、観光旅行など滞在30日以内なら、中国を訪れる日本人に対しては引き続きビザ免除措置が有効、つまりノービザで中国に入れるからです。「観光旅行で1か月以上、中国に滞在する」という人は確かに多くはないでしょう。
日本政府が7月から日本入国ビザの手数料を大幅に値上げした際、私は「中国側には『世界第二の経済大国の中国国民に、日本入国ビザが必要なのか。現にアジアの多くの国は、日本へはノービザで入れるではないか』という不満が出そうだ」とお話ししました。
さらに言うと、「日本へ旅行し、たくさんお金を落としているでしょ」「日本は、観光を成長戦略の柱に据えて、ビジット・ジャパン・キャンペーンも派手にやってきたのではないの?」という思いです。今回適用される中国ビザの手数料引き上げは、まさにその通り、中国側の不満を形にしたものだと言えます。
中国からすれば「中国人に対しては『ようこそジャパン』ではないのですか」という思いがあるのでしょう。昨年秋以降、日中関係が冷え込み、中国政府は自国民に「日本は危ない」などさまざまな理由をつけて日本渡航を自粛するよう繰り返し求めてきました。一方で日本政府が7月に実施した日本入国ビザの手数料大幅値上げは、中国側から見れば、中国人をターゲットにしたように映ります。
観光旅行などで中国を訪れる日本人は、引き続きノービザで中国に入れます。そうなると、中国政府が日本人を対象に始めたビザ手数料の引き上げは、メンツの問題という側面もありそうです。習近平政権が、中国国民に向けた「我々もきちんと対抗措置を取ったぞ」、「今回なら相互主義を適用したぞ」というアピールの意味合いもあるのだろうと思います。
見えない日中関係の着地点
中国側のビザ手数料引き上げを報じるウェブニュースを見てみると、読んだ人の書き込みが目立ち、少し気になります。その多くは「これでますます中国へ行かなくて済む」「行かない方が安全だ」「行き来しないのが、日中お互いに幸せ」といった声です。一方、中国側のネット民も「中国外務省、よくやった」と称賛する声があふれています。
今の日本は、中国に対して“アンチ”な立場や意見が多いようですが、それだけでいいのでしょうか。私はむしろ、中国人には「どんどん日本へ来てください。自分の目で日本を見てください。お国で教わったこととは違うでしょ」と言いたいですし、一方の日本人には「中国へ行って、自分の目で中国を見てください。中国へ行く前のイメージと同じですか?違いますか?」と問いたいです。まずは一人ひとりが自分で確かめないといけません。だからこそ、メンツとメンツが絡み合うように日中両国が決めた、入国ビザ申請手数料大幅引き上げの“応酬”には大いに疑問があります。
片方のトップである日本の高市総理は、中国への毅然とした外交姿勢が評価されていると言います。JNNの最新9月の世論調査によると、高市内閣を「支持できる」という人は62.5%。先月8月の調査より3.3ポイント上昇しました。その高市総理は長期政権を目指して今週、内閣改造、自民党幹部人事を断行すると言います。一方の習近平主席も盤石な指導体制を築き上げています。
この二人がトップにいる間は、日中関係の着地点は見えてこないのでしょうか。私はこれまで「山あり、谷あり」の日中関係を見てきましたが、今ほど展望がきかない状態は経験したことがありません。さらには今が「どん底」ではなく、今後さらに「どん底のどん底」があるのか。今回紹介したビザ手数料の値上げは、そんな心配を増幅させる要因に思えてなりません。
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この記事を書いたひと

飯田和郎
1960年生まれ。毎日新聞社で記者生活をスタートし佐賀、福岡両県での勤務を経て外信部へ。北京に計2回7年間、台北に3年間、特派員として駐在した。RKB毎日放送移籍後は報道局長、解説委員長などを歴任した。2025年4月から福岡女子大学副理事長を務める。





















