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おひとりさま高齢者はどこへ 消える有床診療所 引き金は10年前の医院火災 

今、かかりつけ医の機能と入院機能を併せ持つ「有床診療所」が減っています。引き金になったのは2013年に福岡市の医院で入院患者など10人が死亡した火災。有床診療所がなくなるとどうなるのか。その影響を一番に受けるのは、今後増えるとみられる「おひとりさま高齢者」です。

有床診療所は誰のため?

 

福岡市にある「八田内科医院」 通常の外来診療のほか、入院できるベッドを19床備えた「有床診療所」です。最近は常に10人ほどが入院しています。医師の八田弓子さん(54)は今年、父・喜弘さん(84)の後を継ぎ、院長になりました。

ひとりで食べて薬が飲めなくなった時

 

一人で暮らす高齢者が増えた今、かかりつけ医の機能と入院機能を併せ持つ「有床診療所」は、特に重要な役割を果たしています。

八田弓子院長
「かかりつけとして来ている高齢者が体調不良になられた時ですね。『おひとりで自宅でちゃんと薬を飲んで食事をして病気を治していく』という、それすら難しい方がかなり多くなっています。医療機関も介護施設も増えていますが、医療と介護のはざまにいる人がたくさんいる。そういう方々のために有床診療所があるのです」
 

在宅医療増加で増す役割

 

福岡県医師会の瀬戸裕司専務理事も、今後増加が予想される在宅医療や地域医療の中でも、有床診療所の役割は大きいと話します。

福岡県医師会 瀬戸裕司専務理事
「病院からの早期退院患者の在宅や、介護施設等々への受け渡し、引き渡しについても有床診療所が役立っている部分があります。今後、在宅医療が非常に増加する、在宅患者が急増するということが予想されているわけですから、地域共生社会における医療において、有床診療所が果たす部分は非常に大きいと考えています」

有床診療所は10年で3割以上なくなった

 

しかし今、有床診療所が急速に減少しています。10年前の2013年、全国に9249施設あった有床診療所は、去年5958施設にまで減りました。3割以上がなくなったことになります。

減少の引き金は10人が死亡した医院火災

 

そのきっかけのひとつとされるのが、2013年に福岡市で起きた火災です。10年前、福岡市の有床診療所で起きた火災により、入院患者8人と元院長夫婦のあわせて10人が死亡し、5人が負傷しました。この火災を教訓に消防法が改正され、国は、有床診療所に対して2025年6月末までのスプリンクラー設置を義務化、設置後8年以上運営することを条件に補助金も設立しました。しかし、元々、院長の高齢化や後継者不足に悩んでいた有床診療所にとって「8年継続」の条件はハードルが高く、病床を閉鎖する医療機関が相次いだのです。福岡県内だけでも、この10年で3割を超える235施設が、入院施設を閉鎖しました。

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