「グローバル化に伴うダイバーシティの尊重」が現代のすう勢ならば、福岡の麺とて例外ではありえない。例えば、ラーメン。豚骨ラーメン発祥の地として知られる福岡だが、ここ数年は塩や醤油、味噌、鶏白湯、煮干し、鯛出汁、貝出汁など、多様な「非豚骨」ラーメン店が急増。一説には、福岡市に昨年1年間で新規開業したラーメン店舗数は、豚骨店よりも非豚骨店のほうが多かったのだとか。
さように多種多彩な麺が百花統乱状態の福岡で、私が最近ハマっている麺の店を3軒ご紹介したい。
麺や鱗道
まず挙げたいのは、中央区平尾に2020年10月にオープンした「麺や鱗道(りんどう)」、煮干しラーメンの専門店だ。カウンター席のみ6席ほどのこぢんまりした店内の片隅には麺の原料である小麦粉の業務用大袋が数種類置かれている。
そして卓上のメニューを見ると、スープは出汁をカタクチ、ヒラゴ、ウルメといった数種のイワシの煮干しだけで取るのか、エソやアジなど他の魚類の煮干しも加えるのか、更に名古屋コーチンのガラや丸鶏で取った出汁と合わせるのかなど、製法の違いで「淡麗」「鱗道」「激鱗」と3種類。そして麺も自家製細麺と太麺に加えて、この日は店主が手打ちする太麺が限定提供されており3種類。さらに食べ方もラーメン、つけ麺、油そばの3種類。と言うことは3×3×3=27種類の食べ方が出来るのか!? さて、どれを、どう組み合わせて食べようか? ウキウキワクワク迷いに迷い、「淡麗スープのつけ麺を手打ち太麺で、味付け玉子をトッピング」でお願いした。
幅が2cm弱の極太平麺。これを丹念に手揉みして縮れを加えてから、もうもうと湯気の立ち上る釜に入れる。そしてスープを小型の雪平鍋に取り分け、加熱しつつ調味が始まると、豊かに香り立つ煮干しの風味。ワクワクドキドキ、うまさを確信しつつ出来上がりを待つ。
なにせ超極太麺ゆえ、茹で上げるのには時間がかかる。待つこと15分ほどで、待望の一杯が供される。グニグニと縮れた太麺の勇姿に見惚れつつ、スープにザブンと潜らせ啜れば、ビチビチと口腔を擽り、ムニムニと踊り唄う深いコシ。手打ちの極太麺ならではの独特な食感がなんとも楽し。
そして、麺を噛み込むほどに芳香する小麦の素朴な風味と、スープの煮干しのホロ苦いうま味とコーチンの甘味。更に、具の味付け玉子の甘味に海苔の磯の香り、玉ねぎの辛みも手伝って、なんとも豊かな味わいシンフォニー。半分ほど食べ進んだところで、卓上に置いてあるイワシの煮干し酢をチョイとかけると、爽やかな酢の酸味と共に、鮮やかに甦る煮干しの風味。ビールのキレある苦味で味覚をリフレッシュしつつ、とことん夢中に味わい尽くす。
多の津うどん
そして2軒目は昨年1月に東区の流通団地近くにオープンした「多の津うどん」。私と食の嗜好が近いと思われるSNSの多くが絶賛するうどん店なので、きっと私にとってもツボな店に違いないと訪ねてみると、中太平麺のうどんの美味しさに大興奮。
「きのこ天うどん」に惹かれるも、タンパク質を摂りたいと頼んだ「肉ごぼう天うどん」は具だくさん。大きめの丼いっぱいに広がる牛肉の甘煮とごぼう天に、出汁のふくよかな味わいが印象的なスメもうまいが、なによりうどんが我が好み。
まず、形状が中太扁平で、絶妙に麺線がよれていているので、なんとも楽しい触感&食感。そして、噛んだ時のムチッと軽快、かつ深く粘るコシ。更に、噛み込むほどに豊かに香る小麦の風味。
あまりのうまさに、その10日後に再訪。うどん自体の真価を楽しみたいと、冷たいうどんで「肉月見ぶっかけうどん」をいただいた。
うどんの白に牛肉の茶。そして卵は大分県産ブランド卵「蘭王」が使われていて、こんもり盛り上がった黄身の艶。なんとも美しい盛り付けに食欲そそられ、うどんとツユと具をグリグリと混ぜていただけば、うどんはおそらく、茹で立てを冷水で締めて間もないのだろう。噛み込むほどにクニックニッと抗う強いコシと、噛み込むほどに広がる小麦の旨味。
ただ、前回食べた温かいうどん「肉ごぼう天うどん」と比べると、小麦の風味は少々乏しく感じられる。今回は冷たいうどんだし、具の牛肉や卵の甘味も濃いし、致し方ないか。となれば次回は再び温かいうどんだ。
この日に同行したカミさんが食べたのは「親子どん」。親子の鶏肉は、食感が強く旨味も濃い親鳥が使われていたが、「親子うどん」も同様なのだとか。ならば次回は、ガリっと香ばしい食感のごぼう天もプラスして「親子ごぼう天うどん」をいただきたいっ。
石釜そば ひさ屋
そして最後に紹介したいのは、早良区石釜の古民家で営業されている「石釜そば ひさ屋」。「せいろ」や「辛味おろし」などの冷たい蕎麦や「かけそば」や「鴨そば」などの温かい蕎麦もうまいが、期間限定で提供される「田舎粗びき」の2月に提供された「寒ざらしそば」に悶絶した。
「寒ざらしそば」は、秋に収穫された殻つきの蕎麦の実を、店傍の清流に一週間浸水し、更に一週間かけて天日で寒ざらし乾燥することで、蕎麦の風味を引き立てたものを使う。蕎麦の実を数段階の製粉工程を経て粗挽きした蕎麦粉は、黒い外皮や、茶色の甘皮や胚芽、灰色の胚乳など、見た目も粒子の大きさも様々多様。なので、蕎麦に仕上げて食べると、なんとも豊かな食感と風味が楽しめる。が、様々な個性の蕎麦粉を上手くまとめて生地にして、蕎麦として切り分けるのは至難の業。かなりの経験と知恵がなくして成し得ない蕎麦なのだ。
うどんのコシより深く、葛より力強く。若干の小麦粉をつなぎで使って打つ蕎麦のスルッと小粋な食感とは双璧の、啜られることを拒否する蕎麦。よく噛む事で粗挽き粉自体を味わうには、先ずはそのまま。次に少量の塩を添えて、最後にツユを少しだけつけていただきたい。
薬味も辛味大根と山わさびと白葱の3種類あり、直接蕎麦にのせて噛めば、それぞれの風味とともに、蕎麦の甘味を際立たせる。もし来季も提供があるならば、是非とも日本酒と共にいただきたい。
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