東ちづるが語る社会派コメディサスペンス『まぜこぜ一座殺人事件』の魅力
障害者やドラァグクイーンなどの“マイノリティ”たちの圧倒的なパフォーマンスが魅力の映画『まぜこぜ一座殺人事件』が劇場公開されている。一芸に秀でたプロたちの演技を楽しく見ているうちに、マイノリティの様々な本音の毒気が次第に現れる―――。10月29日のRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、コメンテーターの神戸金史・RKB解説委員長が、この映画を企画した俳優・東ちづるさんにねらいを聞いた。
俳優・東ちづるが企画した映画
2週連続で、『侍タイムスリッパー』『アディクトを待ちながら』とインディーズ映画の紹介が続きました。今週も「自分たちで作りたい!」と思って作り始め、上映先がどこかにないかと探していくという、自主映画『まぜこぜ一座殺人事件 まつりのあとのあとのまつり』について話します。企画・プロデュース・キャスティングをしたのは、俳優の東ちづるさんです。
東ちづる:1960年、広島県出身。会社員生活を経て芸能界へ。俳優・タレントとして、ドラマ、映画、情報番組の司会、コメンテーター、講演、出版など幅広く活躍。プライベートでは骨髄バンクやドイツ平和村、障害者アート等のボランティアを30年以上続けている。2012年“まぜこぜの社会”をめざす、一般社団法人「Get in touch」を設立。代表として活動中。近著に、自ら描いた妖怪61体を社会風刺豊かに解説した「妖怪魔混(まぜまぜ)大百科」(ゴマブックス)などがある。映画制作は2017年『私はワタシ~over the rainbow~』につづき2作目。
私は東さんの活動に注目して、密着したドキュメンタリー『まぜこぜちづる』を作ったことがありますが、その東さんが取り組んだ映画が10月、東京と京都で上映が始まりました。11月に入ると、福岡や大阪、広島の映画館でも上映されることになっています。
社会派コメディサスペンス?
どんな映画なのか、まず東さんに聞いてみました。
東ちづる:「社会派コメディサスペンス」ですね。義足や車いすやダウン症、自閉症、ドラァグクイーン、こびとさん、ありとあらゆる特性のあるプロのマイノリティ・パフォーマーたちの座組みなんですけれども、そこで座長・東ちづるが殺されたのではないかという事件が起こる。その容疑者を巡ってのストーリーです。
神戸:笑わせながら、社会のことも考えてしまうようなストーリーになっていたと思いますけど、作った狙いは?
東:私自身、説教くさいものは嫌なので。映像でも舞台でも、必ず笑い、発見、感動を…。そして最後にモヤモヤがいつもおみやげとして発生するようにしているんですね。人それぞれで多分違うと思うんですが、そのモヤモヤと向き合っていくと、今の家族とか、学校とか、会社とか、地域とか、社会とかが見えてくる…というのを目指しています。
「社会派コメディサスペンス」ということで、いろんなものがミックスされています。
(予告編より)「東ちづる殺人事件……大スクープ…!?」
さあさあ、寄ってらっしゃい、見てらっしゃい! 一度見ておけば孫の代までの語り草、30年以上にわたり社会貢献活動を続けるかの俳優、東ちづるが殺されたってお話だ!
容疑者は、東が座長を務める「まぜこぜ一座」の特性豊かな曲者たち。奇想天外、奇妙奇天烈。ケダモノなのか化け物なのか? 異星人か妖怪か? 男か女か? 天使か悪魔か? 百花繚乱タリラリラーン!
見世物たちが見せつけるタブー満載、抱腹絶倒、マイノリティの心の叫びがここにある! ダイバーシティとか言う前に、まずはお近くの劇場までお立ち寄りください。まつりのあとのあとのまつり、「まぜこぜ一座殺人事件」、始まり、始まり~! ん? なんじゃこれ!?
軽快な、色彩と音楽に満ちた映画になってますが、元々東さんは、障害だったり、LGBTQだったり、そういった特性を持ちながら一級のパフォーマンスを展開するマイノリティを集めて「まぜこぜ一座」を作って舞台で公演。今回は映画という形にして挑戦しています。
監督:齊藤雄基
企画・プロデューサー・キャスティング:東ちづる
脚本:エスムラルダ
出演:東ちづる、大橋弘枝、ダンプ松本、ドリアン・ロロブリジーダ、桂福点、野澤健、マメ山田、三ツ矢雄二、峰尾紗季、森田かずよ、矢野デイビット、悠以、石井正則、芋洗坂係長、山野海
マイノリティの本音が爆発
2023年3月に東京で「まぜこぜ一座」の『歌雪姫と7人のこびとーず』という舞台があったので、見に行ってきました。「こびと」は、低身長の障害のある方ですね。昔は小人レスラーがプロレスの前座で試合をしてテレビで中継されたこともあったのですが、いつの間にか出なくなってしまった。「障害者差別じゃないか」とかいろいろな声があったのでしょうけど、逆に存在が見えなくなってしまう、ということになっています。
映画ではそんな“タブー”を恐れずに、当事者が「私がこびとです。何か悪いですか、こびとと呼んで。別にかまわないのですよ」という態度です。僕らマイノリティではない人間は、過剰に慎重になってしまったりしますが、「もっと普通に話しませんか? 私達はこの世に存在しているのですよ」と訴えていく形です。
「まぜこぜ一座」公演 月夜のからくりハウス『歌雪姫と七人のこびとーず』(90分)
映画の冒頭で紹介される、舞台『歌雪姫と7人のこびとーず』。その打ち上げから、映画のストーリーが始まっていきます。みんなで楽しく飲んでいる最中に、座長の東ちづるさんが殺されてしまった……。となると、容疑者はここにいる人たちだけ。
マイノリティの特性を持ったパフォーマーたち、放送局のプロデューサー、広告代理店社員、芸能事務所社長、この中の誰が犯人なのかを探す役が、ドラァグクイーンのドリアン・ロロブリジーダ。「まぜこぜ一座」の一員として活躍しています。
ドリアンが犯人探しを始めると「私じゃない」「いや、あなたは東ちづるを恨んでいたはずだ!」。そんな形で、マイノリティ・パフォーマーたちの本音、疑問、それから実は内心にある怒りが爆発していく、という大胆なストーリーになっています。
ドリアン・ロロブリジーダさん:ドラァグクイーン。東京都出身。1984年生まれ。2006年冬に開催されたドラァグクイーンコンテストで初登場にして優勝。180センチのスレンダーなボディに20センチのハイヒールと巨大なヘッドドレスを装着し、圧倒的な 存在感を放つ。数々のイベント、ファッションショーや企業講演、CM、映画、ドラマなどに出演。
レジェンド声優によるテーマ曲
この映画がすごいのは、鑑賞料金1500円にパンフレットが含まれていることです。いろいろなモヤモヤが残る、気になる。その議論の入口みたいなものは、パンフレットにいっぱい書いてあるはずです。
さらにすごいのは、エンディングソング。
♪Get in touch 夢を紡いでたどりついた 穏やかな午後
そそぐ日差しに 眉をひそめるキミの しなやかな背に
歌っているのは、レジェンド声優11人。東さんが代表をしている一般社団法人「Get in touch」が「まぜこぜ一座」を展開しているのですが、そのテーマソングをレジェンドみんなが歌い、映画のエンディングソングにもなっているんですね。声優に詳しい人たちはすぐに、みんな誰か分かるんじゃないでしょうか。
参加声優:井上和彦・かないみか・坂本千夏・島本須美・関 智一・高乃麗・日髙のり子・深見梨加・松本梨香・三ツ矢雄二・山寺宏一(五十音順)
この歌は何度も聴いていて、いろいろなバージョンを知っているんですけど、今回のはいいなーと思いました。やっぱり、声優さんは表現力がすごいですね。
東さんはこの映画を、「マイノリティの人たちの人権を大事にしましょう」と考えている人だけじゃなくて、多くの人たちに見てほしい、と話しています。
東:普段そういうことを意識してない、エンターテイメント好きな方に見てほしいですね。あと、ご家族で。子供たちにも安心して見てもらうことができるので。タイトルに「殺人」ってちょっとびっくりするようなタイトルですけれども、そんな大変なシーンはないし、流血もないですから。
神戸:何度も何度も、東さんが死んでいく役ですけどね。
東:グエー、グエーって言いながらね。ふふふふ。
「ドラァグクイーン」新人アナの異色番組
この映画にはドラァグクイーンが出てきます。ドラァグクイーンと言えば、RKBラジオの『ミス・ハンターのいただいてもいいかしら?』という、かなり特殊な番組が始まっています。まだRKBに入ったばかりの新人・高見心太朗アナウンサーがミス・ハンターに扮して登場する、隔週(第2・4・5週)の日曜深夜0時半からのラジオ番組です。この番組に、東さんに登場していただきました。ミス・ハンターは、東さんとどんなやり取りをするのか。この放送は11月10日(日)の深夜です。
『ミス・ハンターのいただいてもいいかしら?』
https://rkb.jp/radio/hunter/
学生時代、ドラァグクイーンの美しさの虜になった高見心太朗アナが、身も心もきれいでいたいリスナーに向けて美容と健康をテーマに語る30分。高見アナがドラァグクイーン「ミス・ハンター」に扮して登場⁉️ 番組公式インスタグラムのDMにあなたのお悩み、質問、ご意見をお寄せ下さい。ミス・ハンターがアドバイスいたします!
そして、映画『まぜこぜ一座殺人事件 まつりのあとのあとのまつり』は、福岡市では11月22日(金)から「ユナイテッド・シネマ福岡ももち」で上映が始まります。よろしかったらご覧ください。
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この記事を書いたひと
神戸金史
報道局解説委員長
1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。