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ノーベル賞受賞者が語る「チャンスに恋をしてもらう」ための秘けつ

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ノーベル化学賞の受賞者、白川英樹さん(88歳)が小学生に語ったのは、知的好奇心の持ち方だった。11月30日に九州大学で開かれた「子ども大学」の講座を取材したRKB毎日放送の神戸金史解説委員長が12月3日に出演したRKBラジオ『田畑竜介 Grooooow Up』で、白川さんの言葉を紹介した。

ノーベル化学賞の受賞者・白川英樹さん

昆虫採集の魅力を熱く語る白川英樹さん

ノーベル化学賞を2001年に受賞した白川英樹さんが、九州大学筑紫キャンパス(福岡県春日市)で白川さんが子供のころに学んだこと・考えたことを小学生に語る、という機会がありました。現在88歳ですが、お元気で声もハリがあって、「すごいな」と思いました。

「子ども大学だざいふ・ふくおか」は、第一線で活躍する専門家・大学教授から、福岡県内の小学4~6年生が講義を受けるプロジェクトで、2021年に始まりました。

子供と保護者が耳を傾けた白川さんの講義

昆虫採集から学んだこと

白川さんは子供たちに、中学から高校にかけて熱中したもののひとつが昆虫採集だった、と話しました。それは、完全なフィールドワークでした。

白川:ファーブルの昆虫記を読んで、昆虫が見当もつかないほど多種多様で変化に富んでいる、ということで、身近にどれだけの種類がいるかを知りたくなったので、昆虫採集を始めました。全世界の生物の種類の半分以上は昆虫だとされているんです。100万種を超えると言われていますけれども、実際にはその何倍もの昆虫が存在するんだ、と。つまり、未発見の昆虫がまだまだたくさんいる、と言われているんです。大体、幼虫が食べるのは植物の葉っぱですが、その植物を知る、その植物が生えている環境も知る、ということになるわけですね。

学校で教わるのは「分かったこと」だけ

白川:植物にとって昆虫に食べられるだけかというと、そうではなくて、成虫に花粉を運んでもらって、繁栄を助けるという面もあるわけです。自然のからくりが極めて精巧に、しかも巧妙に作られているということを、自然に学んでいったというわけです。とにかく実物を見ることが大切。本物で学ぶ。ということは、結局、自然に学ぶ。こういうことが大切だと実感したというわけです。よく観察をする、よく記録する。調べる。考える。子供のころに、学校で習ったんじゃなくて、自然を歩き回る中で、自分で見つけた。自然は解明し尽くされたかと言うと、ほんの少しわかっただけで、「まだまだ知らない宝の山だ」というわけですね。教科書に書いてあることや、学校で先生から学ぶことは、わかっているから先生が教えてくれるわけで、教えてくれないことの方がむしろ多いということを学んだというわけです。

白川さんは、すごく易しく話してくれていますが、含蓄のあるすごいことを伝えていると思いました。世の中には知らないことばかりなんだということを、昆虫から学んでいくわけです。

自然に学ぶ、そして自然を歩き回る中で自分で見つけたことがある。自然は解明し尽くされたかというと、ほんの少しわかっただけなので、まだ宝の山だ、と。

子供たちキラキラ目を輝かせながら聞いていました。学校では、わかっていることしか教えてくれない。世の中にはわかっていないことの方が多い。昆虫採集で、研究者として飛躍するステップに立っている感じがしました。

実験のミスから生まれたプヨプヨ

白川さんは「プラスチックは電気を通さない」という従来の常識を覆し、高分子科学に先例のない「導電性高分子」という新領域を開拓したことで、ノーベル化学賞を受賞しています。

実はこの研究、最初は実験のミスから始まったそうです。化学反応を起こす触媒を入れた時、単位を誤ってケタ違いに多い量を加えてしまったら、見たことのないような、黒い雑巾のようなプヨプヨした塊ができてしまった。

失敗なのだけど、「これは一体、どうしてできたのか」を分析し、薄いフィルム状に作ることができたら電気を通すということが分かってきて、結果的に「電気を通すプラスチック」につながっていったのだそうです。「知らないことばかりだから調べてみよう」。昆虫採集の時から考えていた姿勢なんです。

『セレンディップの3人の王子たち』

『セレンディップの3人の王子たち』というおとぎ話があります。セレンディップは、スリランカの昔の名前。セレンディップ王国から旅に出た王子3人が、優れた知恵や洞察力を発揮して、幸運な偶然を手にしていくという物語です。

ここから「セレンディピティ」という言葉が生まれました。「思いもよらなかった偶然がもたらす幸運」「幸運な偶然を引き寄せる能力」みたいな意味で使われます。

私は、「ちょっと覚えにくい言葉だな」と思っていましたが、セレンディップというスリランカの昔の名前に由来していると思ったら、「なるほど、そういうことか」と思いました。白川さんはそのセレンディピティが研究にとって非常に重要だということを話していました。

白川:偶然フィルムが見つかって、プラスチックでも金属になるような物質が見つかったので、それがノーベル賞につながったというわけですけれども、この「セレンディピティ」というのは実際には偶然とか失敗がきっかけで、当初目的は別にあったけど、目的以上に素晴らしい発明・発見をする能力だとされているわけです。例えばニュートンがリンゴの実が落ちるのを見て万有引力を発見したとか(これはいろいろ議論がありますが)、レントゲンがエックス線を発見した、フレミングがペニシリンを発見したとか、ワットによる蒸気機関の発明、コロンブスが逆回りで新大陸を発見したとか、物理とか生物学とか、あるいは工学、それから人文科学の領域でも、セレンディピティという言葉があるのです。

チャンスが「恋をする」相手とは

白川:ところが、アメリカの物理学者ジョセフ・ヘンリーはこんなことを言っています。「偉大な発見の種は、いつでも私たちの周りを漂っている。ただそれが根を下ろすのは、待ち構えている心だけである」と。フランスの科学者ルイ・パストゥールも「チャンスは、待ち構えた知性の持ち主だけに、恋をします」と言っています。いずれにしても、好奇心が旺盛で、認知力が強い。ということは、まだ知らないことや珍しいことについて「もっと知りたい」と心を動かされるということです。


 

「迎えに行く偶然」

白川:「どうすれば偶然に多く出会えるか」ということを研究した人がいます。彼によると、偶然には2種類あるそうです。ひとつは「やってくる偶然」。例えば棚からぼたもちが落ちる。まさに偶然だ。もうひとつ、「迎えに行く偶然」というのがあって、常識や決まりきった手順など、当たり前だと思っていることを改めて疑ってみる。そこから出てくるというわけです。そのためには何ごとにも積極的な行動をするということが必要。そのためには、できるだけ多くのことを学ぶ、たくさんの経験をする。何にでも興味を抱く。こういうことを努力する、ということですね。興味があって、それに没入することによって、ひとりでにわかってしまう。こういうことがあるんです。

これも、すごい話ですね。興味があって没入することによって、ひとりでにわかってしまう。「迎えに行く偶然」は、周りに漂っているのだ。それを受け止めるのは興味を持っている心。それを持った人が発見をしていく。そこにセレンディピティがあるということなんです。とてもわかりやすい。

ノーベル化学賞受賞者なんて雲の上の人と思っていましたが、88歳のおじいさんが、自分たちにもわかるような言葉で、科学への興味をどう持つのかということをしゃべった。子供たちはきっと、一生忘れないんじゃないかなと思いました。非常に刺激的な講義でした。

子供たちと一緒に

「子ども大学だざいふ・ふくおか」は、福岡県内の小学4~6年生が対象。興味のある方はホームページ(https://cu-dazaifufukuoka.jp/)をご覧ください。

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この記事を書いたひと

神戸金史

報道局解説委員長

1967年、群馬県生まれ。毎日新聞に入社直後、雲仙噴火災害に遭遇。福岡、東京の社会部で勤務した後、2005年にRKBに転職。東京報道部時代に「やまゆり園」障害者殺傷事件を取材してラジオドキュメンタリー『SCRATCH 差別と平成』やテレビ『イントレランスの時代』を制作した。現在、報道局で解説委員長。