北九州を代表する駅弁といえば、折尾駅の「かしわめし」をおいて他にない。僕は八幡に住んでいた母方の祖父の大好物だったため、子どもの頃からよく食べていた。当時は国鉄の駅売りしかしてなかったはずなので、わざわざ買い求めに行ってたのだろう。その後、市内のキヨスク(駅の売店)やデパートでも販売されるようになって口にする機会が増え、北九州市民にとってはソウルフードの一つといっても過言ではないだろう。この「かしわめし」を製造販売しているのが、折尾駅のすぐ隣に本社を構える「東筑軒」で、その本店がこの4月にメニューを一新してリニューアルオープンした。
「東筑軒」の創業は1921年(大正10年)で、折尾・直方駅の立ち売り弁当販売からスタートした。鶏肉とガラでスープをとり、甘辛く炊いた「かしわめし」は、創業者の妻・本庄スヨが考案したといわれ、今も門外不出のレシピとして伝わっている。ちなみに当初は「親子めし」という名前で売り出したが、駅で売り子が声に出すと「おやころし(親殺し)」に聞こえてしまい、「かしわめし」に変更したというエピソードが残っている。
かしわめし(弁当・大)970円(※写真は店舗より提供)
昭和40年代にデザインされたというパッケージにはイラストで折尾駅周辺の沿線地図が描かれており、新駅や新しい施設ができるたびにアップデートされている。僕が子どもの頃はスペースワールド駅はなかったが、今やスペースワールドのイラストが削除されているのは皮肉なものだ。
紐を解いて蓋を開けると、経木の折り箱からほのかな木の香りが漂い、鶏肉、錦糸卵、刻み海苔の美しい三色ラインが現れる。その下には甘辛く炊いたかしわご飯が敷きつめられており、それぞれのバランスが何とも絶妙なのだ。つけ合わせの奈良漬け、甘く煮たうぐいす豆、昆布の佃煮も昔と変わらず、口直しのアクセントをつけてくれる名脇役である。
さて、リニューアルした「東筑軒 本店」だが、以前は事務所だったスペースまで使って店舗面積を大幅に拡大。手前に立ち食いスペース、奥に広々としたテーブル席のフロアが広がり、大きな窓から陽が差し込む快適な空間となっている。
店内に入ると、まずは券売機で食券を買うシステム。うどん・そばだけで約30種類、ごはんもの・一品料理・セットまで入れるとおよそ50種類ものメニューが揃っているので、行列ができるお昼時はあらかじめ注文を決めておくのが無難である。
「かしわうどん(そば)」410円、「かしわめし」290円というリーズナブルな価格設定に加えて、薬味処には12種類もの多彩な薬味とてんかすが取り放題。うどんやそばを自由にカスタマイズしたり、手軽に味変が楽しめるのも嬉しい。
今回は店のイチオシでもある「おもてなし御膳」(990円)を注文。二大名物メニューである「かしわめし」「かしわうどん」に6種類の手作り惣菜、デザートまで付いて1,000円アンダーというのは、かなりのお値打ち価格である。(というか、これが最高価格で、1,000円以上のメニューは存在しないのだが。)
今まで駅弁として販売されてきた「かしわめし」だが、実は店舗で温かいうちに提供するのは、長い東筑軒の歴史の中でも初めての試み。そのために、わざわざ小石原の窯元に専用の丼を特注したというほどで、力の入れようはハンパない。冷めても美味しいのが駅弁の良さだが、ほんのりと温かいのも、もちろん悪くない。まさにTPOに合わせて食べ分けることができるのが、百年以上食べ継がれてきた偉大なる駅弁の実力だろう。
一時途絶えていたが、2013年に再開された折尾駅での立ち売りも主に改札口コンコースで継続中。現在のダイヤでは、かつての国鉄時代のように停車中の列車の窓から買うことはできないが、乗車前に買い込んで車内で蓋を開ければ、しばしの旅情を楽しむことができる。
また、本店に続く食堂形式の新店舗も続々と展開中で、9月17日には福岡市内2店舗目として「六本松店」がグランドオープンの予定。今後も福岡県内を中心に出店を計画しているそうなので、そのうち読者諸兄の近所でも手軽に「かしわめし」が食べられるようになるかもしれない。
ジャンル:定食・食堂、うどん、惣菜・弁当
住所:北九州市八幡西区堀川町4-1
電話番号:093-383-1818
営業時間:6:00~OS21:30
定休日:なし
席数:テーブル32席、スタンディング8名くらい
個室:なし
メニュー:かしわめし290円、かしわうどん410円、ごぼ天うどん490円、こだわりカレー590円、かつ煮定食690円、わくわくセット690円、おもてなし御膳990円
URL:https://tochikuken.co.jp
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