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漁師の強力助っ人!海の天気図

宮崎県水産試験場の渡慶次(とけし) 力(つとむ)主任技師(38)は、操業中の漁船が集めた水温や潮流、波の状態などの海況情報を漁業者に無料で提供する日本初の全自動システム「海の天気図」を開発した。

これまでは、人工衛星による海水温情報や月に一度、県が調査船を出して海況を調べる方法が主流だったが、速報性に欠ける上、曇りや雨の日は機能しないなど様々な問題を抱えていた。特に日向灘は黒潮の影響で刻一刻と潮の流れ等が変化する海域。開発の裏には渡慶次さんの「何とかして漁業者に役立つ情報を出したい」との思いがあった。

海の天気図では、データ収集を依頼した漁船から情報をリアルタイムで収集。水産試験場で自動解析して、インターネットで毎日県内の漁師へ無料で提供している。

データを収集する漁船はたったの8隻!必要最小限の経費で日向灘の海況情報を網羅できる方法を編み出したのだ。 これによって、魚群発見の精度が高まり不要な出漁も減少した。その恩恵で県内の中型まき網漁は年間2億円の経済効果があった。漁業効率化の切り札として全国から注目されている。

渡慶次さんはさらに精度の高い海況情報の提供を目指し奮闘中。将来的には現況を伝える「海の天気図」を越え、予測も可能な「海の天気予報」を目指している!
<取材先データ>
会社名:宮崎県水産試験場
担当者:資源部 渡慶次 力(とけし つとむ)主任技師
住所:宮崎県宮崎市青島6丁目16-3
電話番号:0985-65-1511(代表)
HP:http://www.mz-suishi.jp/

取材後記

番組を制作するにあたって、一番の心配事は「大漁シーンを無事撮影できるか」ということでした。
実は取材を始める1か月前から、黒潮に変化があったのか、宮崎県沖では魚が獲れない!という事態が起きていたのです・・・。 毎日のように漁師さんに「今晩こそ出漁できそう?今日がダメなら明日は?」と確認をしましたが、なかなかGOサインが出ません。例え快晴であっても風や波の強さによって、出漁できないことが多々あるのだそうです。
自然の前での人間の無力さ、そして自然相手の仕事、漁業の難しさを痛感しました。
これまで漁業の現場はIT技術が参入することはほとんどありませんでした。特に沿岸域の情報は最後のフロンティアと呼ばれるほど取得するのが難しく、漁業は漁師の経験と知恵に頼るしかなかったのです。
しかし海の天気図の登場によって、漁獲量はアップ!そして無駄な出漁も減少しました。自然に翻弄され、漁師の勘や経験が頼りだった漁業の現場が変わりつつあるのです。

「時間が許す限り漁師さんに会いに行きたい」と話す開発者の渡慶次(とけし)さん。何度も何度も現場へ出向き、生の声を聞く。
そして研究に活かし、現場へ迅速にフィードバック。漁師さんも当初、自分の操業記録を公開するのには抵抗があったかもしれません。 しかし、渡慶次さんの「何とかして漁師さんに役立つ情報を」という熱意が届き、海の天気図が実現したのです。

ところで、これは船上での一コマ。船長の宇戸田さんは魚群発見までの間、無線や携帯電話で楽しそうに会話をされていました。「同じチームの船(探索船)に乗っている仲間と連絡をとっているのかな?」と思いきや、電話の相手はなんと別会社の漁師!「どこに魚がいそうか、潮流はどうか」など、ライバル同士で話し合っているのです! この光景は宮崎ならではだといいます。みんなで漁業を盛り上げよう!と一致団結しているんだとか。とても素敵だなぁと思いました。
このような漁師さん同士、そして渡慶次さんと漁師さんとの信頼関係があるからこそ、海の天気図はより良く発展していっているのだと思います。渡慶次さんは海の天気図のさらなる精度アップに奮闘中です。水温や潮流などの海況が予測できるようになれば、宮崎の、そして日本の漁業の未来はもっと明るくなる!そう信じています。

担当:MRT宮崎放送 田淵 菜々

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