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石原慎太郎「政治家が政治やるってつまらない」玉木正之が述懐

「政治家が政治やるってつまらない」2月1日に訃報が伝えられた石原慎太郎さんが、東京都知事時代に語った一言だ。新宿のホテルのバーでワインを飲みながらその一言を聞いたという、スポーツ文化評論家の玉木正之氏がRKBラジオ『櫻井浩二インサイト』に出演し“文学者・石原慎太郎”のエピソードを述懐した。  

サッカーW杯「北方領土のためにロシアに勝たなきゃ」

石原さんが東京都知事をされていたときに、オリンピック招致のシンポジウムがあったんです。私もパネリストとして参加ましたが、終わった直後に石原さんの秘書から電話がかかってきましてね。「もっと話を聞きたい、ということを都知事がおっしゃってる」ということで、新宿の高層ホテルのレストランに行きまして、1時間ほどオリンピックについて思うことを私が喋りました。そうしたら石原さんから「上のバーに行こう」って言われて、それからさらに2時間、高級ワインを飲みながら。美味しかったですね(笑)

いろんな話をしましてね。石原さんはファイティング原田や大場政夫のボクシングの話を盛んにされました。その中で面白かったのは、石原さんが2002年のワールドカップサッカーのときに「北方領土のためにも、日本はロシアに勝たなきゃいけない」ということを言われたんですよ。私は「ロシアに勝ったところで、北方領土と関係ないです」って言ったら「当たり前だよ。でも負けたら大変だったよ。自信がなくなるから」って。「スポーツってのは、負けないために勝つんだろう」って。

スポーツのナショナリズム化を危惧した石原慎太郎さん

じっくりお話を伺う機会があったのに、そこで非常に残念だったことがあります。1964年の東京オリンピックの後に、石原慎太郎さんがたくさんの文章を残されていたことを、私が知らなかったことです。その文章というのが、2020年の東京オリンピック招致に成功した直後に講談社文庫『東京オリンピック?文学者の見た世紀の祭典』として出たんです。これを読んだらびっくりしますよ。石原慎太郎さんが文学者であるっていうことがものすごくよくわかりますね。1964年の当時というのはIOCの会長が「国旗と国歌をやめよう」って言い出したんですよ。要するに、表彰台で国旗と国歌を出し続ける限り、ナショナリズムとずっと決別できないという理由で言い出したんです。実際にこの意見はIOCの総会で過半数を取ったこともあるんです。それでも国旗と国歌は続いたんですけれども、石原慎太郎さんがそのときに、こんな文章を残しておられます。

優勝者のための国旗掲揚や国歌吹奏を取りやめようという意見には私は大賛成である」

国が持っている原爆の数が金メダルの数に比例するような昨今のオリンピックでは、3か国のユニットを国家という形で数える限り、政治性というものから完全に脱却できない」
完全に、石原さんらしくない。もう少し引用を続けます。

「私は以前、日本人に希薄な民族意識、祖国意識を取り戻すのには、オリンピックは良き機会であるというようなことを書いたことがあるが、誤りだったと自戒している」
要するにナショナリズムってのはスポーツでやるべきじゃないって言ってるんですね。

「民族意識も結構ではあるが、それ以前にもっと大切なもの、すなわち真の感動、人間的感動というものを、オリンピックを通じて人々が知り直すということが望ましい」
オリンピックに民族意識とか、国家意識とか、祖国意識とかを入れるな、ということを、石原さんが言われているんです。これは読んで私も驚きました。やっぱり石原慎太郎さんという方は文学者だったんですね。要するに文学者としてスポーツを見られたときに、そこに政治的なものを入れちゃいけない。という目を持っておられたっていうのは素晴らしかったですね。

「文学者が政治をやってもいいじゃないか」

政治家としてばっかりいろいろ今、語られてますけれども、やはりこの方は文学者であった。冒頭お話しした新宿のホテルのバーでの会話で、そのとき一番面白かったのは「政治家が政治やるってつまらないだろう」という一言。ポーランドだったらピアニストが首相になったりしてるときもあるんですよね。いろんな仕事をしている人が政治をやるから面白いんで、文学者がやってもいいじゃないかと。これ、ある意味正しいですよね。政治屋さんが政治をやるんじゃなくって、他の職業の方が政治をやる。世の中をどのように作ったらいいかということを、いろんな職業の人がやるというのが政治だと。僕は石原慎太郎さんの数々の発言の中で一番面白いと思いましたね

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